#52 解甲帰田ウェイホーム。
――業務連絡ッ!
黒い大地だけが延々と続く帰り道。
フェンリルとヨルムンガントが大きい体に姿を変え、みんなを乗せて王宮を目指しています。
フェンリルにはヘル様と魔王さんとシンモラさん。
ヨルムンガントにはアリスと牛の獣人さんの二人。
そして私は――。
「ちょ、ちょっと。なんでお姉ちゃんがこっちに乗ってるの」
アリスがひそひそ声で私に話しかける。
そう。
私はヨルムンガントの背に乗っている。
なぜこっちに乗ってるかなんて、私が聞きたいッ!
どうしてッ!
メンツ的に、私は絶対フェンリルチームでしょう!
こっちアリス以外ほぼ面識ないよ!!
「お姉ちゃんがいると、リーダーっぽく振舞えないんだよお。やりにくいよお」
頼みの綱のアリスもこんな調子だし!
そもそもリーダーっぽいってなによ!?
知らないよ!!
ああああ鱗がゴツゴツしててお尻も痛いよう!
フェンリルはもっふもふだったなあ!
ああああもふもふしたいなあ!
あ。
魔王さんたちが笑ってる。
楽しそう。
どんな話してるんだろう。
うううう。
私抜きであんなに楽しそうに。
混ぜてえ!
私も混ぜてよお!
「おーい! 奈落ちゃーん!」
あ!
魔王さぁぁぁぁん!
助けてぇぇぇぇぇ!
「ごめんねえ! フェンリル、定員が三人までなんだってー!」
くぅぅぅぅん!
くぅぅぅぅん!
「淋しいけど、またあとでー! アリスちゃんと仲良くねー!」
魔王さんは金色の髪をなびかせながら、優しくこちらへ手を振った。
ううう。
まあ定員オーバーなら仕方ないかあ。
とはいえ、アリスはずっと顔を赤くしたまま俯いて、両手の人差し指をくるくるさせてるんだよなあ。
「ども! 勇者さんっすよね!」
「ふぎゅう、思ってたよりとっても可愛いですう」
突然、牛の獣人さん二人が体を寄せて話しかけてきた。
うわわわ!
ほぼ初対面でしかも二人!
そんな急に同時に距離を詰められると、どうしていいか分からないいい!
と、とりあえずこういう時はお日柄の話ッ!
鉄板のお日柄トークだッ!!
「どどどどうも! ほほ本日もごごご愛顧、あ、違……まことに……ラクナです」
落ち着けラクナッ!!
「マコトニラクナさんっすか? ども、ラティっていうっす!」
「ふぎゅ! レトといいますう。よろしくです、マコトニラクナちゃん」
ああああまた変な名前になっちゃったああああ!!
すると俯いていたアリスが急に顔を上げて口を開く。
「おい。そんな変な名前な訳ないだろう。ラクナ様、もしくはロードトゥーラクナと呼べッ!!」
どっちも嫌なんだけど!!
「ろ、ろーどとぅー?? と、とりあえず分かったっす」
分からないで!!
「ふぎゅう。長すぎて覚えられないですう。ドトゥーで良いですかあ?」
ラクナがどっかいった!
てゆーか略し方が独特ッ!!
「ふん、良いだろう」
良くないよ!!
なんだロードトゥーラクナって!!
「ラララクナ! ラクナでいいです、二人とも!」
はあああ。
なんか、すごく体力を消費しちゃった。
やっぱりコミュニケーションを取るって大変だなあ。
魔王さんはこういうのいつもスムーズで、ホント尊敬する。
私もいつか、コミュニケーションの王と呼ばれるように頑張ろう。
めざせ、コミュ
あれ。
そういえばこの二人って、魔王さんの知り合いだったんだっけ。
あれからどうなったんだろう?
「あの、ラティさんとレトさんって、魔王さんとどういうご関係で……?」
「ああ! 俺達、むかし魔王城で暮らしてたっす」
「だから、まおー様のことも、ロリまおー様のころから知ってるんですよお」
ロ、ロリまおー様……。
ごくり。
そっかあ。
じゃあ塔では昔話に花を咲かせてた感じなのかな。
不穏な空気だったから心配だったけど、良かったあ。
「いやあ、魔王様がラクナさんをべた褒めしてたんで、話したかったんすよ!」
え!
魔王さんが私を!?
えー。
えへへへへへー。
「魔王様のこと、よろしく頼みまっす! ラクナさん!」
ラティさんが真っすぐな眼差しで両手の拳を握る。
魔王さんをよろしくって、どういう意味だろ。
うん、まあ、でも。
もちろんですとも!
「ちなみに、リーダーもべた褒めしてましたよお?」
え!
アリスも!?
わあああ。
嬉しい。
えへへへ。
すると突然アリスが立ち上がった。
「し! ししししてない!! べた褒めなんて!!」
え。
してないの?
てゆーか急に立つの危ないよ?
落ちちゃうよ?
「えーと、アリス?」
「あ! いや、お姉ちゃ……違……!」
「大好きじゃなきゃ、わざわざ自分から奈落に飛び込んだりしないっすよ!」
「だだだ誰が大好きなものか!! なんだったら大嫌いだ!!」
「ア、アリス。大丈夫?」
「いや! ちち違うよ!? 大好きだけど……その……!」
「やっぱり大好きなんですう!」
「ああああああああッ!!」
うわああ!
なんかよくわかんないけど壊れる!
アリスが壊れちゃう!!
「駄目だ! 私は降りるッ!!」
降りる!?
何言ってんのアリス!?
ヨルムンガントの背から飛び降りようとするアリスを、私たちは三人がかりで必死に止めた。
び、びっくりしたあ。
にょろにょろ進んでるけど、フェンリルと並んで走ってるから相当スピードは出てるよね。
落ちたら大けがじゃ済まないよ。
「テメェら! 王宮が見えて来たぜ!」
フェンリルがこちらに視線を送りながら知らせる。
やった。
とうとう帰ってきたんだ。
……ん?
王宮の門の前に、誰かいる……?
「おーい! 待っとったでえ!」
この声は、ラタトスク!
小さい体でめいいっぱい手を伸ばしてぴょんぴょん飛んでいる。
「さあ約束の時間や! ニーズヘッグのところに行くでえ勇者! 魔王!」
うわあ、忘れてた!!
え!
このままの足で今度は邪竜のところへ行くの!?
「勇者も魔王も今は疲れておる! 邪竜は延期じゃ!」
ヘル様が腕を組みながら、フェンリルの上で仁王立ちをする。
すごい安定感。
よく落ちないな。
「あかん! 約束は約束や! ケツひっぱたいてでも連れてくで!」
「そうか、ならば仕方ない! 兄上、そのまま突っ込めえ!」
「了解!」
「アカァァァァァァァァンっ!!」
減速することなく本当にそのまま突っ込んだフェンリルを、ラタトスクは間一髪で横に飛んで避けた。
ごろごろと黒い地面の上を転がる。
「なにしとんねえええん! 危ないやろがあああ!」
「おっと、すまんすまん」
泥だらけで膝をつくラタトスクの前に、フェンリルから降りたヘル様がいつもの仁王立ちで見下ろしていた。
「とりあえず邪竜の話は王宮でしようではないか」
「いーや! このまま出発や!」
「ほれ。とりあえず中へ入らんと、あの恐ろしい大蛇がお主を丸のみにしてしまうかもしれん」
「パックンチョ☆」
ラタトスクは陽気な大蛇を視界に捉えると、一気に青ざめ体を震わせる。
「ヨ、ヨ、ヨルムンガントやああああああっ!!」
大声で叫ぶや否や、猛スピードで王宮へと駆けて行った。
……すごい過剰な怯え方だったな。
なんか、トラウマでもあるんだろうか。
「ふふふ、賑やかですね」
む。
この声は!
「皆様、お待ちしておりました」
ガルム紳士が門から私たちを出迎える。
一人一人の顔を確認するように、ゆっくりと見渡しお辞儀をした。
「おかえりなさいませ。よくぞご無事で!」
私たちは満面の笑顔でお返しした。
「はい! ただいま戻りました、ガルム紳士!」
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