【Section6】
気が付くと、白い天井。
そして、心配そうにのぞき込む中年位の男性、女性…20代位の男性がいた。
誰…だろう…?
「もえ…気が付いたの…?」
女性が涙を浮かべて、私の頬を白い細い手で撫でる。
戸惑ったけど、この手の感触…なぜか覚えてる…。
「すぐに亮治くんを呼ばないと。もえ…パパだよ…覚えているかい?」
中年の男性が優しく髪をなでてくれる。
あったかい…大きい手…やっぱり何か覚えてる気がする…。
「あなた…もう年頃なのだから、髪の毛はやめてあげて…。」
「おお、すまん…やっと会えたものでな…つい…こうすると喜んでくれたものだから…そうだな、ごめんよ、もえ。」
「今、ボタンを押したからすぐに亮が来る。俺は君の兄の
覚えてるかなぁ…よく亮と3人で遊んだけど…。小さかったしなぁ…。」
本当の家族が、目の前にいた。
まもなくして、ノックの音がした。
誰もが返事をする前に勢いよくドアが開く。
「もえ!良かった、気が付いて…。」
「亮治さん…。」
涙ぐんでいた。そんなに、心配してくれたんだ…。
「よかったな、亮治…。」
後ろには、亮治さんと同じ顔をしたスーツを着た男性がいた。
亮治さんが…2人…?
そんなわけない。
「あぁ、こっちは俺の双子の弟の亮一。覚えてない…よなぁ…。
亮一はあの頃、寮に入ってて家にいなかったもんな…。」
双子…よく似てるけど、見分けはつく…やっぱり知ってるんだろうな、私…記憶がないだけで…。
「ちなみに亮一は警視庁の組織対策4課に配属されててね。君の事も亮一がつきとめてくれたんだ…。僕はその情報をもとに転勤してきた。まさか、灯台下暗しだとは思わなかったよ…。葛城のおじさんもおばさんも、ばらしたら君を殺すって脅されててね。一ノ瀬一家に…。」
「一ノ瀬…一家…。」
「一ノ瀬一家っていうのは性質の悪い反社会勢力の一端でね。今回の君の件以外でも
何件かこういう事例があって、調べるのが大変だったんだけど、ある事件で手口が明らかになってね。おじさんとおばさんにきつく問いただしたら、こういう事でね…。」
亮一さんが、頭をかきながらそう言った。
「今回の君の事件は一課が担当してるんだけど…えっと突き落とされた件ね。
実行犯も主犯も逮捕されたから安心して。あと、一ノ瀬一家も逮捕状出て家宅捜索の上逮捕したし、子供に関して…ああ、一応もえちゃんの弟になるのかな?小学生の。」
「…はい…。」
「あの子は、児相に引き取ってもらうことになったって報告だけしとくよ。」
「あ、はい…弟とはあまり接点もないので…。」
あの子は、甘やかされて育ったから児童相談所も手にあまるだろうなぁと思いつつ
ゆっくりと亮一さんのいう事をかみ砕いていく。
要するに、私は小さい頃に誘拐され一ノ瀬に娘として育てられた一方、ずっと変な薬物をのまされて記憶や自分自身の事などを思い出さないようにされ、本当の両親の方にはずっと脅しをかけて金をせびり取っていたという事らしい。
この病院に預けたのは、近くに他に病院がなかったからというのと、葛城家の経営する病院なのでこれも脅して入院費を本当の両親に出させていた、と。
事情は院長や上層部がしっていたので私はずっと特別室だった、というわけだ。
「ちなみに、誰が君を突き落とせって言ったのか知りたいかい?」
「おい、亮一…。」
「知りたいといったところで、捜査上のことは話せないけど主犯が誰かって事位は被害者として知っておいてもいいのかなと思ってね。」
「…私……何か…悪いことしたのかな…。」
心当たり、まったくない…。
「それは、俺にも非がある事だから…もえは全く悪くない…。」
「そうだな。お前は急ぎ過ぎた…まぁでも女の嫉妬って恐ろしいよな…とだけ言っておこうか…。」
女…?
亮治さんが原因で、女…?
うーん…。
「すみません、やっぱり心当たりありません。」
「そりゃそうだわな…勝手に嫉妬して犯行に及んだって本人も認めてるしな。」
「そういうのは、退院してからにしてくれ。ごめんよ、もえ。彼女も疲れたろうから、今日は皆さんお引き取り下さい。」
「あ、ああ…もえ、仕事の合間にまた来るよ。」
「…お…父さん…。」
「うん、うん、ちゃんとまた来るからな。それまでいいこにしてるんだぞ。
きっと亮治君が原因をつきとめて治してくれるから。」
その様子をみて、母がくすりと笑った。
「あなた、もえはもう16才なんですからいいこにして待ってろとか子ども扱いしないであげてくださいな。もえ、お母さんは待合室にいるからね。また面会時間になったら来るわ。樹生、貴方はお父様と一緒にお帰りなさい。明日も大学でしょ。」
「うん…もえ、おうち帰ってきたら沢山話そうな。その前にまた来るけど…。」
兄は、私の頭をそっと撫でながらそういって微笑んだ。
「おにい…ちゃん…。」
「やっぱ、妹って可愛いな…。」
照れくさそうにして、兄は父の後ろについて部屋を出ていく。
母も、にっこり笑って小さく手を振り外に出て行った。
「じゃあ、俺も署に戻るよ。また何か進捗あったら来るから。」
「あぁ、亮一。ありがとな…。」
何だか、同じ顔同士が話してるのって不思議…。
声は若干、違うんだなぁ。
それはそうと…また、病室に亮治さんと2人きりになった。
なってしまった…自然と、胸が高鳴る。
「もえ…。」
「はい…?」
「君の体の中で悪さしてるものが分かったから、明日から3日間その治療になる。
少し点滴の時間が長くなるのと、体力と抵抗力つけるために食事の量を増やす。
副作用で、少し吐き気とかあるようだったらすぐに言って。」
「はい…ありがとうございます…。」
今までの治療も、ひょっとしたら…。
「前の先生の処置だと、入院が長引くだけで君の体の治療の足しにもならない。
だから、栄転をそそのかして僕が後釜になった。一週間後には必ず君は外で僕の隣を歩いてる。保証するよ。」
「あの…学校は…行ってもいいのかな…。」
「もちろん。ここからご実家は少し遠いから転校にはなるけど、通えるようにおじさんとおばさんが手続きしてるから大丈夫。卒業までは、結婚も待つ。治る見込みが
できたからね。ほんとは今すぐにでも結婚したいけど、それだと僕の望みだけになっちゃうから、君の望みが学校に通う事ならちゃんと待つよ。」
「亮治さん…。」
「昔の記憶がなくても、これから僕を見てくれたらいいから。それで充分だから。
気負いはしないでほしい、いいね?」
柔らかく微笑む彼の顔がまぶしい…。
こんなに幸せでいいのだろうか…。
「あれ…これ…もえ、タロット占い趣味なのかい?」
!…このカード…どうして…ここに…?
「う、うん…これはね、その…友達…そう…友達にもらったの…。
恋人のカード…。」
何でか、思い出せないけど声だけは覚えてる。
大事な、そう…何かを教えてくれた
ありがとう、私…幸せになるね…。
その時、どこからか声が聞こえた気がした。
どこで聴いたかは思い出せない歌と共に、おぼろげに。
「愛の実も固く、結ばれますように…。」
遠く遠くで、鐘の音のように心にやさしく響く、綺麗な声が…。
そこは、私の魂の在処だったのかもしれない。
FIN
ココロノアリカ~癒場所の物語・タバーン~ 藤棚更紗 @neko96_ginhime
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