#46 回心転意のメリーゴーランド。

 ――業務連絡ッ!


 私とフェンリルは階段を上がり、二階へとやってきました。

 やっぱり魔王さんのことは心配だけど、逆に私たちがぱぱっとヘル様とシンモラさんを助けちゃえばいいんです!


「あらん。金髪のふんわりガールは来ないのね☆」


 ヨルムンガントが腕組をして仁王立ち。

 私たちを待ち構えている。


 それにしても、この兄妹たちは揃ってそのポーズ好きなんだなあ。


「は、はい。魔王さんは、下にいた二人がお話しあるみたいで……」

「あらあらあらあらん。あの子、魔王だったのね。それなら納得! 納得高速スピン☆」


 ああもう、また回り出したよお。

 全然話が進まないよお。


「テメェ! さっきより回転のキレが増してんじゃねえか!」


 フェンリルはどこ突っ込んでんだよお。


「メルシーボーク☆」


 やかましいよお。

 誰か止めてよお。

 アリスう。

 アリスはどこなのお。

 もうあなたしか止める人がいないよお。


「アリスはどこですかッ!」

「あらん。助けに来たヘルよりも、あの子が心配? 妹想いね、勇者ちゃん♡」


 しまった!

 ついッ!!


「で、ヘルはどこだ。更に上の階にいるのか?」

「ヘルの前に、もう一人の妹を心配して頂戴☆ この壊れかけのメリーゴーランドをッ!」


 壊れかけっていうか、もう壊れてませんかそのメリーゴーランド。

 フェンリルも黙っちゃいましたけど。


 きゅるるるるるる。


 ……。


 いやもうなんの時間ッ!?

 目が回りそうなんですが!!


「おい勇者! あの壊れた弟をなんとかしろ!」

「わわ私に振らないで下さい! お兄ちゃん! 猫耳のお兄ちゃんが何とかしてください!」

「誰が猫耳のお兄ちゃんだ!!」


 くそう、早く先に進みたいのに。


 よし、仕方ない。

 こうなったら魔法を使おう。

 久しぶりに詠唱付きで、最高火力の魔法をぶつけるッ!


 ……こほん。


「太陽咲いたよニッカニカ!」

「あはん☆」

「おひさま笑ってぽっかぽか!」

「うふん♡」

「うん、生きてるってこういうことだよね……」

「アタシもそう思うわ☆」

「大地よ! 火山よ! 太陽よ!!」

「そして川よ☆ 滝よ☆ 母なる海よ☆」

「我が身を永遠に――」

「温めて頂戴ぃ☆ あったかいんだからぁぁぁぁぁぁぁ☆」

「あああああもううるさいな!! 兄弟そろって!!」

「いや、俺は何も言ってねぇよ!!」


 駄目だあ!

 全然集中できなかった!

 うるさい!

 合いの手が!

 なんなら最後は決め台詞とられた!!

 くそう!

 陽キャパワーを如何なく発揮された!!


 ……とりあえず詠唱は諦めよう。


「あの、沢山質問があるのですがよろしいでしょうか……?」

「メルシーボーク♡」


 煙を上げながら、ピタリと回転が止まる。


 やっと止まったよお。

 こちらこそメルシーボークありがとうだよお。


「どうして私たちをここへ呼んだんですか?」


 わざわざ手がかりまで残したって事は、そういう事なんだよね?


「理由は色々あるわよ♡ ヘルを攫ったら追いかけてくるのか試したかった、とか。んまあ兄さんが居たのは完全な誤算ね☆ けど、一番の理由はアナタとリーダーに話をして欲しかった」

「……その、アリスはどうして奈落に居るんですか? どうしてリーダーなんですか?」


 私の質問に、「ふふん♡」と鼻を鳴らして二又の舌をぺろりと出す。


「それは、上に居る本人へ直接聞いてあげて☆ お目当てのヘルもそこに居るわよ♡」


 微笑みながら、まるでエスコートをするように階段への道を開ける。

 

 やっぱり、敵意は感じないんだよな。

 すんなり道を開けてくれるし。


 私はちらりと視線を横へうつすと、フェンリルと目が合った。


「先に行け。さっきみたいに邪魔されねぇ様、俺がコイツの相手をしておいてやる」

「フェンリル……」

「ヘルを頼んだぜ」


 その言葉に背中を押され、私は歩みを進める。


 ヘル様がこの上に居る。

 魔縄で縛られているなら、早く助けてあげないと。

 

 途中で後ろから「勇者」と私を呼ぶ声が聞こえ、振り返る。


「妹に会えて良かったな。ちゃんと、話をして来いよ」

「……はい。ありがとうございます」


 私は階段を上り、進む。

 家族の待つ、最上階へと。





 

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