#15 神機妙算モラルゼロ。

 ――業務連絡ッ!


 泥棒を捕まえました。

 

 ここは謁見の間。

 自称天下の大泥棒を、我が主ヘル様へ突き出しているところです。

 

 泥棒さんは相変わらず宝箱を大事そうに抱えながら、ヘル様の前でちょこんとおすわり。


「この方の罪については、私から報告を致しましょう」


 ガルム策士が「こほん」と咳ばらいをする。


「まず発端は、巨大な火の玉を生成し、あろうことか王宮内で放出――」


 ……ん?


「そして地下宝物庫へ着弾させ爆破。扉を大破させたものと見ており――」

「おおーいちょいちょいちょいガルム策士! それ私だな! 私のやつだな!」

「……勇者。またお主……!」


 ああっ!

 ヘル様がこちらを睨んでる!


 ぐぬううう、ガルム策士!

 やってくれたなあ!


「しかもお主! なんでまたわらわのローブを着ておるのじゃ!」

「これが魔道具の役割をしてるって言ったのはヘル様でしょうがッ!」

「なんで逆ギレしとるんじゃお主は! しかも昨日よりボロボロではないか!」

「あちこち破れまくって、ようやく馴染んできたところです。えへへ」

「なにをへらへらしとるんじゃ、不愉快な!」


 いやちょっと待って!

 みんな落ち着いて!

 どうして罪人の横で私が責められてるの!


「ねえヘルちゃん。それでこの子は本当に泥棒なの?」


 あ、魔王さんが話題を逸らしてくれた。


 でも確かにそうだよね。

 ガルム策士と知り合いみたいだし。


「こやつはシンモラ。此処、王宮エリュズニルの使用人じゃ」

「ですわ~!」


 え、ここの使用人さん?

 じゃあなおさらなんで自分のことを泥棒なんて言ってるんだろう?

 

「しかしある日突然、行方不明になられまして。……シンモラ様、一体今までどこで何をなさっておられたのです?」

「……実は地下の宝物庫に、ずっと閉じ込められておりましたの……」

「な、なんですと……何があったのですか!?」


 え、それってまさか。

 何者かにやられたってこと……?

 

「ワタクシはある日、おヘルさまから宝物庫である物を取ってくるよう仰せつかりましたの」


 うんうん。


「宝物庫に入ると、そこには沢山のお宝がございました。そこでワタクシはとんでもないことに気付いてしまったのです……!」


 うんうん。


「今なら、ここにあるお宝をワタクシの物に出来るって……」


 ……うん?


「ここのお宝全部欲しい! 何もかも盗み出したい! それはもう余すことなく!……って思ってしまったのですわ~!」


 すごい、己の欲望をありのまま供述してる。


「でも宝物庫はお宝の山。すべてのお宝を盗み出すのは至難の業ですわ。ワタクシはどうすればいいか悩み、考え、そして閃いたのです……!」


 うんうん。


「むしろワタクシが宝物庫に住めば良いのだと!」


 ……うん?


「ワタクシはお宝に囲まれた生活を送り、幸せの絶頂におりました。そして数日後、気付いたのです……!」


 ……。


「この部屋から出られないことに……!」


 …………。


 えーと、これはつまり……。


「シンモラ。お主、めっちゃバカじゃな‼」


 ヘル様の辛辣で直球の刃!


「ああっ! もっと罵ってくださいまし!」


 でもこの人には全然効いてなさそう。

 

 まあ自分のことを悪い子だの大泥棒だの言ってることには納得だ。

 反省もしてる……のかな?


「してヘル様。シンモラ様の処遇、いかがいたしましょう?」

「うむ……ではシンモラ。お主は勇者と魔王の二人に、使用人の先輩として色々教えるのじゃ!」

「そ、そんな……! そんな! おヘルさま!」


 シンモラさんは震える手をゆっくりとヘル様へ伸ばす。


 ……ってゆーか私たちに仕事を教えるの、そんなに嫌なの?

 宝物庫のお宝を盗もうとしたことへの罰としては、全然軽い気がするんだけど……。


「あ、熱々の釜で茹でたり、地獄の業火で炙ったりしてくださらないのでございますの!?」

「お主が望んだら、それはもう罰ではないじゃろうが!」


 うん、それはそう。

 ヘル様が正しい。


「まずは宝物庫の扉の修理! そしてシンモラ用の空き部屋の掃除をするのじゃ!」

「そ、そんな……! 殺生! そんなの殺生でございますわあ~!」


 いや、逆。逆。

 リアクションが逆なのよこの人、ずっと。

 

 それにしてもシンモラさんの為に空き部屋の掃除って。

 実はヘル様って口うるさいだけで、けっこう優しいのでは……?



 ◇ ◇ ◇



 というわけで。

 私と魔王さんとシンモラさんで宝物庫にやってきました。


「なんだか忍びないですわ。お二人さまにまで扉の修理を手伝わせてしまって……」

「ううん、大丈夫だよ! むしろ扉を壊したのは奈落ちゃんだし!」


 うん、それはそう。

 魔王さんが正しい。


「それにシンモラちゃんが出られるようになったわけだし、結果オーライだよ!」

「お、お魔王さま……!」

「魔王でいいよ!」


 うがあ!

 魔王さん、流石のコミュニケーション能力!

 もういい感じになっとる!


「ちなみに扉の破壊は、お奈落さまの所為ではございませんわ」

「……え?」

「操縦が甘く、かつ扉を破壊出来るほどの威力を持つ魔法を感知致しましたので、ワタクシが操作を乗っ取って、宝物庫まで誘導させていただきましたの」


 そ、そんなことできるの?

 私が魔法の初心者だったから?

 てゆーか、お奈落さまって呼び方が気になってあんまり話が入ってこなかったけど。


「じゃあ、お奈落ちゃんのせいじゃなかったってこと? 嬉しいね、お奈落ちゃん!」


 うつってるうつってる。

 呼び方うつってるよ魔王さん。


 それに、結局怒られてるし、修理させられてるし、嬉しいことなんてなに一つないよ。


「晴れて外に出ることが出来て、しかもこんなにお可愛いお二人とお友達になれて。ワタクシ、とっても幸せですわあ~!」

「ふひひ、わたしもだよ、シンモラちゃん!」


 ……お友達?

 

 ……えへへ。


 ……お友達。

 

 ……嬉しいこと、あった。えへへへ。





 

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