Chapter3-勇者になりたい。

#14 トレジャーとレジャー。

 ――業務連絡ッ!


 奈落に朝がやってきました。


 窓から差し込む朝日。

 小さな寝室を、満遍なく、優しく照らしてくれる。

 

 うーん、気持ちいい!

 ね!


 コンコン。


 お。

 このノックのリズムは。


「……魔王さんっ!」

「せえーかい! ふひひひ!」


 魔王さんが元気に笑顔で登場!

 えへへ、こっちの朝日も眩しい!

 ダブル朝日!

 朝日のサンドイッチだあ!


「……魔王さん、元気になって良かったです」

「奈落ちゃんのお陰だよ! 今日はとびきり活きのいい太陽を作ったからね!」

「……あ、ありがとうございます」

 

 とびきり活きのいい太陽ってなにかな。

 とはいえ、嬉しい。

 元気な魔王さんが見れて。


 あ。


「……そうだ、魔王さん。早速で申し訳ないのですが、お願いがあるのです」

「うん! なになに? なんでも言って!」



 ◇ ◇ ◇


 

 ふっふっふ。

 何を隠そう、私は魔法を使えるようになりました。

 嘘ではない。

 しかと刮目せよ!

 

「エクスクラメーション! マァァァァァァァクッ!!」


 ……。


 ……あれ?


「エクスプロージョンアークだよ奈落ちゃん」

「あ、そうでした。えへへ」


 という訳で私は、魔法の練習をするために王宮の外へやってきた。

 快く先生を引き受けてくれた魔王さんと一緒に。


 うんうん。

 やっぱり太陽の魔法を上達させるなら、これ以上の先生はいない!


「それにしても、そのローブはどうしたの? あちこちビリビリに破けてるよ? 昨日のレッスン、そんなに激しかったの?」

「……あ、いえ。こ、これは最初からこうでした! ダメージローブだそうです!」

「ダメージローブってただの不良品じゃない?」


 くうう。

 魔王さんは必ずファッションチェックをしてくるな。

 こりゃあオシャレにも磨きをかけなければ……。


 そしていつかは――。

 

『奈落ちゃんってほんっとにお洒落だよね! なによりいつも着てるそのくったくたの服! どこで売ってるの? わたしも欲しいよ!』

「うふふ、でしたら今着ているこちらを差し上げましょう! 私のサインも添えてね!」

『ああ、嬉しい! でもサインはやめて! ただでさえその服はダサいのに!』


 えへ。

 えへへへへ。

 オシャレって言われるの、想像しただけでもすごく気分いいな。

 

「な、奈落ちゃん。大丈夫?」


 おっと、いけない。

 今は魔王先生による魔法レッスンの最中だった。


 えーと、なんだっけ。

 エクス……クラメーション……。

 駄目だ、まず魔法の名前が覚えられん。


「まず魔法の基本は想像だよ」


 そうだ、想像。

 ヘル先生も仰ってました。

 

「あと、慣れるまでは詠唱をするのがオススメ!」

「詠唱……ですか」


 そういえば、僧侶さんも魔法の前に色々喋ってた気がする。

 大いなる母がうんたらかんたら~、みたいな。


「魔法を生み出す工程は、想像・凝縮・解放。詠唱すると、これがすごくスムーズになるの」


 うんうん。

 魔王さんの説明は分かりやすいなあ。


 それにしても。

 

「想像・凝縮・解放……。なるほど、それは初めて聞きました」

「あれ、そうなの? ヘルちゃんは言ってなかった?」

「ヘル様は想像推しでしたね」

「想像推し??」

「一に想像、二に想像。三四が無くて、五に想像、みたいな……。とにかく想像のことしか言ってなかったです」

「ま、まあやり方はそれぞれだからね!」

 

 ともあれ、魔王さんのお陰で得た新しい知識。

 よーし、さっそくやってみよう!


 想像・凝縮・解放。

 

 めらめらー。ぼぼぼぼー。

 

 想像・凝縮・解放。

 

 ごごごごー。ちゅどどどー。

 

 想像・凝縮……。


「すごい! すごいよ奈落ちゃん!」

「へ?」


 気付けば、私の両手の先には火の玉が。

 私なんて丸のみに出来ちゃうくらい大きな火の玉が出来上がっていた。


「う、うわあああああ! す、すごい! おっきいいい!」

「うんうん! たったの一日でこんな大きい炎、すごいよ!」


 うわ、でっか!

 どどどど、どうしよう!

 昨日はこんなの、何百回やってもたった一回しか出来なかったよ!?

 ここからどうすればいいの!?


「魔法の名前を唱えて、解放だよ!」

「わわわかりました!」


 魔法の名前!

 えーと!

 えーと!


「ああああああアテンション、プリィィィィズッ!!」

「全然違うよ、奈落ちゃん!」


 私の叫びと共に、火の玉はまっすぐに飛んでいった。

 

 ……と思ったら突然進行方向を変え、なぜか意思を持ったように王宮の中へと入っていった。


 ……。


 …………???


「すごいね奈落ちゃん! あの魔法、まるで生きてるみたい!」

「……え、すごいですか? えへ。えへへへへ」


 またすごいって言ってもらえた。

 やたぁ。


 ……。


 じゃなくて!


「どどどどうしよう魔王さん、あれが王宮の中で爆発でもしたら……」

「うん! またヘルちゃんに怒られちゃうね!」


 ああ、ですよねやっぱり!

 まずいまずい、追いかけないと!


 待ってえ、火の玉さん!

 待ってええええええ!!


 私たちも王宮へ入り、飛び回る火の玉を必死で追いかけた。


 ひいいい、めっちゃ早い!

 こんなに全力疾走しても全然追い付けないい!


 ビリビリィ!


 あああ、またローブが破けちゃった!

 でも、そんなの気にしている余裕はないぃ!

 

 しかし火の玉は速く、なかなか追い付くことが出来ない。

 それどころか本当に生きてるみたいに曲がり角を正確に曲がる。


 そして……。


 ドォォォォォォン!


 爆発音とともに、黒い煙が立ち込める。


「あああああ! 火の玉さああああああん!」


 やばいやばい!

 煙でなにも見えないけど、壁とか壊しちゃった!?

 私またクビになる!?


 私は夢中で煙をかき分けてその先へ進む。


 !?


 あれ! 足場が無い!?

 ……いや違う!

 階段だ!!


「いやあああああああ!!」


 私は全力疾走の勢いそのままに、ごろごろと階段を転げ落ちた。


「だ、大丈夫!? 奈落ちゃん!」

「……は、はい、大丈夫です。……いたたたた」

 

 うぐぐぐ。

 煙で全然見えなかった……。

 

 それにしても、まさかこんなところに地下への階段があるなんて……。


 ん?


 んん!?


 よく見たら、目の前に誰かいる!?


 黒色の長い髪に、ド派手で煌びやかなドレス。

 まるでお嬢様みたい。

 大きな宝箱を、大事そうに両手で抱えてる。


「きゃあああああ! だ、誰ですの!?」

 

 お嬢様は体をのけ反らせながら大絶叫。

 いや、こっちのセリフだが!?


「奈落ちゃん、この子もしかして泥棒かな?」

 

 あ! その発想は無かったな!

 確かに、宝箱を持ってるし!


「ええ! ワタクシは天下の大泥棒でございましてよ!」

 

 あー!

 犯行を認めたな!

 おい、くせものだ!


 よーし、それなら私の最強魔法をお見舞いしてやる!

 えーと、詠唱、詠唱。

 コ、コホン。


「……燃え盛る地獄の炎で暖を取る! 汝の眼前に浮かぶはハートフル・フルハート! うん、すごくあったかいね……。 ほとばしれ! 燃え回せ! 我が身を永遠に焼き尽くせええええッ!!」

「ストップストップ、奈落ちゃん」


 え。


「なんか長いよすごく。途中セリフみたいなのも入ってたし……。あと火の魔法で暖かいっていう表現はあまり使わない方が良いかも……。燃え回すもあんまりイメージ湧かないかな……。しかも、最終的には自分を焼き尽くしてたよ?」

 

 はううううう!

 魔王先生の添削!

 すごく分かりやすい!


「よろしかったら、こちらもお使いになってくださいまし!」


 あら。

 泥棒さんから分厚い手袋を渡された。

 これはなに?


「魔道具ですわ! お人間さまが魔法を使うなら必要不可欠なもの、ですわ~!」

「……あ、ありがとうございます」


 えー。

 泥棒さんめっちゃいい人。


 うわ、手袋嵌めたら力が湧いてきた!


「さあお人間さま! 全力でかましてくださいまし!」

「分かりました! うおおおおおお、いくぞおおおおおおおおおッ!」

「待って待って奈落ちゃん」


 え。


「なんかこの子、良い子じゃないかな?」


 ですよね。

 私もそう思ってました。

 

「いいえ、ワタクシは悪い子! 罪には罰を! お与え下さいまし~!」

「ま、魔王さん。本人はこう申しておりますが……」

「うーん。悪い子が自分のこと悪い子って、あんまり言わない気がするけどな……」


 うん。

 確かに。

 

「魔王さんの言う通り、私もこの子は良い子だと思います。だからこの子のことを信じます! この子は悪い子ですッ!!」

「奈落ちゃん言ってること滅茶苦茶だよ?」

 

「おや、シンモラ様。こんなところで何を?」


 むむ、このくせもの声は!


 階段上から、ガルム策士がこちらを見下ろしている。


 ……てゆーか、シンモラ様?

 知り合い??


「あら、おガルムさま! お久しぶりですわ~!」


 良い子で悪い子な泥棒さんは、にっこりと微笑んだ。





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