Chapter1-見知らぬ大地のエピローグ。

#2 157ミリオンの瞬き。

 ――おい!


 

 ……。


 

 ――おい、貴様! いつまで寝てやがる!


 

 …………ん?


 

 ――いい加減、目を覚ましやがれえ‼




 


 カァー。カァー。


 目を覚ますと、視界には真っ白な雲が広がっていた。

 雲間からは淡い光が差し込んでいて、その光を浴びるように二羽のカラスが旋回している。

 

 どうやら私は、仰向けで寝ていたみたい。

 辺りを見回しても、一面黒い大地が続いている。


 ……ここはどこ?


 ……どうして私、こんなところで寝ているんだっけ?

 いたたたた。

 首が痛い。

 枕が変わると寝られないタイプなのに、よく枕無しで、しかもこんな土の上で熟睡できたなあ私。


 それにしても、なーんにもない。

 黒い土に黒い枯れ木。

 見渡す限り、ずうーっと同じ景色だ。


 空を見上げれば、うっすら雲に、二羽のカラスが飛んでるだけ。

 でもあのカラス、よく見たら青色と緑色なんだなあ。

 珍しい色だあ、へへへ。



 カァー。カァー。



「いや! ここどこよッ‼ ……ゲェホ! ゲェホ!」

 

 あああ、突然大声出したから喉が……。

 でも、一人で広い場所にいると大声出したくなるよね。へへ。


 あれ、でも誰か私を呼んでなかったっけ?


 荒々しく起こされたような気がしたんだけど……。


 あ。


 そうだ。

 私は魔王を倒した後、仲間のみんなに疑われてアイテムを使われたんだった。


 あれ、もしかして夢だったんじゃ?


 実は魔王が幻術を使っていて、夢の中で仲間同士を争わせていた!

 みたいな。


 うんうん。

 きっとそうに違いない。

 そうじゃなきゃ、六日間も一緒に旅をしてきたのに、あんな簡単に絆が崩壊するわけないもんね!


 よーし、それじゃあ仲間のみんなを探すために周囲をお散歩しますかあ!


 ドサリ。


 むむむ。

 立ち上がってみたら、何やら体の上に乗っていたみたい。


 これは……。


 黒い縄……。


 ほどけてる……。


 ……夢じゃなかった……。


「夢じゃないんかーいッ‼ ……ゲェホ! ゲェホ!」


 はい、そうじゃないかと思ってました。

 でも、大きい声を出してちょっとすっきり。


 私は地面に落ちた黒い縄を拾い上げる。

 グレイプニルと呼ばれる、魔物を捕縛するための貴重なアイテム。

 そんなアイテムを使われてしまうなんて……。


 でも、悔やんでたって仕方がない。

 そう、こんな時は反省だ!

 大反省会、開催だ!


 ともあれ、こうなった原因は間違いなく私にあるよね。

 独りよがりの旅路。

 

 魔物にとどめを刺せなくて、戦闘はほとんどせず。

 店員さんが怖くて店には寄らず。

 早くおうちに帰りたくて、最短で魔王城を目指してしまった。

 

 これにより、パーティーの疑念が膨張!

 魔王を倒したというのに、夢みたいな修羅場が勃発してしまった!


 ならば改善案!

 私がめっちゃ陽キャな勇者だったらどうだっただろうか!


「ふっ。こんなか弱い魔物、とどめを刺すまでもないぜ!」Cool!

「ふっ。私に防具なんて必要ないぜ! おまえらみてえな最高の仲間がいればな!」Excellent!

「ふっ。とっとと魔王なんて倒して打ち上げしようぜ! 最高のパーリーでパーリーナイトだぜ!」Perfect‼


 うんうん!

 これならやってることは同じなのに、結果は変わっていた気がする!


 そうか!

 今の私に必要なのは陽キャになること!

 陽キャになって、もう一度仲間を集めて今度こそ魔王を倒そう!


 よーし!

 そうと決まれば陽キャになるための練習だ!

 修行だ! 気合だあー!


 えーと、陽キャ。陽キャ。


 ……。


 サンプルがいないッ!

 見本となる友達がいないッ!

 そもそも私には友達がいないッ‼


 あああああああ!


 悲しい。

 一人で勝手に大ダメージを受けているこの状況が何より悲しい。


 いったい何をしているんだ私は。

 きっと友達がいれば、こんな状況もへっちゃらに違いないのに。


 とにかく、サンプルが無いのは仕方がない。


 えーと。えーと。

 

 ……私の思う陽キャを想像して創造!

 開けよ私のバイブルぅ!

 上げろよ私のバイブスぅ!ふぉーぅ!


 いいぞいいぞお!

 陽キャのラクナ、乗ってきたぞおー!


「ヨウヨウここはぁドコなのヨウ? 勇者はなんでも即対応!」

「すごーい! すっかり元気になって、よかったねえ!」

「ソウソウ私は元気です! 勇者の長所はまけんきで……す……?」


 ……え?


「あれっ。もう終わり?」


 …………え?

 

 ………………えええ?


「ぎゃあああああああああああああああああ!」

「うわあ! びっくりしたあ!」


 だだ誰⁉

 だれだれだれだれだれだれだれだれ⁉


 いや! というかもう恥ずかしい!

 この人だれとかの感情を大きく上回ってとにかく恥ずかしい!

 一人だったじゃん!

 一人だったはずじゃん‼

 穴はドコ⁉

 入らせて‼

 穴に入らせてえええ‼

 無いよお! 穴無いよお! 何にも無いよお!

 よし、掘ろう!

 掘れ掘れ掘れ!

 わんわんわんわん!


「ちょっと、急にどうしたの⁉ 大丈夫⁉」

「すみません! ちょっと大丈夫じゃないです! 一回入ります!」

「一回入ります⁉」



 ……入りました。



 ふう、危ないところだった。

 冷静になったところで、この子は誰だろう?


 金色でふわっふわの髪の毛に、おっきい真っ赤な瞳。

 すっごく可愛い。

 同じ生き物とは思えないくらいの美少女だなあ。

 

 すごく心配そうに、こっちを見つめてる。

 えーっと、どうしようかな。

 悪い子じゃなさそうだし、何かお話ししなくちゃ……。


「あ……あのー。……取り乱してごめんなさい。とりあえず落ち着きました」

「よかったあ! 幻術にかかっちゃったのかと思ってびっくりしたよお」


 美少女は胸を撫でおろしている。

 うんうん。

 悪い子じゃないどころか、間違いなくこの子は良い子!

 私の優しっ子やさしっこセンサーがそう告げている!


「と、ところで……どこから……?」

「あ、わたしが来た場所? えっとねー」

「あ、いえ。そうじゃなくて……どこから聞いてました? 私の独り言……」

「ああ! なんか大声で叫んで、ゲホゲホ言ってるところ!」


 ほぼ最初からじゃんんんんんんんん!

 

 ……って、違う違う。

 それはとりあえず置いといて……。


「勇者ちゃん、だよね!」

「……え? あ、はい。……えーと、あなたはいったい……?」

「えー? 忘れちゃったの、わたしのこと」


 え!

 誰だろう……?

 こんな、明らかに陽キャオーラ全開の美少女に知り合いなんて、私に居るわけないよ。

 

「じゃあこれで、分かるかな?」


 美少女は両手を広げると、ポン!と煙と共にアイテムを出現させる。

 眩しいくらいの笑顔で、出現させた白い旗を両手で振って見せた。


 パタパタパタパタ……。


 え。

 白旗をパタパタ。

 ま、ま、まさか……!


「ま、まま魔王おおお⁉」

「せえーかいっ! ふひひひ!」





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