#74 剣々諤々コミュニケーション。
――緊急事態ッ!
まずい!
急がないと!
ファーストステラ様どころかセカンドおステラさまも奪われたッ!
《そういえば、もうケガは平気なのか相棒?》
もう三番目の女でもいい!
サードステラさんは私にッ!
せめて!
せめて表彰台には乗りたいッ!
《おい、相棒? まさか、また聞こえなくなったのか?》
とりあえず、食堂は後回しにしよう!
お腹すいてるけど。
でも、そんなことより一刻も早く魔王さんの元へ急がないと!
てゆーか王宮広いな!
ここどこ!?
やばい迷っちゃったかも!
ここどこおおおおおお!?
《相棒おおおおおおッ!! うわああああああん!!》
「あああああ、もううるさいな!! いまサードステラさんの真っただ中でしょうがッ!!」
《聞こえてんのかよ! なんだよサードステラさんって!!》
ティルフィングにかまけた瞬間、私の足はもつれ、広い廊下を盛大に転がった。
もともと本調子じゃなかった体に加え、あちこちに出来た傷のせいで力が入らず、態勢を立て直せぬままごろごろと七回転し、そのまま壁に衝突した。
……いたい。
ティルフィングは、私のすぐ横でふわふわ浮いている。
本当に自由だな、この剣は。
喋るし、浮くし。
蝶々さんたちと一緒で、声は私にしか聞こえてないみたいだけど。
でも逆に、周りから見ると私が一人で喋ってるように見えるから困るんだよなあ。
あと脳内に直接語り掛けてくるあの感じ。
あれで叫ばれると脳が揺れる感覚になる。
たぶん足がもつれたのもそれが原因だ。
《まあ、相棒が元気そうでよかったぜ》
脳内で叫ぶの禁止!
「そういえばティルフィングって、今までどこで何してたんですか?」
《ん? あれからずっといたぜ、魔王城に》
え。
あれからって、魔王さんを倒したときのことだよね?
魔王城に十五年間も?
よく誰にも持っていかれなかったね。
いや、持って行っても自分で動けちゃうから意味ないのか。
《相棒が魔縄で縛られたとき、俺様も一緒に気を失ったんだが、気が付いたら城に取り残されててよ。相棒を呼んでも返事がねえし、とりあえず相棒が抜きに来るまで待つことにしたんだよ。
「あの時みたいに?」
《おうよ。十五年前も、相棒が来るのを待ってたんだぜ? 誰にも抜かせずによう》
「私を待ってた? 何百年間だれにも抜けなかったのは、私に抜かれるのを待ってたってことですか?」
《おう、約束だからな。……って、その様子じゃ、本当になんにも覚えてねえんだな。俺様の名前も忘れてたし! 淋しいぜ、俺様あよお!》
ティルフィングの
うわ、それもしかして涙?
泣いてるのこれ?
すごいなこの剣。
自分の涙で錆びたりしないんだろうか。
いや、そんなことより。
何百年も前の約束って。
私、そんなに生きてないし。
やっぱり誰かと勘違いしてるよね。
「あのー。申し訳ないんですけど、人違いじゃないですかね。私まだ十五歳なんですけど……」
《ハハハハハ! バカ言え。俺様が相棒を見間違うかよ! じゃあ魔王を倒したとき、貴様は0歳だったってのか!? 冗談は服だけにしてくれよ相棒!》
いや、その時の私とは同一人物なんだけど……。
まあでも私、あれから十五歳のままだし……。
あれ。うーん。なんか説明が面倒臭くなってきた……。
《ただよ、ずっと返事が無かったときは、相棒が怒ってるって思ってたんだよ》
「怒ってる? 私が??」
《あの……魔王城で魔縄を投げられたの、俺様が余計なことをしたせいだからよう……》
……んん?
……余計な事……?
『――伝説の剣が勝手に動いてる!?』
『――うわああああ、かか勝手に動かないでえ!』
あ。
《あの時、仲間に責められてただろ? なんとかしなきゃって思って、つい……》
「ぷっ……くくく……」
《お、おい。なに笑ってんだよ相棒》
「そんなの、怒る訳ないじゃないですか。あれは、私が悪いんです」
《で、でもよう……》
泣いたり笑ったり怒ったり喚いたり。
で、今度は悩みごと?
なんて繊細なの、この剣は……。
まあ、でも。
「それに、あれは私を守ろうとしてくれたんですよね? それならむしろ、お礼を言わせてください。ありがとうございます、
《あ、いま、ティルって。……ああ、相棒ぉぉぉぉ!》
うわあああ!
すり寄ってこないで!
自分が剣っていう自覚を持って!
危ないいい!
「今度ティルの鞘を探しましょう。もしかしたら宝物庫にあるかも……」
《おいおい、俺様の為に家を探してくれんのかよ! ホント最高だな相棒!》
剣にとって鞘って、家って概念なんだ。
あとティルのためっていうか、私がケガしないためなんだけど。
まあ、いいか。
《なんかロキがごちゃごちゃ言ってたけどよ。俺様は今の相棒も好きだぜ。友達のために命を懸ける貴様は最高に格好良かった。そりゃあみんなが手を差し伸べるし、愛されて当然だ!》
「まあ、みんなに愛されてるかどうかなんて分からないですけどね」
《いいや、分かるぜ。この王宮に帰ってきた時の、やつらの反応を見てりゃあよ》
え。
アリスやヘル様の反応は聞いたけど。
他のみんなも、なにか反応を示してくれてたって事?
《貴様は、間違いなく勇者だぜ、相棒!》
そう言って、ティルは空中でふわりと一回転してみせる。
確かに私は沢山の人に手を差し伸べて貰ってる。
でもその沢山の中に、あなたもいるんだよ、ティル。
私はもう既に二回もあなたに助けられてる。
うん。だから――。
「――ありがとうございます。あなたも間違いなく伝説の剣で、私の相棒です!」
私たちは、十五年越しのわだかまりを解くことが出来た。
そして再び、勇者と伝説の剣というタッグを組んだのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます