#37 最高のパーリーでパーリーナイトだぜ。
――緊急事態ッ!
魔王さんとヘル様の料理が振舞われるッ!
私は食堂で席に着き、二人の料理を待っている。
テーブルには私のとなりにシンモラさん。
その更にとなりにガルム紳士。
そして正面にはスルトくん。
そのとなりにはフェンリルとラタトスク。
こうしてみると、王宮もずいぶん大勢になったなあ。
私と魔王さんが来たときは、たったの四人しか居なかったのに。
そんなことをしみじみ思っていたけれど。
なんだかとなりのシンモラさんは、俯き加減でいつもと様子が違う。
「……おおお、おスルトさまは、どんな趣味をお持ちなのでございますか?」
……お見合いかッ!
「ボクはねえ、どちらかというと英雄になるのが夢だよ!」
……会話のキャッチボール下手かッ!
「おお、なんやシンモラはん。めっちゃ顔赤いで。もしかして、スルトくんに惚れとるんですか?」
……デリカシーゼロかッ!
「おい、メシはまだか? いつまで待たせやがる」
……マイペースかッ!
「フェンリル様。お二人が腕によりをかけて作ってくださっています。楽しみに待ちましょう」
……紳士かッ!
「それにしても久しぶりですなあフェンリルはん。もうとっくに死んではる思うとりましたわ」
ラタトスクが大きな前歯を剥きだして、ケタケタ笑っている。
体が小さいため、こちらからはほとんど顔しか見えない。
椅子に座っているがギリギリ表情が窺える高さだ。
反比例するように、態度は大きめだけど。
「ああ、目の前にいる犬のお陰で助かった」
フェンリルは顎をガルム紳士へクイっと向ける。
「おお、ガルムはん。さすが有能やなあ」
ラタトスクは手を叩いて賞賛するが、ガルム紳士は首を横に振った。
「いえ、私は何も出来ませんでした。すべてはあちらにいるラクナ様と魔王様のお陰です」
「ほっほお。勇者活躍したんか! 見た目はちんちくりんやけど、やっぱり勇者なんやなあ」
おうおう誰がちんちくりんだって!?
それを言うならそっちだってちんちくりんでしょうよ!
全裸のファッションリーダーめ!
ちんちくりん対決しようか? おおーん?
「はいはーい、出来たよー!」
魔王さんの明るい声が、不穏な空気をかき消した。
運ばれてきた大きい鍋が、テーブルの中央にズシリと置かれる。
魔王さんの料理。
とりあえずスープ、かな。
色は紫色。
ほほう、なかなか珍しい色だね。
そして煮えたぎったマグマのように、こぽこぽ言ってるねえ……。
ごくり。
かき消えた不穏な空気が再び立ち込めた気がするッ!
「どーぞ、召し上がれ!」
魔王さんの笑顔がまぶしい!
「わーい、いただきまーす!」
先陣を切ったのは、純真無垢にして英雄スルトくん。
勢いよく食べている。
「おいしいよ、おっきいおねーちゃん!」
「ホント!? よかったあ!」
お、美味しいらしい。
よ、よし。
私も勇ましい者と書いて勇者。
ここは勇気を持って英雄に続くか……。
「では、ワタクシもおスルトさまに続きますわあー!」
シンモラさん!
これが恋のチカラッ!
スルトくんに負けず劣らずいい食べっぷりだあ!
「ああああ! これは最高の罰ですわああああッ!」
こ、これは!?
賞賛しているようで、最高の罰って言ってるぞ!
どっち!?
どっちのリアクションそれ!?
「さ、最高なんか!? ほんまやな!?」
ああ!
シンモラさんをあまり知らないラタトスクが、言葉通りに受け止めてる!
で、でも正直私も判断つかないし……。
見守るしか……。
お、食べた。
……。
ラタトスクは体を小刻みに震わせている。
「アカァァァァァァァァンっ!!」
ばたーん!
うわあ!
ラタトスクが絶叫したまま椅子ごとひっくり返ったあ!
「え! そんなに美味しいの? 勉強した甲斐があったよう」
魔王さんが満面の笑みを見せた。
両手で顔を押さえ、頬を赤らめている。
そんな中、すかさずテーブルを飛び越え、ラタトスクの様子を窺うガルム紳士。
「これは……。私が部屋までお運びいたしましょう」
あ!
ガルム紳士!
紳士と見せかけて、この場を離脱する気だな!
これはガルム策士!
「待ちやがれガルム! こいつは俺が運ぶ」
「おやフェンリル様。介抱など慣れないことをなさらなくて大丈夫ですよ。雑務はこの忠実な犬にお任せください」
ガルム紳士、さっき犬って言われたことを気にしてる?
「二人とも! ラタトクスちゃんは私が運ぶから、料理を食べて?」
「え。あ」
「いや、魔王様……」
魔王さんは両手でラタトクスの小さい体を抱きかかえた。
……嗚呼。
「反応を見たいから、早く食べて?」
魔王さんは優しく微笑む。
なぜだろう。
逆に圧を感じるのは。
観念した様子の二人は、ゆっくりとスープを口へ運んだ。
ぱくり。
……。
「ぐわああああああああっ!!」
ばたーん!
フェンリルが断末魔と共に倒れたあ!
くそう!
フェンリルでももたないのかッ!
一方、ガルム紳士は。
姿勢よく背筋をピンと伸ばしたままだ。
もしかして、大丈夫なのかな?
そうか!
自分がいつもやばいシチューを作っているから、耐性を持っていたということか!
……。
いや、違う!
ガルム紳士はピクリとも動かない!
これは……目を開けたまま気絶しているッ!!
「ふひひ。嬉しいな! じゃあ奈落ちゃん、ちょっとラタトスクちゃんを部屋まで運んでくるね?」
「あ、はい」
ど、どうしよう。
どうすればいい?
いや、でもせっかく魔王さんが作ってくれたわけだし。
仮に散っても魔王さんが喜んでくれるなら……。
「おーい、
ヘル様が両手で鍋を運び、テーブルへ置いた。
なにい!
第二陣だと!?
わが軍はすでに壊滅状態だぞ!
というか、よく見たらシンモラさんもすでに倒れてるじゃない。
もう残された希望は……。
「むにゃむにゃ」
スルトくんはお腹をさすりながら、夢の中へと堕ちていた。
ちょ、英雄!
最後の希望!
駄目だよ、起きて!
あなたがいなくなったら、いったい誰がこの絶望に立ち向かうっていうの!?
「おい……皆の者、いったいどうしたのじゃ……?」
あわわ。
へ、ヘル様が怒っちゃうよお!
「……せっかく作ったというのに……」
ああ!
ヘル様がしゅんとしちゃった!
「だだだ大丈夫! 私が食べます! 全部食べます! だから泣かないでヘル様!」
「泣いとらんわ!」
「わたしも食べるよ!」
あ、魔王さん。
「魔王。なぜか皆寝てしまったのじゃ……」
「寝てるのを無理矢理起こすのも気が引けるしさ、久しぶりに三人だけでごはん食べよ?」
三人でごはん。
そういえば三人だけでごはんを食べるのって、初めてかもしれない。
うんうん、食べましょう!
だって、明日は旅立ちの日。
暫くは、三人で会うことも出来なくなっちゃうんだから。
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