#68 友の名は――。
――業務連絡!!!
私は絶対に魔王さんを諦めない!
でもロキの魔法に捕まったら、その時点で終わる。
それだけは絶対に気を付けないといけない。
そして今、私は武器を何も持っていない。
だけど……やるしかない!
私は両手に魔力を込めて、ロキ目掛けて、駆け出す。
思い出せ。
魔王さんが今まで教えてくれたこと!
レッスン1ッ!!
『――まず魔法の基本は想像だよ』
私はロキへ向けて、火球を放つ。
【
火球はロキを捉え、爆発が巻き起こる。
――が、次の瞬間、煙に紛れて金色の光が輝いた。
ロキの瞳だ!
そしてすぐに地面が黒く光る!
私はすぐに地面を蹴って、後方へ飛ぶ。
光った地面から、黒い針が直線的に飛び出した。
間一髪で避けることが出来た。
予備動作に注意すれば、なんとか
あとは私の魔法。
やっぱりロキには効いてる様子がない。
……それなら!
私はもう一度地面を蹴ってロキとの間合いを詰める。
そして、次の魔法を想像した。
『――奈落ちゃん、水魔法なら流れる水を思い浮かべるとイメージしやすいよ!』
私は、世界で一番美しく流れる水を想像した。
『――……なんだか、月みたいだね』
『――……ありがとうね、奈落ちゃん。……ありがとう』
【
流水は束になり、一筋の輝く光線のように放たれた。
それをロキは、いとも簡単に片手で弾く。
――レッスン2!!
弾かれた流水に向かって、私は想像する。
『――性質変化はもっと簡単、想像だけで大丈夫!』
パキパキと音を立て、弾かれた流水は氷となり、ロキの腕と地面を繋ぐ鎖となった。
よし、これで腕は使えない。
私は更に間合いを詰める。
ロキには魔法が効かないのかもしれない。
それなら、神具である
そしてまさに飛びかかった瞬間。
――ロキの瞳が金色に輝いた。
うっ!!
激しい痛みに目線を送る。
地面から現れた黒い針は、私の脇腹を貫いていた。
鎧が、赤く染まっていく。
激痛に、声が漏れそうだった。
でも。
でも!
負けてたまるか!!
この痛みが!!
友達を失う痛みに勝るもんか!!
「ぅぅぅううううううう
『――何言ってるの奈落ちゃん。友達ならもう出来てるじゃない』
『――わたしたち、もう友達でしょ?』
私は、魔王さんとの絆を、想像した。
貫かれて流れ出る鮮血を、性質変化させる。
固くて美しい、真っ赤な剣を作り出した。
私はそれを手に取り、ロキに向かって振り下ろす。
――ガシャァァァァァァァン!!
それをロキは手で防ぎ、剣は簡単に折れた。
腕を繋いだ氷の鎖も、既になくなってしまっている。
でも。
それでも!
私はすぐに、次の剣を作り出した。
何度折られても。
何度粉々に砕かれようとも。
赤い剣を作り続けた。
目の前で、苦痛に歪む魔王さんの顔を見つめながら。
「魔王さん! 今! 助けますッ!!」
すると、ロキが首を横に振りながら口を開く。
「嗚呼、哀れだね。やっぱり君には救えない」
そして瞳が金色に輝き、私の足元に黒い魔法陣が現れる。
今の私は、針に串刺しにされて身動きが取れない。
現れた黒い針は、私の周りを囲み、ゆっくりと縛り上げた。
魔縄。
力が、入らない。
そのまま、地面に転がる。
くそ……。
くそ……!
「うううううう……!!」
ロキが見下ろし笑っている。
「悲しいね。悔しいね。その感情は、友達を失うからかな? それとも、自分の無力さゆえに?」
両手を広げてくるりと回る。
あれだけの攻撃をしたのに、傷ひとつ見当たらない。
でも。
でも、私は!
『――……友達の願いを叶える。友達の危機を救う。……多くの人を救えないなら、せめてそんな――』
――そんな勇者になれッ! ラクナッ!!
「ううううううああああああああああッ!!!」
ブチン。
「……え?」
初めて、ロキの顔が歪んだ。
私は、魔縄を断ち切って、立ち上がる。
「……魔縄を断ち切った? 自力で? ありえない。一体どうやったんだ?」
ロキは口元を押さえながら、怪訝な顔で思考を巡らせている。
そして、私の状態を見て、何かに気付いたように、笑みを浮かべた。
「……そうか、君は……使い果たしたのか、魔力を。魔縄を破るためにあえて……!」
その……通り。
だからもう、私に魔縄は効かない。
さあ、早くロキを倒さないと……。
魔王……さんが……。
「……なんてやつだ君は。確かに魔物じゃなければ、魔力が無くても死ぬことはない。だが、立っていることすらやっとだろう。そんな状態で僕に勝てると思ってるのかい?」
勝てるかどうか……じゃない。
勝つんだ……。
絶対に……。
魔王さんを……。
ドサリ。
「ハハハハハ! ほら言わんこっちゃない!」
……立て。
……立て、ラクナ。
……立って……!
「じゃあ少しだけ楽しませてくれたから、最後に君の敗因を教えてあげよう」
……動け。
……動け……!
「昔の君は強かった。誰も信じずひたむきで。だが今の君は……臆病なうえに怖がりで。そのくせ他者とは繋がりたがる。挙句の果てには孤独を嫌い、友達なんてものを求めた、弱者の象徴――」
……。
「――だから君は、負けたんだ」
ロキは高らかに笑い声を上げながら背を向ける。
……待て。
……絶対に行かせるな。
……目の前で、友達があんなに苦しんでるんだぞ!
……動け。
……動け!
……私なんて!
……私なんて魔王さんがいなかったら、とっくの昔に死んでいる!
……その十五年の恩返しを!
……私を友達と呼んでくれた彼女に!
……いま返さずしていつ返すんだ!!
……動けよ、私の体!!
……動け、動け、動け、動け、動け、動け!!
……動けええええええええええええええ!!!
《おい!》
……。
《おい、貴様!》
……だれ……?
《随分とヤバそうな状況じゃねーか!》
……この声……どこかで……。
「……だ……だれ……ですか……?」
《うわあ! なんだ! 急に返事しやがった!》
……この声……。
……そうだ……。
……夢で……夢で聞いたことがある……。
「……あなたが……話しかけて……きたんでしょ……」
《今まで散々無視してやがったくせに!》
……無視……?
「……なにを……言ってるんです……?」
《……まさか、無視してたわけじゃなかったのか……?》
「……そんなこと……して……ませんよ……」
《ああくそ! 何か事情があったのか! なんで俺様はそんなことも……ってもうどうでもいいか! なら今から速攻で助けに行くぜ! いいよな!?》
……え……?
「……た……たすけて……くれるんですか……?」
《当たりめぇだろう! それが友達ってもんだ! って、貴様が言ってたことだぞ!》
……分からない。
……分からない、けど。
「ありがとう……ございます……!」
《一瞬で駆けつける! 待ってろ相棒!!》
そして。
突如、空に立ち込める雲が、円状に割れる。
雲間から太陽の光が降り注ぎ、その中心に、一筋の輝きが光の速さで落下する。
目で追う間もなく、その光は私の目の前に突き刺さった。
落下の衝撃で地割れが起き、泉はしぶきを上げて波打った。
《ハハハハハ! ちと急ぎすぎたな。ケガはねえか、相棒!》
衝撃と共に光も収まり、なにが落下してきたのかようやく私の目に映り、理解した。
そこには、豪華な装飾をあしらった、美しい剣が刺さっていた。
私を、勇者にしてくれた、伝説の剣だった。
《おい、いつまで寝てんだ? 俺様の魔力を分けてやった。もう立てるはずだろ?》
……立てる。
立てるよ……!
私は立ち上がり、剣の取っ手を握る。
えーっと。
もし友達なら聞かなきゃいけないこと、あるな。
「……すみません、あなたの名前を教えて貰えますか?」
《……おいマジかよ。忘れちまったのか?》
「……すみません」
《……俺様の名前はティルフィング。そして貴様の相棒だ。二度と忘れるな!》
「はい。絶対に忘れません」
《よし。じゃあ俺様は貴様を全力で助ける。だから、貴様は全力で友を救え!!》
「……はいッ!!」
そして私は、剣を抜いた。
――――――#68 友の名はティルフィング。
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