#16 楽な☆コーディネイト。

 ――業務連絡ッ!


 お友達が増えました。


 二人目のお友達です。


 もう私は陽キャなのでしょう。


 だって二人もお友達がいるのですから。


 奈落にやってきて培った陽キャパワー。


 これがとうとう花開いたという訳です。


 さようなら、陰キャの私。


 こんにちは、陽キャの私。


「それにしてもダサいのう、お主」


 ……ん?

 ……ヘル様が何か言った気がするけど……気のせいか。


「無事、扉の修理が終わったよ、ヘルちゃん!」

「ですわ~!」


 私たちは宝物庫の扉の修理を終え、報告のために謁見の間を訪れていた。


「ご苦労じゃ。では、お主らにこれを渡そう」


 ヘル様が首からかけていた物をおもむろに渡してきた。

 これは……鍵?


「宝物庫の鍵じゃ。あそこにある物は別にわらわの所有物という訳ではない。奈落に落ちて来た物で使えそうなものを放り込んでおるだけじゃ。もしも欲しい物があったなら勝手に使うがよい」

 

 え、そうなの?

 いいの?


「だからもう、バカな真似はするでないぞ」

「……お、おヘルさま……!」


 わあい!

 これだからヘル様の使用人はやめられないよね!


「お宝が、ワタクシを呼んでいますわあ~!」


 シンモラさんが、ものすごい勢いで謁見の間から走り去っていった。

 宝物にとりつかれているの? あの人……。


「まったく、バカじゃなあやつは……」


 ヘル様は、呆れたように笑みを浮かべた。


 その様子を見て、魔王さんは私に耳打ちをする。


「……ヘルちゃん、優しいね」

「ふふ、ですね」

「こらお主ら! わらわ抜きでひそひそ話をするでない! 気になるじゃろうが!」

「ふひひ!……うん! ごめんごめん!」

 


 ◇ ◇ ◇



 という訳で。

 私たちも宝物庫へやってきました。


 正直、どんなお宝があるのか気になってたんだよね。


 それにしても、部屋いっぱいにいろんなものが置いてある。

 宝石とか、武器とか、王冠まで。

 これ、全部奈落に落ちて来た物なのかあ。


 そして部屋の中央には悦に浸っているシンモラさん。

 相変わらず宝箱を両手で抱えてる。


 あ。

 そういえば。


「……シンモラさんがくれた、この手袋。これも宝物庫にあった物、なんですか?」

「そうでございますわ。ヤールングレイプルっていう、貴重な手袋でございましてよ~!」


 え、この手袋に名前なんてついてるの?

 シンモラさんが勝手につけたの?

 だとしたらどんだけお宝愛が強いの?


「見て見て奈落ちゃん!」


 むむ!

 魔王さんが衣装チェンジしている!


 黒いロングコートに、煌びやかな宝石が散りばめられたネックレスとブレスレット。


 美しい……!


 そして最高に似合ってる!

 もしかして、この部屋にあるもので組み合わせたの?

 この短時間で?


「魔王さん、まさかその恰好……」

「うん! 宝物庫ーデほうもつコーデ! なんてね! ふひひ」


 くうう!

 その上ワードセンスまで!

 眩しいっ!


 これが陽キャ!

 私のようなかりそめの陽キャではない……!

 真の陽キャ……ッ‼


「じゃあ次は奈落ちゃんの番だよ!」

「私の番ですと!?」


 ファッションに誰かの番なんて存在するのか……!


 それにしても。

 

 やはり来たか……。

 魔王さんのファッションチェック……。

 本日二回目だぞ……。

 

 私のセンスは魔王さんにハマってないからなあ。

 けど、こうなったらやるしかない!

 そして、やるからにはファッションクイーンの名を欲しいままにしてやるう……ッ!

 

 あああ。

 でも自分で防具屋とか行かないから、ほんとに何が良いのか全然わからない……。


 大体こういう時、お店だと――。


『今日はどんなのをお探しですか?』

「きゃいん!」

『なるほど、ではこちらはどうでしょう?』

「うおお、これ! これだ! かか買う! 買います!」

『ご試着も出来ますが?』

「いいいやもう、お店入った瞬間から汗でニチャニチャなんで、大丈夫でっす!」

『に、にちゃにちゃ?』

「いやあ、良い買い物だ! また来ます!」

 

 ……。


 ……うっ、トラウマが。


 と、とにかく、全身コーデだ。

 えーと。

 黒ははずれが無いって聞いたことあるから、そこは取り入れよう。

 あ、あとは……。



 ◇ ◇ ◇



「魔王さん、どうでしょうか!」


 全身コーデ、完・成ッ!

 ファッションクイーン、爆・誕ッ!


「……うん。なんか暗殺者みたいだね……」


 うひょう!

 暗殺者いただきました!

 やったね!


「名だたるファッションモンスターたちを蹴落とすが如く、殺して回るほどのファッションセンスッ!」

「すごい拡大解釈! あとごめん、全然褒めてないよ!」


 え?


「まず、その肩にかかってるのは何だろう?」

「これは私がいつも着てる服です! 肩にかけることで、普段より一つ上のステージへ行けたと自負しております!」

「うーん。それ邪魔かなあ」


 邪魔ッ!?


「ちなみにその、目元を覆ってるのは眼帯かな?」

「はい、その通りです!」

「眼帯を両目に着けてる子、初めて見たよ? それ、前見えてる?」

「全く見えてません! なんなら見えなくて良いまであるッ!」

「なにがあったの、奈落ちゃん!?」


 くうう、手厳しい!

 ファッションだけは厳しいんだよな、魔王さん。


「お奈落さま、そんな馬糞のようなファッションでは、殿方に見向きもされませんわよ?」


 むむ、シンモラさん。

 なんかすごいこと言われた気がするけど。


 でもシンモラさんって、オシャレなのよね。

 ドレスも装飾も、ただ付けてるって感じじゃなくて、色合いとか計算して身に着けてる感じ。


 あ。

 そういえばずっと気になってることがあったな。


「……あの、シンモラさん。ずっと大切に抱えてるその宝箱。それ、すごく気になるんですが……」

「あっ! わたしも気になってた! 何が入ってるの?」

 

 シンモラさんは宝箱を惚れ惚れと見つめながら口を開く。


「この中には、伝説の剣が入っておりますの」

「伝説の剣……?」

「いつか素敵な殿方と添い遂げることになったら、この剣をお渡しいたしますのですわ」

「未来の旦那さんに捧げる宝物なんだ! なんだかロマンチックだね!」

「それまでワタクシが大切にお持ち致しますの。しっかりと九つの錠をかけて……」


 九つの錠って……。

 その宝箱、九個も鍵がかかってるってこと?

 厳重すぎじゃない?


「九つって……鍵の管理が大変そうですね……」

「そうですの! だから全部なくしてしまいましたわ~!」

「あらら、そうなんですね……ん、全部?……九本全部なくしたんですか⁉」

「ですわ~」


 ですわ~って……。

 未来の殿方よりまず鍵を探した方が良いような……。


 ん?

 

 そういえば。

 私の持ってた伝説の剣はいったいどこ?


 ……。


 …………ま、いっか!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る