#33 人面桃花のディスカバー。

 ――業務連絡ッ!


 フェンリルがクビになりました。


 という訳で、魔王さんとシンモラさんが私の寝室にやってきています。


 ……いやどういう訳だよ。

 とりあえず滅茶苦茶だったお風呂は、あの後みんなで壁の修復などをして事なきを得たけれど。

 

 この二人が部屋へ押しかけてきた理由は、まだよく分かっていない。


「えーと、お二人はどういうご用件で?」

 

 魔王さんは「にひひー」と白い歯を見せて笑うと、両手を合わせる。

 

 ポン!

 

 ポップな音と煙に合わせて、魔王さんの両手からは多種多様な食料が現れた。


「今日はこれから女子会だよ!」

「じょ、女子会ですと!?」


 説明しよう!

 女子会とは、女子が会にてキャッキャウフフなトークを繰り広げる会である!

 ちなみに私はそんなのやったことはない!

 友達いなかったので!

 誰ともコミュニケーションをとってこなかったので!

 会は会でも、私は魚介類の貝なのだ!

 やかましいわ!

 だから知らん!

 説明など出来ん!

 以上だッ!!

 

「う、うえーい」

「ぱちぱちぱちぱち~!」

「ですわ~」


 私たちは食料を囲むようにして、地べたに座った。

 

 えーと。

 女子会って結局なにするの?

 

「美味しいね!」


 魔王さんは笑顔で生の肉を頬張っている。


 うーん。

 ここはひとつ、女子会を盛り上げるためになにかするべきなのだろうか?

 とはいえ、私に何ができるのか。


 私は悩んだ末に、三角座りをして服の裾を膝までかける。


「古より伝わりし禁断の魔法! 豊胸ボンキュボン!」


 膝によって、大胸筋が肥大化したように見える必殺技!

 谷間も出来るよ!


「あああああ! お奈落さま! 面白すぎですわ~!」


 やったあ!

 シンモラさんに大うけだ!


「お奈落さまがお巨乳とか、ありえませんわ~! 五臓六腑がはじけまき散らしそうですわ~!」


 おいどこで笑ってんだよ。


「ちょっと二人とも! 違うでしょ!」


 魔王さんは相変わらずにこにこで「にひひ」と歯を見せている。


 違うって、なにが?


「女子会と言えば、コイバナでしょ!」


 コイバナ?


 あ。


「シンモラさん……?」

「そう! シンモラちゃんの恋を応援する会だよ! 恋のキューピッドだよ!」

「ああああ! ワタクシは良いお友達を持ちましたわ~!」


 なるほど。

 そういえばお風呂場で好きな人が出来たって言ってたなあ。

 ……魔王さん、ドンパチやってたけどしっかり聞いてたんだ。


 けど、その殿方って誰なんだろう。


 ……いや、一人しかいないか?


 ガルムさんは昔からの知り合いみたいだし。

 スルトくんはまだ子供だし。

 そうなるともうフェンリルしかいないのよね。

 シンモラさんはワイルド系が好みなんだなあ。


「ねえねえ、それで、どこが好きなの?」


 魔王さんは赤い眼を輝かせながら身を乗り出す。


 すっごいノリノリだ。

 でも確かに女子会っぽい。


「や、やっぱりまずは強くて逞しいところ、ですわね」

「うんうん! それで!?」


 なんか魔王さんが最高に楽しそう。


「普段は乱暴なのですけど、たまに見せる優しさに心奪われてしまいまして」


 言葉遣いは本当に乱暴だよねえ。

 ずっとテメェテメェ言ってるし。

 でもまあ優しいところがあるのも分かるかもしれない。

 私の妹のことを気にしてくれてたし。


「や。優しさ。うん? うんうん」


 なんか魔王さんが引っかかってる。


「昨日は甘い言葉をワタクシにかけてくださいましたし」


 あ、甘い言葉!?

 全く想像できないけど!


「な、奈落ちゃんでは飽き足らず……あいつ……」


 なんか魔王さん怒ってない?


「僕が必ず、キミを守ってあげる、と……ポ」


 ぼぼ僕ぅ!?

 イメージ湧かないどころか、原型留めてなくないかい!?

 え、どっち!?

 私たちが見てきたフェンリルと、どっちが本当のフェンリル?


 あああ、魔王さん、青ざめて絶句しちゃってるよ。


「もうワタクシ、彼のことを思うと胸が高鳴ってしまうのですわあ~!」

「うんうん! すごく気持ち悪いけど、応援するよ! 二人が結ばれれば奈落ちゃんも安心だし!」


 魔王さん、心の声が漏れ出てる気がするけど大丈夫?

 私が安心なのもよく分からないし。


「ただ、実は障害がございまして」

「しょうがい?」

「はい……気になる御婦人はいらっしゃるのかとお聞きしたところ……」

「ところ?」

「……お奈落さまが好きだと仰られまして」


 は。


 ええええええええ!?


「お奈落さま! 今日からワタクシたちはお友達ではございません! 恋のおライバルでございますわあ~!」

「い、いやちょ! ちょちょまッ!!」


 ちょっと待って!

 一旦、整理させて!


「な、奈落ちゃん? ららラブ&ピース?」


 ああ、魔王さんの目がぐるぐる渦を巻いてる!

 意味わかんないこと言ってる!

 

「え、えと! わた、わた、わたしも奈落ちゃんのこと大好きだよ(?)」


 魔王さんが顔を赤らめながらもじもじしている。

 か、可愛い。

 目はぐるぐるだけど。


 ……じゃなくて!

 

「え、い、いや、ももちろん私も魔王さんのこと、だだだい好きですよ!」


 ああああ、これでもなかった気がする!

 突然好きって言われて私も混乱している!


「ああっ! ワタクシだってお二人のことをお慕いしておりますわあ~!」

「もちろんシンモラちゃんのことも大好きだよ!」

「わ、わわ私もですシンモラさん!」


 えへへへへへ。


 ……。


 何の話だったっけ?

 

 コンコンコン。


 む、このノックは。


「ガルム紳士!」


 ガチャ。


「失礼いたします。おや、皆様お揃いで」

「おねーちゃん達こんにちは!」

 

 ガルム紳士が扉を開けると、その膝元からスルトくんがひょっこりと顔を出す。


「ぴょいん!」


 ん。

 なんかシンモラさんから効果音みたいな音が出た気がするけど、気のせいかな?


「ガルムさん、スルトちゃん。二人そろってどうしたの?」


 正気を取り戻した魔王さんが笑顔で問いかける。

 ガルム紳士は胸に手を当て、ゆっくりとお辞儀をした。


「実は小人族とコンタクトを取っている男が、もうすぐ王宮に到着するとのことでしたので、ラクナ様にご報告をと思いまして」


 あ、この間話してた外界を行き来出来る人!

 それは朗報だあ!


「ボクはね、猫耳のおにーちゃんを探してるんだ」

「きゅいいぃぃーん!」

 

 猫耳のお兄ちゃんてフェンリルのことかな?

 怒られそうだからその呼び方はやめた方が良い気がするけど。

 あとさっきからシンモラさんがうるさいけどどうしたんだろう。


「では、お邪魔致しました。これにて失礼いたします」

「またね、おねーちゃんたち!」

「うん、バイバイ!」

 

 魔王さんが手を振って見送り、二人は部屋を後にした。

 

「ね、ね、奈落ちゃん。見て見て」


 魔王さんが私に耳打ちする。

 視線の先はシンモラさん。

 私もちらりと視線を送る。

 

 彼女はいつも以上に宝箱を強く抱きしめ、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。

 

 えーとこれは。

 どういう状況?


「シンモラちゃんが好きな人って、もしかしてスルトちゃんなの?」

「はわわわわわ」

「ええっ! スルトくんなんですか!?」

「ああああ! は、はずかしめを受けておりますわあ~!」


 シンモラさんから蒸気が噴き出した。


 まさか意中の殿方がスルトくんだったとは。

 

「よーし、シンモラちゃんの恋を応援しよう!」

 

 赤い瞳がキラリと光る!

 魔王さんのテンションが上がってきたあ!


 こうして女子会は更なる盛り上がりを見せ、私たちの仲は更に深まったのでした。


「この辱めもなかなかいい感じですわ~!」


 シンモラさんが新たな扉開いてる!

 




 

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