#62 Boy's adventure.

 ――B-side. ▷▶▷ スルト。


 ボクはスルト!

 偉大なるムスペル族のスルトだよ!

 夢は英雄になることなんだあ!


 今日は狼のおじちゃんと牛のおにいちゃんの三人で、おしごとをしているよ!


「いいっすねいいっすね! 中庭も、この気候なら草木を生やせるかもしれないっすね!」

「ふむ。ヘル様の大好きな緑でいっぱいにするのは良いアイデアですね。なにか種でも植えてみましょうか」


 狼のおじちゃんは、顔は怖いけどすごくやさしいんだ!

 王宮で迷子になったボクをすぐに見つけてくれて案内してくれるし、趣味の『まばたきかぞえ』も一生懸命おしえてくれる!

 『まばたきかぞえ』はぜんぜん楽しくないけど、それを楽しそうに教えてくれるおじちゃんを見るのが楽しいから、おじちゃんといるのはすっごく好き!


 牛のおにいちゃんはお友達になったばっかり。

 茶色い髪にとんがったお耳で、すっごくいけめんなんだあ。

 ただ頭にも牛のお耳がついていて、お耳が四つもあるみたいだけど、まわりの音はどう聞こえているのかなあ。

 

「――いやあああああ! やめてえええええええ!」


 あ!

 ラクナおねえちゃんの声だ!

 今のは悲鳴だった!

 ボクの夢は英雄になること!

 英雄は困った人を助けるのが仕事だ!


 あれ?

 でも狼のおじちゃんがボクに向かって首を横に振っている。


「スルト様。お気持ちは分かりますが、今は仕事を優先しましょう」


 おじちゃん。

 でもボクは、ラクナおねえちゃんとおっきいおねえちゃんのことは何があっても助けるってきめてるんだ!


 あれ?

 でも牛のおにいちゃんもボクの頭をなでながらニコニコしてる。


「大丈夫っすよ、王宮で危険なことなんてそう起こらないっす。それに、ガルム教官は仕事に厳しいっす。ここは黙って教官に従った方がいいっすよ」


 狼のおじちゃん、きびしいんだ。

 そんな感じはしないけどなあ。


 でも、おじちゃんもラクナおねえちゃんのコトは気にしているみたい。

 ずっと悲鳴の先を見つめてそわそわしているもん。


「確かに気にはなります。きっと面白いことが起こっているに違いありませんから」

「面白いこと……? ガルム教官?」


 狼のおじちゃんはキョロキョロしながら、色んな道具を持ってきた。

 黒い土を整地して、庭園をつくるんだって!


「――ひいいいいい! たすけてえええええ!!」


 あ!

 ラクナおねえちゃんの声だ!

 たすけてって言ってた!

 今度こそたすけに行かないと!

 狼のおじちゃんも、さすがにけわしい顔をしてる!


「これは気になりますね。仕事なんてどうでもいいから見に行きたい」

「ガルム教官? なに言ってるっすか?」


 仕事よりも困ってる人を優先するんだね!

 やっぱりおじちゃんは、顔は怖いけどやさしい狼だ!


 あ!

 誰かが中庭に入ってきたよ!


 青くて長い髪に、背が高くて体がおっきい!

 猫耳のおにいちゃん!


「よおガルム。探したぜ」


 猫耳のおにいちゃんもすっごくいけめん!

 髪が長いから隠れてるけど、牛のおにいちゃんみたいにお耳は四つなのかなあ?


 猫耳のおにいちゃんはずっと裸のおじちゃんを探してる。

 でもなかなか見つからないみたい。

 狼のおじちゃんに心当たりを聞きに来たみたいだけど、やっぱり知らないって言ってる。

 

「ラタトスクは行方不明になる直前、ワタリガラスの御二人に詰められていました。ただ、それが原因とは思えませんし何とも……。御力になれず申し訳ありません」

「いや、いいんだ。黒い怪物の話もあるから、もしかして食われちまったんじゃねぇかと思って調べてるんだが、それも無さそうだしな」

「困ったっすねえ。彼がいないと食料も調達出来ないんすよね? 魔王様も地上へ帰れませんし、どうするっすか?」

 

 ――ボカァァァァァァン!!

 

「ああああああ! ごめんなさいいいいいい!!」

 

 あ!

 爆発とラクナおねえちゃんの声だ!

 これは大変!

 早く助けに行かないと!

 狼のおじちゃんも、ボクの顔を見て頷いている!

 

「もう我慢の限界です! 行きましょうスルト様! 仕事をしている場合ではない!」

「えええ!? ガルム教官!?」

 

 狼のおじちゃんは持っていた道具を猫耳のおにいちゃんに預けて走り出した!

 ようし、急ごう!


「おいガルム! なんで俺に持たせたんだ!」

 

 猫耳のおにいちゃんがなんか怒ってるけど、そんな場合じゃない!

 待ってて、ラクナおねえちゃん!



 ◇ ◇ ◇



 ラクナおねえちゃんは、おっきいおねえちゃんと一緒に王宮の外にいた。

 ボロボロのローブを着て、全身黒焦げ。

 でも全身びしょびしょで、地面に座り込んでる。

 眼帯をハチマキみたいに頭に巻いているし、いったいなにがあったんだろう?


「あ! ガルムさん、スルトちゃん!」

「魔王様……これはいったい……!?」


 おっきいおねえちゃんは、なにが起こったのか説明してくれた。

 なにを言ってるのかよく分からなかったけど、まとめるとファッション中に空を飛ぼうとして爆発したから水をかけたんだって!


「間に合わなかったか……」


 間に合わなかったんだって!


 狼のおじちゃんはとぼとぼと王宮に戻って行っちゃった。

 たしかにラクナおねえちゃんを助けられなかったのは残念だなあ。


「うう……スルトくん……」


 あ!

 ラクナおねえちゃん!


「……スルトくん、助けに来てくれたの? ありがとう……すごく、うれしいよ。えへへ……」


 がくっ。


 ああ!

 ラクナおねえちゃんが!


「スルトちゃん、偉いね! はい、これあげる!」


 やったあ!

 ごほうびに、おっきいおねーちゃんから泥団子をもらったぞ!


 ボクはスルト!

 偉大なるムスペル族のスルト!

 夢は英雄になること!

 

 よおし!

 次もおねえちゃんたちを救えるように、頑張るぞお~!





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