#61 此方の軌跡。
――業務連絡ッ!
ヘル様の部屋を出禁になりました!
という訳で、私は暇を持て余しています。
そういえば、外が明るくなりました。
魔王さんが起床して、太陽を作ってくれたようです。
いつもありがとう、魔王さん。
今日のお仕事は終わってしまったようなものだし、日光浴でもして過ごそうか。
本日のプランを考えながらぷらぷらしていると、どこからか賑やかな声が聞こえてくる。
「あ! すごい! 可愛い~!」
むむ。
なんて楽しそうな声なんだ。
これは地下……宝物庫か!?
私は今とても暇だし、ちょっと覗いてみよう!
「ううう。お、お恥ずかしいですわあ~」
宝物庫では魔王さんとシンモラさんとヨルムンガントの三人、
「いいわシンモラン☆ やっぱり乙女は恋の力で綺麗になるわね♡」
シンモラン……。
そんなモンブランみたいな呼び方……。
シンモラさんがいつもの黒いドレスに加えて、ヘッドドレスや煌びやかなネックレスなどの装飾を身に着けている。
すごく綺麗。
「そういえば、シンモラちゃんとヨルちゃんって昔からの知り合いなんだよね?」
さすが魔王さん。
もうヨルちゃん呼びかあ。
でもそういえばそうだった。
そもそもシンモラさんはヨルムンガントが送り込んだスパイだったって話だよね。
「そうでございますわ。もともとアースガルズという国でお三兄妹の皆々様とは仲良くしておりましたの」
ふーん。聞いたことない国だなあ。
「ヘルが奈落の管理者になったとき、あの子の状況を報告してもらうために使用人として加わってもらったのよ。そして隙あらば、強引にでも攫って来て頂戴とお願いしたの☆」
「それならヨルちゃんが自分でやればよかったのに。シンモラちゃんすごく辛そうだったよ?」
うんうん、そうだよね。
シンモラさんの泣いてる姿、今でも胸が締め付けられる。
「アタシがヘルに近づいたら狙いがバレバレだし、それに他にもやることが……って、それは言い訳ね。辛い思いをさせてごめんなさい、シンモラン」
「そんな、おヨルムンガントさま! ワタクシもおヘルさまをお救いしたい気持ちは一緒でしたのですわ! どうか謝るのでしたらワタクシに罰を……ッ!」
「それもそうね☆」
早いな!!
あとおかしいでしょ謝るなら罰って。
「よーし! じゃあ二人が仲直りするために、わたしが罰を与えるよー!」
あれえ?
なんでそうなるの?
魔王さんが両手をかかげると、炎が生成される。
大丈夫?
王宮吹き飛ばない?
塔みたいなやつ全壊したよ?
私が扉に手をかけ緊迫の状況を覗いていると、急に耳元で声がした。
「お姉ちゃん、なにやってるの?」
「うわあああああ!」
驚いて床に倒れこむ。
見上げると、そこには同じく驚いた様子のアリスがいた。
行方不明のリーダー!
あなたこそ何やってたの!
「あれ? 奈落ちゃん?」
しまった!
見つかった!
「あらん、アリスチームの二人じゃない☆ 二人でサボタージュのマリアージュかしらん?」
◇ ◇ ◇
せっかくなので、私たちは五人で宝物庫の整理をすることになった。
「それにしても、リーダーは逃亡、勇者ちゃんは出禁とは☆ とんだダメダメ駄メイドさんたちね♡」
アリスチームは崩壊しています!
「初めまして、だよね! よろしくねアリスちゃん!」
ああ、さっそく魔王さんが挨拶を。
これはコミュ
「ああ、よろしく。あと私のことはリーダーと呼ぶがいい」
うんうん。
こうやってヨルムンガントたちもリーダーと呼ぶことになったんだね。
正直アリスの話を聞いて、私は心配してた。
『――迫りくる魔物どもをお姉ちゃんの仇だと思って一匹残らず殺しまくったからねえ』
魔王さんは魔物の王。
なにかよからぬことが起こるのではないかと。
でも案外アリスは落ち着いていて。
もしかしたら私の誤解が解けたからかな?
なんにせよ一安心。
「あの、そういえばヨルムンガントが出会ったころのアリスってどうでした? 大変じゃなかったですか?」
「大変も大変☆ 食べられちゃうかと思ったわよ」
……やっぱり。
「パックンチョ☆」
ヨルムンガントは蛇足を交じえながら当時のことを話してくれた。
落下して気を失っているアリスをたまたま見つけ、アジトとして使っていた塔で介抱したらしい。
目を覚ますと「お姉ちゃんの仇」と鬼神の如く暴れまわり、手が付けられなかったとか。
ヨルムンガントが「アタシはどちらかというと魔物だけど魔物じゃない」という言葉と、ラティさんレトさん含め三人がリーダー呼びをすること、お姉ちゃんを探す手伝いをすること、という話をしてようやく落ち着いたらしい。
アリスの中でリーダー呼びがとても重要なことは分かった。
まあアリスが魔王さんをみて暴れないのは、ヨルムンガントを始めとした三人のお陰もあるのかもしれない。
三人とも魔物だけど良い人たちだからね。
なんなら今アリスチームの仕事はレトさんが一人でやってくれているし。
ごめんねレトさん。
「うう、頑固で我が儘な妹を見捨てずに……その節はありがとうございました」
「いいのよ☆ 事情を聞いたら、放っておけなくなったんだから。姉を探して奈落に飛び込むなんて、アタシたちが助けようとしているヘルそっくりだったんだもの☆」
ああ、そっか。
ヘル様は奈落に封印されたフェンリルを探すために、奈落の管理人になったんだもんね。
確かにそっくりだ。
ヘル様を見るたびに妹を思い出すって思ってたけど、本当に似てるんだ、この二人。
「わ! スタイルいいねアリスちゃん! すごく似合ってる!!」
「む、そうか? 魔王、貴様の甲冑も妖艶でなかなか似合っているぞ」
「ふひひ、やった! ありがと!」
なんかもう仲良くなってるう!
さすがこの二人。
人間と魔物が仲良く暮らせる世界も、ぜんぜん夢じゃないって思えるね。
「姉妹でもファッションセンスは似ないんだね」
「ああ、そもそもお姉ちゃんは防具屋に入れないからな」
あう。
確かにアリスはお洒落だし、スタイルもいい。
「あらん☆ 勇者ちゃん、そういえばとんでもなくダサいわね☆」
「お奈落さま! 今度こそその馬糞ファッションを改善して差し上げますわあ~!」
むむ!
なぜか私のファッションの話に!
まずい、このままじゃまた魔王さんに叱られる!
それどころか、またしてもヨルムンガントにマウントを取られる予感!
私は四人にじりじりと詰め寄られ、後ずさりをする。
入口まで下がってこのまま逃げようかと考えていると、背中が何かにぶつかった。
振り返ると、冷たい眼差しをしたフェンリルが立っていた。
「なに見てんすかッ!」
「だからなんでキレてんだオメェは!」
どうやら引き続きラタトスクを捜索中らしい。
しかし全く見つからず、手がかりとしてアリスを探していたという。
アリス?
どうしてアリス?
アリスも首を傾げながら顔を曇らせている。
「なんだ? 殺されたいのか?」
「おい。オマエら姉妹はどうなってんだ?」
ビッグパーティーでラタトスクを斬った剣。
そこに付着した血液で魔力感知出来ないかと考えたらしい。
しかし……結果は見つからず。
ラタトスクはいったいどこへいってしまったのか――。
「うん! まあ見つからないならしょうがないね! さあ奈落ちゃんのファッションコーデ再開だよ!」
――なんてことは誰も思わず。
無情にもファッションチェックは再開されてしまうのだった。
どうしてッ!!
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