#63 楽な☆レッスン。

 ――業務連絡ッ!


 つい先ほど魔法で失敗をしました!


 という訳で、魔王さんによる魔法レッスン第二弾のお時間です!


 白衣に黒い角帽、加えて眼鏡と、魔王さんはすごく頭の良さそうな講師ファッション!


 ちなみに私は半袖のシャツに、鉄の手袋ヤーレンソーランを装着!

 そう、いつもの恰好。えへ。


 ちなみに我がチームのリーダー・アリスは、レトさんの元へ帰っていった。

 ようやく仕事に戻り、自分の持ち場へ着いたのだ。

 

 けれど戻る時に条件を出してきて、ひとつは使用人のエプロンは絶対に着ない。

 そしてもうひとつが――。

 


『――お姉ちゃんとは一緒に行動したくない!』



 ――だった。

 

 私がいるとリーダーっぽく振舞えないのだそう。


 という訳で私は一日でヘル様の部屋を出禁になり、アリスチームを実質クビになった。


 ……どうしてッ!!


 まあ気を落としていても仕方ない。

 せっかく魔王さんが、どこから持ってきたのか分からない白衣で魔法のレッスンをしてくれるんだ。

 とりあえずいまは一所懸命がんばろう!

 めざせ魔法使いのてっぺん!

 魔王!


 あれ。

 魔王を目指すことになっちゃった。

 えへへ。


「今日は基礎を卒業して、応用編にいくよー!」


 魔王さんは右手に持つ白い杖をくるくる回してポーズを決める。


 可愛い。

 でもその杖って、この間のお皿かな?

 ガルム紳士に怒られてたやつ。

 もう戻せないのかな?


「今日のレッスンはズバリ、性質変化!」

「せいしつへんか?」

「奈落ちゃんの濡れてる足元、見ててね」

 

 魔王さんは手に持つ杖を地面にトンと突く。

 すると私の足元がぱりぱりと音を立てて凍り付いた。


 おお!

 水が凍った!

 これが性質変化?


「魔法の基礎は、想像・凝縮・解放。氷を放ちたかったら魔力を放出する器官、人間だったら魔道具から出さないといけない。ここまでは分かる?」


 魔王さんは眼鏡を直しながらニコッと笑う。


 ああ知的!

 美人!

 

「はい、分かります! 魔王さん可愛いです!」

「それで、性質変化っていうのは文字通り、炎の火力をコントロールしたり、水を氷に変えたりすることをいうの」

 

 なるほど。

 本来、魔法で氷を作るなら魔道具から放出するところを、すでに地面にある水を性質変化させることでそこから氷を作り出せるってことか。


「魔王さんがヨルムンガントを凍らせたのも、最初に水を放った後に氷漬けにしてましたね。あれも性質変化!」

「そーう! 奈落ちゃんは天才だね!」


 やったあ!

 魔王さんに褒められたあ!


「性質変化が出来るようになれば魔法の幅がもっと広がるし、さっきみたいな暴発も少なくなるよ。じゃあさっそく実践してみようね!」


 魔王さんは杖の先から、小さな火の玉を作り出した。

 ゆらゆらと力なく浮いている。

 今にも消えてしまいそう。


「これを性質変化させてみよう! 火力と温度を上げてみて!」

 

 よーし。


 とりあえず火の玉に向けて両手をかざしてみる。


 ……。


 特に変化はない。


 こういう時は質問!

 挙手だ!


「はい、奈落ちゃん!」

「性質変化も、想像・凝縮・解放を思い浮かべればいいんでしょうか?」

「性質変化はもっと簡単、想像だけで大丈夫!」


 想像だけでいいんだ。

 確かに簡単だ。

 そして想像といえば詠唱!


「じゃあ私の得意な詠唱を加えれば、更に精度が高まると」

「そうだね! 奈落ちゃんは詠唱が苦手みたいだから、記憶と結び付けて想像するのがいいかも! 例えば火力を上げたいなら、気持ちがたかぶる記憶を想像するとか」


 なるほど、記憶かあ。

 火力が上がりそうな記憶。

 うーん。



「――ヨウヨウここはぁドコなのヨウ? 勇者はなんでも即対応!」

『――すごーい! すっかり元気になって、よかったねえ!』



 あああああああッ!!

 どうしてこれを思い出したラクナッ!!


「な、奈落ちゃん!!」


 気持ちがたかぶるというか、恥ずかしさでおかしくなりそう!!

 消せえ!!

 こんな記憶は燃えてしまえええ!!


「奈落ちゃん! 奈落ちゃん!!」


 ん?

 魔王さんが私を呼んでいる。


 気付けば私はまぶたを閉じていたみたい。

 ふと目を開けると、そこには一面の炎が広がっていた。


 てゆーか王宮が燃えていた。


 ……。


 うわあああああああ!!


 火事だ!!


 魔王さんがぱちぱち拍手をした後、私の手を握る。


「すごいよ奈落ちゃん! あの小さな火の玉を、こんな火力に変えちゃうなんて! やっぱり天才だよ!」


 え!

 て、天才ですか!?

 嬉しいなあ。

 また褒められちゃったあ。えへへへへへ。


 ……。


 じゃなくって!!

 みみみ水う!

 消火作業入りまーす!



「――道化を演じてるんだから、このくらいは当然でしょ」



 ……ん?

 今のは誰の声?


 聞きなじみの無い声に、視線を送る。


 そこには茶色い毛に覆われた、大きい尻尾が特徴的な、私の腰くらい大きいリスがいた。


「ラタトスクちゃん! よかった、生きてたんだね!」


 魔王さんが駆け寄る。


「やあ。心配させてしまったようだね。出発の準備は出来ているかい?」

「うん! いつでも大丈夫!」


 ラタトスクが帰ってきた。

 しかもすぐに出発できるみたい。

 それは嬉しいことだけれど。


 ……でもなんだろう、この違和感。

 これ、本当にラタトスク?

 いや、見た目はどう見てもラタトスクなんだけど……。

 

「……ま、魔王さん。このラタトスク、なんか変じゃないですか?」

「そう? ラタトスクちゃんにしか見えないけど?」


 うーん、魔王さんは特に何も感じてないみたい。

 気にしすぎなのかなあ。


 ラタトスクは首を傾げる私を見るなり鼻で笑う。

 

「心配いらないさ。君は自分の心配だけしていればいい」


 そう言って、次はその小さな手を魔王さんへ向ける。

 

「この哀れな王は僕が守るから安心して。この世界で唯一、彼女の味方であるこの僕がね」


 ラタトスクは白い歯を見せて、にっこりと微笑んだ。





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