#36 楽な☆インタビュー。

 ――業務連絡ッ!


 シンモラさんに手伝ってもらい、鎧を脱ぎました!


 そして魔王さんにスープを振舞う為、厨房にやってきたところです。


 厨房には大きな貯蔵庫があり、ここに沢山の食材が保管されている。

 過去に、魔王さんが空間を直結したのもココだ。

 ヘル様の魔法で庫内の温度は五度に保たれていて、長時間の食材保管を可能にしている。


 ガチャリ。


 貯蔵庫を開けると、食材がパンパンに補充されていた。

 リスの魔物、ラタトスクが運んで来たのだろう。


 これだけの食材があれば、更に色んな料理が作れそう!

 よーし、魔王さんがお風呂を上がるまでに新作スープを作っちゃおうかな!


 あ。


 折角だし、みんなのごはんの好みも聞いちゃおうかな。

 今までヘル様と魔王さんしか聞いたことなかったし。

 これだけの食材があれば、なんでも作れるもんね!


 多くの舌を唸らせた料理人ラクナ、いざ出陣!

 ぶおおー、ぶおおー。(ほら貝の音)



 ◇ ◇ ◇



「食べません」


 ガルム紳士はきっぱりさっぱりあっさりと、淡白に言い放った。


 むぐぐ。

 食べるか食べないか、ではなく好みを聞いているのに。

 まあ確かにシチューも作ってるところしか見たことないな。


「……えーと。もし食べるならどんなのが良いですか?」

「そうですね。トリ肉……」

「トリ肉ですかあ。うーん、貯蔵庫には無かったかもですね」

「いえ、トリならいつも奈落の空を飛んでいるではありませんか」


 ……もしかして、ワタリガラスのことを言ってる?

 この人、トリ肉を食べたいんじゃなくて、私とカラスの戦いを見たいだけなのでは?


「ガルム紳士、その手には乗りませんよ。あなたは私とカラスの争いが見たいだけでしょう」

「その通りでございます。我が友が果敢に勇猛に無謀に強敵へ挑む様は、私にとってどんな物よりも替え難い極上のご馳走なのでございます」


 サイコパスか!

 さりげなく無謀とか言ってるし。

 ごはんの好みを聞いてるのに!

 なんだこの紳士は!

 何の話をしている!


 もういい、次だ!

 この人には、さっき拾った泥団子でも食わせよう!



 ◇ ◇ ◇



「そうですわね。しいて言うなら金銀財宝、ですわね」


 シンモラさんは視線を少し上に向けながら、私の質問に答える。

 いや、答えていない。


 私は食べ物の好みを聞いている。

 なんだ、金銀財宝って。

 かじるんか? おーん?


 そういえばすごく今更だけど、シンモラさんって魔物なんだよね?

 見た目は長い黒髪のお嬢様って感じで人間そのものだけど、宝物庫に閉じ込められて生きていられるってことはそういう事なんだよね?


「あとは、やっぱり断罪が好きですわ」


 断罪?

 なにそれ美味しいの?


 ……どうして!

 ここの人たちはどうしてまともに答えてくれないの!?


「ワタクシは、禁断の恋に身を焦がす咎人とがびと! 嗚呼、どうか断罪してくださいましっ!」


 よし。

 この子もアレだな。

 泥団子でいいな。



 ◇ ◇ ◇



「ボクはね、どっちかっていうとラクナおねーちゃんが好きだよ!」


 スルトくんは小さい体から両手を伸ばし、ぴょんぴょん跳ねながら私の質問に答える。

 いや、答えていない。


 スルトくん。

 私は二択を迫っていないし、どんな食べ物が好きかを聞いたんだよ。

 まじめに答えないと泥団子食べさせるよ?


「だからね、ボクは強くなるの! 強くなって、助けてくれたラクナおねーちゃんとおっきいおねーちゃんに恩返しするんだ!」


 カラスから助けた時のことを未だに想ってくれているんだ。

 スルトくんは優しい子だなあ。

 というかアレを判定な時点で優しい子だ、キミは。

 

 その優しさに免じて泥団子は免除とする!


 ……えーっと。

 次で最後かな?



 ◇ ◇ ◇



「あなたの好きな食べ物は泥団子ですね?」

「なんだ突然! 泥団子な訳あるか!」

 

 フェンリルは自室の椅子に腰かけながら、険しい表情でこちらを睨みつけた。

 

 そもそもフェンリルは、食事をしているところすら一度も見たことが無いなあ。


「ちなみに食事ってするんですか?」

「ほぼしねえな。魔法を使わねえから、そもそも魔力を消費することがねえんだ」


 魔物にとって、食事や睡眠は魔力回復のための行為でしかないんだよね。

 ってことは、フェンリルはそのどちらもする必要がほとんどないわけだ。

 ……うらやましい。


「まあしいて言うなら樹木の葉や根がうまいな。野菜もいい」


 葉っぱ!?

 野菜!?

 まさかの草食系!

 というかヘル様とまるで真逆!


「分かりました。では、とっておきの泥団子をこさえておきます」

「話聞いてたのかテメェ!」



 ◇ ◇ ◇



 私は自分の寝室に戻ってきた。

 そのままベッドへ横になる。


 ぐぬぬ。

 結局、誰もまともな返事をくれなかったなあ。

 まあ魔物は食へのこだわりはあんまり無いってことなんだろうね。

 まあいっか。

 とりあえず今日はいつものシチューと魔王さんのスープを――。


 コンコン。


 あれ、このノックは。


「魔王さん!」

「せえーかい! にひひ!」


 太陽みたいな眩しい笑顔で、魔王さんが顔を覗かせる。


「お風呂あがったんですね!」

「うん! それでラタトスクちゃんと会って、邪竜の話とかも聞いたよ!」


 おお、それは話が早い!

 それにしても、もうラタトスクちゃん呼びかあ。

 さすが魔王さん。


「すみません、魔王さんがいないまま勝手に話を進めてしまって……」

「ううん、わたしも奈落ちゃんと気持ちは一緒! さすがはわたしの友達だ! ふひひ」


 魔王さんはそのまま窓際まで歩を進め、窓越しから淡い光差し込む空を見上げる。


「最初は抜け出せないって言われてショックだったけど、希望が見えて来たね。本当に良かった!」


 うん。

 色々あったけど、これで素材を手に入れられればいよいよ奈落を脱出出来るかもしれない。

 でも結構歩くって言ってたっけ。

 準備しなくっちゃあ。


「よーし、じゃあ出発前にパーティーしよう!」

「ぱ、ぱーちー?」

「みんなとしばらく会えなくなるの、淋しいじゃない! だから、旅立つ前にパーティーしたい! わたしが料理を振舞うから!」


 みんなと会えなくなるから、か。

 魔王さんらしいや。


 ……ん。


「魔王さんの料理!?」

「うん! 実は結構勉強してるんだよ、ヘルちゃんと一緒に!」


 ヘル様と一緒に!

 いつの間にそんな交流を!


「よーし、ヘルちゃんと勉強の成果を発揮するよ! わたし達二人で頑張って料理するから楽しみにしてて!」

 

 魔王さんとヘル様の料理!

 

 わあ!

 すごい!

 なんでだろう!

 胸の高鳴りよりも、胸のざわつきが勝っているよ!





  

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