#9 ウェルカム・トゥ・ヘル。
――緊急事態ッ!
王宮を出禁になりました!
いや、それはまずいです。
この王宮は、奈落で唯一ごはんが食べられる場所かもしれないのに!
どどどうしよう!
なんとかしないと!
……出すしかないかな?
私の伝家の宝刀。
陽キャパワーで仲間にしよう大作戦!
成功率〇パーセントッ!!
……。
いや、やめておこう。
こういうときは誠意が一番!
誠意を見せるんだ!
正座もしよう!
「……へへヘル様。出禁はおおお考え直しを!……な、なんでもしますから!」
ヘル様は玉座の上に立ち、頬を膨らませながら腕組をしている。
「なんでも、じゃと?」
よし、いけそう!
奈落の管理人とはいえ、見た感じ幼い女の子。
そんな子のお願いなんて、お安い御用ですよ。
「じゃあ勇者。お主はこの王宮で一生使用人として暮らすのじゃ」
ほらね?
「ははー」
「ちょっと奈落ちゃん!」
「はにゃ?」
魔王さんは口元に手を当てて、お辞儀をする私に耳打ちをする。
「ダメだよ一生なんて。奈落を抜け出すためにここまで来たのに」
「はっ。そうでした……」
いけない。
いつの間にか王宮へはごはんを食べに来ただけだと錯覚してた。えへへ。
「こら、お主ら!
わわ。
なんかまた怒ってるう。
まずいまずい、魔王さんまで出禁にされちゃう。
「あ、ごめんね! でも一生はちょっと無理かも!」
「そうなのか! ではどうすればいい!」
「じゃあ私たちが奈落を抜け出すまで、っていうのはどう?」
「うむ、それで手を打ってやろう。
な、なんとかなった……。
しかも使用人とはいえ、奈落を抜け出すまではここで食事や寝床の確保も出来たということなのでは!
魔王さんナイスです!
魔王さんがこちらを向いてウインクして見せた。
ふふ、可愛いな。
ではこちらもお返しのウインク。
くっ。
ウインク難し……!
全然出来ない!
両目つぶっちゃう!
「こら勇者! せっかく出禁を解いてやったというのに変顔とは!
してない!
まず変顔してない!
「それにしてもお主ら。
む。
これはつまり、私が魔縄グレイプニルで縛られていた時に初めてガルム紳士がやってきた時のことだよね?
魔王さんが私のために招待を断ったっていう。
確かに、よく考えたら私ってどれくらい眠ってたんだろう?
ヘル様も怒ってるし、結構長い時間だったのかな?
と、そんなことを考えながら辺りを見回すと、魔王さんと目が合った。
「奈落の管理者って聞いてどんな人かと思ったら、思ってたよりすごくかわいいね」
「……えへへ。ですね」
「こら!
うわ、また怒ってる。
聞きたいです!
私、すごく聞きたいでっす!
「うん、聞きたい! 聞かせて?」
ヘル様は両手をいっぱいに広げる。
「すっごくじゃ!」
……。
……ん?
……時が止まった?
ヘル様は言い終わったまま硬直している。
えーと、こちらの反応待ち?
でも魔王さんも硬直してる。
まばたきすっごい。
ふふん。
魔王さんが困ったら、私の出番ってわけですよ!
まずはヘル様がどういう反応を待っているのかを見極めてシミュレーションしてみましょう!
「おいおいおーい! あれだけ注目を集めておいてそ・れ・か・よッ!!」
『なんじゃ勇者! お主の服ダセェんじゃ! 出禁じゃ!!』
シミュレーション完・了ッ!
シミュレーションの結果、ハードなツッコミはヘル様の望むところではないみたい。
あぶないあぶない。
「……い、いよっ! ささ流石はヘル様! す、すっごく待つだなんて、誰にもマネ出来ないですよお!」
「うむうむ! そうじゃろう、そうじゃろう! それにしてもお主の服はダサいのう!」
よおーし、うまくいったね!
「それでねヘルちゃん。聞きたいことがあるんだけれど」
「ん? なんじゃ?」
そしてここでバトンタッチ!
あとは頼みます、魔王さん!
「私たちはこの奈落から一刻も早く抜け出したい。脱出する方法を教えてほしいの」
ヘル様は再び腕組をすると、無表情のまま冷ややかに口を開いた。
「……脱出する方法? そんなものは無い!」
「え!?」
ええっ!
無いの?
「そんな簡単に抜けられるなら、封印の大穴の意味がないじゃろう。凶悪な魔物ほど、とっくに奈落から抜け出しておるわ」
ぬぐぐう。
たしかに。
「そ、それはそうだけど。でも、それならここにある食料はどうしてるの? あれは、奈落には無いものでしょ?」
「それは内緒じゃ」
「やっぱりあるんじゃない、ここから出る方法!」
「いや、無いったら無い! 正確には、
「ヘル様、それ以上は」
「あ……うむ」
ガルム紳士がヘル様をたしなめる。
ふーむ。
なるほど。
ぜーんぜん何言ってるか分かりませんねえ。
要は無いんですよね、抜け出す方法。
でもちょっと待てよ?
これだけは分かるぞ!
つまり奈落を抜け出すまで使用人って話は!
結局のところ一生使用人と変わらないってことじゃないですか!
は、はめられた……!!
「というわけで早速ですがこちらをお持ち致しました」
落ち着いた口調でガルム紳士が差し出したのは、フリルの付いたエプロンドレスだった。
使用人としての仕事着ってやつですね。
それにしても本当に早速すぎませんか。
どんだけ仕事が早いんですかガルム紳士。
私は正座のまま、仕事着を両手で受け取る。
かっわいいなー。
でも絶対私には似合わないなこれ。
必ず着ないと駄目なのかな?
私はいつも着てる服で仕事したいなー。
「……あ、あの。こ、これ……他の使用人さんたちも皆さん着てらっしゃるんでしょうか……?」
「ふむ。皆さん、とは? 使用人はあなた方しかおりませんが」
ガルム紳士は顎に手を当て首を傾げている。
あれ?
他にも使用人がいるって言ってなかったっけ?
「お伝えしたではありませんか。
……。
…………。
えーと、その二人の使用人って……?
……まさか!
まさかまさかまさか!
最初から私たちを使用人にするつもりだったってこと!?
じゃあ食堂に連れて行ってヘル様のごはんを食べたのも、そのせいで出禁にされたのも、それを回避するために使用人になったのも、すべて紳士さんの計画ッ!?
なんという策士!
というかどこが紳士!
なにが
今日からこの人は策士だ!
ガルム策士と呼ぶッ!!
私が「きっ」と睨みつけると、ガルム策士は口元に手を当てて肩を震わせた。
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