#27 少女は願いを棺に終う。
――緊急事態ッ!
O☆MO☆I
うおおおおおおお!
なんなんだこれはああああああ!
重すぎるだろおおおおおおお!
「おい! てめぇ何やってんだ!」
「うるさいいい! まだタイムの途中でしょうがあああああッ!」
「なんでテメェがキレてんだ! タイムもテメェが勝手に言ってるだけだろうが!」
え!
ホントなんなん!
なんなんこれえ!
どんな武器が入ってるのこれ!
もしかしてお得な十本セットとかなんじゃないの!?
とりあえず袋から出してみよう!
バサッ。
ん。
なにこれ。
白い棒?
いや、ってゆーか。
軽うううううう!
武器軽ううううううう!
え。
重かったのって袋?
めっちゃ軽いよこの武器!
で、なんなのこの白い棒は。
棒から更に枝みたいに沢山棒が生えてる。
なにこれ。
武器なのこれ。
「おい、なんでテメェがそんなもん持ってんだ」
「え、これがなにか知ってるんですか?」
「そりゃエイクスュルニルの角じゃねえか。懐かしいな」
「エイクス……ユル……? は?」
「エイクスュルニルだ。ようは鹿だ、鹿」
鹿!?
鹿って、鹿!?
あの可愛い動物の!?
あれの角!?
あれえー?
シンモラさん最強の武器とか言ってなかったっけ?
袋に入れる武器間違えた?
まじかー。
「は! テメェからエイクスュルニルと同じ匂いがすると思ってたら、角を持ってやがったとはな」
おい、誰が鹿と同じ臭いだあ!
……まあいいや。
とりあえず鹿の角で戦おう。
重いのよりはましだ。
「待っていただきありがとうございました、タイム終わりです」
「やっとか。随分待たせやがって」
随分待たせやがって、か。
『――
ぷぷ。
なんかヘル様のこと思い出しちゃった。
ふう。
リラックスも出来たことだし――。
私は姿勢を低くして足を溜める。
――いくぞお!
とりあえず、あいさつ代わりの脳天一撃!
「は! 早いな! やるじゃねぇか!」
フェンリルはそれを両手でクロスさせて防ぐ。
腕でガードかあ。
さすがの反応速度。
それなら。
角からさらに細かい角が生えてるし。
そいつをガードした腕にひっかけて。
……そのまま地面にどーん!
「ぐ……あ……!」
フェンリルはクロスさせた腕を引っ張られる格好で、そのまま背中から地面に叩きつけられる。
多分こいつならすぐ立ち上がるだろうから、私は着地と同時に振り向きざまのもう一撃!
パコーン!
「が……あ……!」
はい顔面にクリーンヒット!
いやあ、そのまま倒れてればこの攻撃はただの空振りで終わったんですけどね。
これが当たるのは、あなたが強い証拠です!
「クソがあああ!」
うわあ!
今ので倒れないの!?
しかも早いな移動速度が!
でもこの武器、枝分かれした角のお陰で盾にも使えそう!
ガシャン!
うん!
使える使える!
残念だがあなたの爪は防がせてもらいました!
ふひー、牙を剥き出して怖い顔!
檻から顔を出す猛獣みたいね!
それならその隙間から、お得意の水魔法をくらえい!
「ぐあああああ! こいつ!」
目を押さえてのけ反ってる。
このどろどろ水は目に染みるらしい。
うん。
絶対飲まないでおこう。
そんじゃ隙だらけのあなたにもういっちょドーン!
「ぐあ……あ……!」
今度は脳天に一撃!
それでも倒れない!
本当に強いなこの人!
「テメェ、ヘルのなんなんだ! なんでここまで必死になる!?」
「ヘル様は私の友達です! 友達の為に必死になって、何が悪いんですか!」
「は! あのヘルが友達だと!? あいつがそう言ったのか!?」
「いえ! 言ってません! すみません! 間違えました!」
「なに言ってんだテメェは!」
フェンリルが素早い爪を繰り出すが、私は鹿の角でそれを弾く。
「あなたこそなんなんですか! そこまでヘル様のもとに帰りたく無いんですか!?」
「俺にはやらなきゃいけねぇことがあんだよ!」
「それは何百年もかけた妹の願いを踏みにじってでもやらなきゃいけないんですか!?」
フェンリルは壁を蹴って、更に勢いを増した凶爪を繰り出した。
私は再び鹿の角を盾のように使い、これをしのぐ。
ガシャァァァァン!
うわあ!
鹿の角、壊れたあ!
私は間合いを取るため後ろに飛び、ついでに真っ二つに折れた角を片手でキャッチする。
「私、ヘル様を見てると妹を思い出すんです」
「なんだ? いきなりなんの話だ」
「私の妹はちょっぴり生意気でしたけど、可愛かったんですよ。ね、ヘル様と一緒でしょ」
フェンリルは怪訝な表情を浮かべたまま、こちらを睨みつけている。
「でもね、私は随分会ってません。会いたくても会えません。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれません。……でもあなたは違いますよね?」
「……ああ?」
「あなたの妹は、何百年もかけてあなたに会おうとしてくれた! 奈落の管理人になって、自分を犠牲にしてまで探し続けてくれたんです!」
フェンリルが、一瞬こちらへの視線を外した気がした。
もしかしたら――。
「でもその『願い』の所為で、沢山の人が犠牲になりました……そこにいるガルム紳士も含めて」
「……だから……俺は頼んでねえ……!」
「そしてようやくあなたを見つけた時の彼女の願いは、『あなたを連れ帰ること』ではなく『私たちの無事』でしたよ。本当は会いたいに決まってるのに……」
『――
『――じゃが勇者と魔王。お主らは必ずこの王宮エリュズニルに帰ってこい!』
「私、もう結構分かっちゃうんですよ、ヘル様が考えてること。だって私、ヘル様のこと大好きなので。えへへ」
もしかしたら、フェンリルだって分かってくれるかもしれない。
二人は兄妹なんだから。
「私、その時に決めたんです。たとえどんなことをしてでも、ヘル様が心の奥に『
「……終った、願い……」
「あなたがなにを成したいかは知りません。別に止めようとも思いません。でも、すみません。今だけはヘル様に会ってもらいます。彼女の願いを叶えてもらいます。嫌でもぶっ飛ばして連れていきます」
私は両手に力を込める。
折れた二本の鹿の角。
うん、大丈夫。使えそうだ。
鹿の角って、元々二本だしね!
兄妹と一緒!
「ここは奈落です。あなたも私も、ヘル様だって、次会う時にはどうなってるかなんて分かりません。現にガルム紳士だって死ぬところでした」
姿勢を低くして、足にも力を込めていく。
「会えなくなってからじゃもう遅いんです。あなたは……私のようにはならないで下さい!」
地面を抉るように、思いきり蹴る。
「数百年間、奈落を彷徨った妹の願いを、どうか叶えてあげて下さい! フェンリルッ!!」
「…………ヘル……」
私は渾身の力で、武器を振るう。
その一撃は顔面を捉え、そのまま思い切りぶっ飛ばした。
フェンリルは衝撃音と共に壁に叩きつけられ、土煙が舞う。
パラパラ……。
……。
……フェンリル。
……ありがとう。
「奈落ちゃん!」
お、魔王さん。
「あなたはやっぱりすごい。そりゃあわたしも簡単にやられちゃうよ。ふひひ」
「いえいえ、そんな。えへへ」
ま。
シンモラさんがくれた武器。
ヘンテコだけど、これがめちゃくちゃ強かっただけなんですけどね。
フェンリルも知っている様子だったし。
それに最後の一撃が当たったのは、フェンリルがガードを緩めたから……なんだよね。
うん。
……それがあなたの答えだって信じるよ、フェンリル。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます