終わり

「地蔵!村の中に入らせなさい!」


 村に帰った私は、いつものように見えない壁に邪魔される。


 地蔵のやつは、いつもの嫌なツラのまま。


「……」


「何するかって? 坊やのものを取り戻すのよ」


「……」


「もちろんよ! 村のやつらも皆殺しよ!」


「……」


「そんな訳が…… 坊やだってきっと!」


「……」


「何その条件! 私が乗るわけないでしょう!」


「……」


「……分かったわ、性悪いな神様め、聞いてあげるよ!」





「ぽっぽぽ…… おはよう寝坊助さん」


「僕はどれだけ寝た……?」


「丸一日よ、妖怪の家にいるのに、呑気なものね」


 村から戻った後、坊やは中々起きないから焦ったけど、ただ寝坊しただけみたいだ。


 でも、彼が起きと以上、聞かなきゃダメなことがある。


「坊や、あなたはこれからどうするつもり?」


「それは……」


「いいこと教えてあげる、村のやつらがあなたの家を取り壊したわ」


「えっ……」


「中々の光景だったわ、村人が『八尺様に魅入れた野郎の家を壊すぞ!』ってよ」


「そんな!」


 坊やの顔はどんどん絶望的になっていく、大事な物が全て失ったからだろう


 あのイキリな坊やがこんな顔になるなんて、これも中々な物だ。


「分かるか? 君にはもう帰る場所がない」


「……」


「食べ時だね」


「そうだな」


「このまま生きるより、私に殺される方がいいじゃない?」


「……八尺さんの言う通りだ、僕にはもう生きる意味がない」


「分かってるじゃないか」


「八尺さんになら、殺されてもいい」


 坊やは顔を上げ、私の顔を見て寂しい顔をする。


「僕の死が八尺さんへの恩返しになれるのなら、それでいい」


「えっ……」


「今まで僕に付き合ってくれて、そして守ってくるて、ありがとう」


 一雫の涙が、頬に流れる。


「……そうっか、じゃ望み通り」


「はい」


「いただきますー」


 私は手を坊やの頭の方へ伸ばす、そして……


 坊やにデコピンした。


「痛っ! 何するのよ!」


「バーカー」


 坊やの抗議を無視して、私は後ろで置いた物を持ち上げて、坊やに投げつける。


「これを持って」


「うわ!? 何?!」


「親の釣竿とスマホだよね? 大事にしなさい」


 それは、私が村から持ち帰った釣竿とスマホ。


「どうして!? 村人たちに何をした!?」


「心配しない、私は村になんもしていない」


 心配そうな坊やの顔を見て、私はイラッとした。


 何よ、全部地蔵のやつの言う通りじゃない、どこまでも甘い坊やだわ。


「と言うより、したいでもできないけどね」


「どう言うこと?」


「地蔵のやつが、村に入りたいなら、力を捨てろって」


「えっ……」


「だから今の私は坊やと同じ、ただの人間。 ぽっぽぽ、おかしいな話でしょう」


 今の自分な姿があんまりにも滑稽で、思わず笑ってしまた。


「どうして!? どうしてそこまでするんだよ!? 僕なんかのために……」


「ほら待って」


 私は坊やの口を塞いて、そう言う。


「別に、君と関係ないわ。 ただ私が人間だった頃、君みたいに村八分されたから、やつらに好き勝手させるのが嫌なだけ」


 それは、私の紛れもない本心である。


 誰にも愛されてない私と同じな坊やがクソ野郎共の勝手で全てを失うとこを見るなんて、死んでも嫌だ。


 全ては私自身のため、別に坊やを心配することなんて、これぼっちもない。


 ……本当だよ? 多分。


「でも、それなら八尺さんは今までの頑張って来た全てはどうなるんだよ!」


「はーいはーい、うるさいわね。 けっこう喋るじゃないの、ならもう治ってるよね」


 私は立ち上がり、私物を片つける。


「準備しろ、いくわよ」


「え? どこに?」


「町よ、もう家がないでしょう。 私も力がないから、このまま山で暮らせないしね」


 先のことを思い出し、私は大きな溜め息をつく。


「地蔵が町に助けてくれる方がいるってよ、だから今から引っ越しだ。 本当、坊やのせいで神に大きい借りができたわ」


「でも、どうして僕も……」


「分からないの? 私はババアだからさ、坊やがいないと現代の町に暮らせないわ」


 坊やに呆れを感じつづ、私は坊やを持ち上げる。


「私に恩返しをしたいでしょう? これがチャンスだ、だから黙ってついて来なさい」


「でも……」


「まだ何かある訳?」


「僕、足に力が入れない……」


「ぽっぽ、私の背中に乗りな」





「坊や? ……もう寝てるか」


 下山の途中、いつもうるさい坊やがなぜ黙ってると思いきや、彼は既に寝た。


 横目で彼の寝顔を見て、そこには年齢にふさわし無邪気な寝顔があった。


「黙っているとかわいいのにね」


 そんなことに感慨を感じつづ、私は坊やの頭を撫でる。


「いい子いい子」


 よく考えると、坊やにお姉ちゃんっぽいことをするの、今が初めてだよな。


「これから幸せになりなさいよ」


 夕日の下で、私たちは新し家への帰路についた。

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八尺様はビビらない坊やが気になる @optimumpride

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