Chapter8-友の名は。

#60 楽な☆ワーキング。

 ――業務連絡ッ!


 変態全裸ファッションリーダーのリス!

 ラタトクスが行方をくらましました!


 探せども見付からずに数日が経ち。

 結局旅立てぬまま、今日もお仕事の時間がやってきました。


 新しい朝。


 ……いや、正確にはまだ朝ではありません。

 外は真っ暗です。


 使用人の朝は早い。


 そう言って大先輩のレトさんに叩き起こされました。

 

「ふぎゅ~。ドトゥーさん、寝癖がすごいですう」


 ドトゥーさんって誰やねん。


 ちなみに人数が増えたので、これからはチームごとに分かれて作業を分担するそうです。


 まずガルム紳士チームはラティさんとスルトくんの三人。


 次にヨルムンガントチームは魔王さんとシンモラさんの三人。


 そして最後にアリスチームは私とレトさんの三人。


 ちなみに新人のアリスがチーム名なのは、リーダーじゃなきゃ嫌だと駄々をこねたのだそう。


 まあ私はリーダーとか逆に嫌なので、むしろ名乗り出てくれてありがたいんだけど。


 ふと視線を下ろすと、レトさんと目が合った。

 なんだか私をじっと見つめている。


 そういえば、あんまりまじまじと見たことなかったけれど、レトさんって可愛いよね。

 ピンクの髪に、小さな牛の耳が生えていて。

 目も大きいし、なんかいつも泣きだしそうにうるうるしてる。

 背も私より小さいし、いつも手を前に組んでもじもじしてて。

 喋り方もふわふわしているし、なんだかとにかくすごく可愛い。

 使用人のエプロンドレスもすごく似合ってる。


「あのう、ドトゥーさんはどうしてエプロンの上から服を着ているんですかあ?」


 レトさんとお友達になりたいなあ。

 今日のお仕事を通じて、なんとか仲良くなれないかなあ。

 

「あ、あのう~」


 そういえば、魔王さんとはどうやって仲良くなったんだっけ。

 うーん、思い出せない。

 でもきっと、魔王さんが沢山歩み寄ってくれてたんだと思うんだよね。

 よーし。

 今回は私から歩み寄っちゃおうかな!

 ゴーゴーコミュキン


「ド……ドトゥーさあ~ん……?」

 

 でもどんな話をしようか。

 たしか魔王さんの時は、私のおもしろギャグが炸裂して場を盛り上げたんだよね。

 うーん、あんなに面白いのはなかなか簡単に思いつかないぞ。

 となれば共通の話題。

 

 あ。

 そうか!

 魔王さんやアリスの話をすればいいんだ!

 きっとお互い知らない話が沢山あるはず!

 

 ……あれ?


「そういえば、アリスはどこにいるんですか? まだ寝てる?」

「ふぎゅ~。リーダーはエプロンドレスを着るのが嫌で、どこかへ行きましたあ~」


 ええ!?

 リーダー逃亡!?

 自分からリーダーを志願しておいて!?

 アリスチームなのにアリスがいないの!?


「まあ大丈夫ですう。リーダーの分もレトが頑張りますう」


 レトさんは両手で拳を作り、笑顔で頷いている。


 レトさん良い人だなあ。

 そして妹がごめんなさい。

 私も妹の分まで頑張ります。


「じゃあさっそく最初のお仕事ですう。ヘル様を起こしに行くですう」


 ヘル様を起こしに?


「ヘル様って寝るんですか? 一生玉座に座ってるんじゃないんですか?」

「そ、そんなことは無いんですう。ちゃんとお部屋でお休みするんですう」

「え! ヘル様に部屋ってあるんですか!?」

「も、もちろんですう。ヘル様はこの王宮で一番エライ方なんですう」


 そうだったのか。

 もう謁見の間がヘル様の部屋だと思ってた。

 でもヘル様の部屋かあ。

 すごく興味あるなあ。

 このまえ魔王さんのお部屋を見たばかりだし。えへ。

 

 よーし!

 そうと決まればヘル様のお部屋へレッツゴーゴーゴー!

 

「ふぎゅ~。ドトゥーさん、そっちじゃないですう~」



 ◇ ◇ ◇



 両開きの重厚な扉。

 これだけで、王宮の主であることがわかる。

 どんなすごい部屋なのか。


 ごくり。


 私がノックをしようとすると、レトさんがポンポンと肩をたたいて指をさす。

 その先は扉の横についている鐘を指していた。


「ノックの代わりにこの鐘を鳴らすですう」


 すごい。

 ノックまで仰々しい。


 カランカラ~ン。


「やかましいわ! 普通にノックせい!」


 中からヘル様の声が聞こえてくる。


 あれ。

 なんか怒られましたけど。


「大丈夫ですう。ああやって怒るのはいつものことですう」


 ああやっていつも怒るなら、普通にノックしたほうがいいんじゃ……。

 ま、いいか。


 私は重い両扉を、両手で勢いよく開けた。


「たのもう!」


 部屋は予想通りに広かった。

 しかしそんなことより。


 壁一面に広がるミントグリーンに、パステルピンクの床。

 そして天蓋付きのベッド。


 なんて可愛いお部屋!!


「やったあ!」


 私は吸い込まれるようにベッドへダイブした。


 すごーい!

 大きくてふっかふか!

 バインバインだあ!

 

「こらラクナ! なにをやっておるんじゃ!」


 ヘル様がエプロンドレスの裾を両手で引っ張っている。


 ああ、ちょっと!

 いまいいところなのにぃ!


「ちょ……やめてください……ちょっ……なんすか!」

「なんすかじゃないわ! わらわのベッドで寝るでない! お主なにしに来た!?」

「ヘル様を起こしに来たんですよ! ちょっとくらい寝ても良いじゃないですかッ!!」

「なんでお主がキレとるんじゃ! 寝るなら自分のベッドで寝んか!!」

「いま仕事中ですよ!? そんなこと出来るわけないじゃないすかッ!!」

「じゃあこれも駄目じゃろうが! お主の基準はどうなっておるんじゃ!!」


 ヘル様とベッドの取り合いをしていると、ふと視線を感じてそちらを見る。

 そこにはとても冷たい視線を向ける、フェンリルが立っていた。


「なに見てんすかッ!!」

「なんでキレてんだテメェは!」


 どうやらフェンリルは行方不明になったラタトスクを探して周辺をパトロールしていたらしい。

 しかし結果は見つからず。


 その報告を聞いて、ヘル様はふうとため息をついた。


「……兄上が蝶々を追いかけて行方不明にならぬか心配だったが、どうやら杞憂きゆうだったようじゃ」


 なにを心配してるの?


 それを聞いて、レトさんがもじもじしながら首を横に振る。


「ふぎゅ~。そうじゃなくて、ラタトスクさんがいないと食料が調達出来ないですう~」


 いや、そうだけども。

 ズレてる。

 心配するところズレてる。


「ヘル様、レトさん。そうじゃなくて、そもそも邪竜のところへ案内出来る人がいなくなっちゃったんですよ!」


 私たちがお仕事そっちのけで揉める中、冷ややかに見つめる視線がひとつ。


「……ここにはラタトスク自身を心配するやつはいねぇのか……」

 

 フェンリルは哀し気な表情で、一際大きいため息をついた。





 

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