#4 日進月歩のマディー・ロード。

 ――業務連絡ッ!


 見知らぬ土地で、魔王さんと一緒に行動することとなりました!


 ……とは言っても、これからどうすればいいんだろう?

 本当に何もなさ過ぎて、どこへ行けばいいのやら。

 そもそも方角もよく分からない。

 この黒い土がずっと続いているだけ。

 いや、土というより泥に近いかも。

 さっき掘ってみて分かったけど。

 ……ていうか私汚い。

 泥だらけだ。


 そんな私とは対照的に、魔王さんはとっても上機嫌。

 鼻歌まで奏でる余裕っぷり。

 さすがは王。

 こんな泥まみれの私を抱きしめてくれた王。

 やっぱり器量が違うなあ。


「勇者ちゃん、何か聞きたいことはある? 一応ほら、わたし先輩だし!」


 くうっ、眩しい……!


 それにしても先輩、かあ。

 見た目は私とそんなに変わらなそうだけど。

 でも確かに魔物は長寿って聞くし、人生の先輩に間違いないかもしれない。

 よし、そうと決まれば挙手をしよう。

 先輩、質問です!

 

「はい、勇者ちゃん!」

「ど、どうすればそんなに可愛くなれますか⁉」

「ええ!? きゅ、急に何言ってるの⁉」


 魔王さんは顔を赤らめる。


 ああ!

 可愛い。

 でも質問には答えてくれない。

 くうう!

 可愛くなりたきゃ人生をやり直せって事か!

 さすがは魔王さん!

 毒味たっぷりで言ってくれますねえ! (※言ってません)


 じゃあ次の質問。

 先輩、挙手です!


「はい、勇者ちゃん!」

「ど、どうすれば友達を作れますか!?」

「ええ!? そんなこと聞かれても分からないよう……」


 魔王さんは両手で顔を押さえてもじもじしている。


 しまった。

 魔王さんのような子は、友達なんて作ろうとしなくても勝手に出来ちゃうんだ……!

 くうう!

 これは愚問でした、ごめんなさい!


「あの、勇者ちゃん。そういう質問じゃなくて……」

「……え?」

「勇者ちゃんが目を覚ますまでの間この辺のことを調べたから、何か聞きたいことあるかなって思ったんだけど……」


 ああ、先輩ってそういうことか。


 ……そういえば全然気にしてなかったけど、太陽を作らなきゃいけないってそもそもおかしいよね。

 ここ、ドコなんだろう??

 やっぱり、夢の中説は当たっているのかも!?


「あ、そっか! 勇者ちゃんは意識が無かったから、そもそもここが何処なのかも知らないよね!」

「……はい。……やはり、ここは夢の中の世界なんですね……!」

「ううん、現実だよ! ここは人間が魔物を封印するための大穴なの」

「……そうですか。……現実ですか」

「倒すことが出来ない凶悪な魔物をこの大穴に封じ込めるの。一度入ったら決して出ることは出来ない……通称『奈落』……!」


 奈落……!

 

 なんか、響きが私の名前に似てるかも。

 奈落のラクナ。

 なんつって。えへへへへ。


 がしっ。


 へ?


「勇者ちゃん、絶対にこの奈落から抜け出そうね!」


 魔王さんは私の両手を掴み、凛々しい表情でそう告げる。

 燃えるような赤い瞳で、まっすぐに私の目を見て。


 そうだった。

 私と違って、魔王さんは魔物たちを束ねる王様。

 重要な責任とか義務とかがあるもんね。


 私も協力しよう。

 魔王さんがこの奈落を抜け出すために。

 だって、この子には助けてもらった恩があるもん!

 

 ……いや待てよ?


 よく考えたら、抜け出した後はどうなるんだろう?

 やっぱりこの子とは敵同士になるんだよね?

 一応、勇者と魔王だし。


 ま、そんなことは抜け出した後で考えればいいよね!

 魔王さんも上機嫌でくるくる回っているし。


 スンスンスンスン。

 うーん、いい匂い。

 バラの香りね。


 ……。


「凶悪な魔物が封印されているううううううう⁉」

「わあ! びっくりした!」

「しかも絶対に抜け出せないって言ってませんでしたか!? 私はそう記憶しておりますが!?」

「そ、そうだよ、言ったよ! すごく遅れてきたね!」


 どどどどどうしよう!?

 倒せないから封印した魔物たち……。

 そんな凶悪な魔物がこの奈落に沢山いるってことだよね?

 そんななか私は伝説の剣をなくした、もはや村人A。


 え。

 なにこれ。

 どうすればいいの!?

 あああああもうパニック!

 奈落パニック!

 いや、ラクナパニック?

 いややや、どっちでもいい!

 

 あ。


 待てよ。

 そういえば魔王さんは魔物の王だから魔王なんだよね。

 いくら凶悪だろうが魔物は魔物。

 魔王さんの前ではおとなしくなるんじゃないかな?


 なるほどですよ。

 だから魔王さんはこんなに落ち着いているのですね。

 なるほどですなるほどです。


 例えば凶悪な魔物に遭遇したとして。


『ぐはははは! 我は凶悪な魔物! 貴様らを食ってやる!』

『こらっ! 凶悪な魔物! わたしは魔王だよ! めっ!』

『こ、これは魔王様! 失礼いたしました!』

「……ほ、ほんとだぞー。……めっ、だぞー」

『なんだ貴様は、人間じゃないか! よくも我を封印してくれたな! 食ってやる! このちんちくりんめ!』

「ひいいいいい! やめてええええええ!」


 ああああ、駄目だあ!

 乗り切れる未来が見えない!


 もう掘ろっか!

 掘ろう!

 地中の中で一生暮らしていこう!


「勇者ちゃんどうしたの⁉ 出口は下じゃない! 上だよ!」

「わわわ私は地中で暮らします! み、短い間でしたがお世話になりました!」

「地中じゃ太陽の光が届かないよ! 勇者ちゃん死んじゃうよ!」

「ううううう、どうせ魔物に遭遇しても死んじゃうので一緒です! それならいっそ私は地中界生命体として――」


 ぎゅっ。


 あ。

 バラの香り。


「大丈夫だよ。勇者ちゃんのことは、わたしが絶対に守るから」

「魔王さん……」

「だから一緒に抜け出そう。……ね?」


 魔王さんの笑顔は、木漏れ日のように優しかった。

 私はどうみても、ただの足手まといなのに。


 うん。

 この子のために協力しようって決めたんだもん。

 ここまでしてくれて、逃げ出すなんて駄目だよね。

 これでも私は勇者の端くれ!

 勇気を持たなくちゃ、ラクナ!


「はい……! 抜け出しましょう、一緒に……!」

 

 魔王さんの表情がぱあっと明るくなって「やったー!」と、再びくるくる回りだす。


「そうだ、勇者ちゃん名前聞いてもいい?」

「名前、ですか」

「そう、名前!」


 よーし!

 ここは景気付けに、温めていたアレをかましちゃいますか!


「えっと。……ラクナです。……奈落のラクナ。……えへ。えへへへへへ」


 やったあ!

 決まったあ!


「ナラクノラクナちゃんね! じゃあ奈落ちゃんって呼ぶね!」

「えっ。あっ。違……」

「ん?」

「い、いえ。何でもないです……」


 ああああああ!

 やっちゃった!

 目先の笑い欲しさに、私はなんてことを!!


「この大穴と同じ名前なんだね! ふふ、面白いねえ!」


 あ。

 笑ってもらえた。

 じゃあいっか! えへへ。

 

「それじゃあ、これからよろしくね! 奈落ちゃん!」





 

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