第4話 サイドニア騎士団、シグフレイの報告

王都防衛大臣グラヌス殿

サイドニア騎士団シグフレイより報告書を認める。


群雄割拠する思想も是非も異なる国々が一つの方向を向くほどに恐ろしき甚大な被害を齎すかの者らが、王都北部の街エルニアに襲来した。

我々王都の盾サイドニア騎士団の精鋭らはすぐさまエルニアに向かいこの問題を解決すべく隊列を組み戦いに向かった。


エルニアの街に到着時、防衛騎士や義勇兵が僅かに残り、街は既に殆どが蹂躙され、兵や無辜の民が街の人々が熊に襲われたかのように食いちぎられていた。

かの者らは我々人間を食料にしていたのだ。

その姿は人とあまり相違はないのにも関わらず、恐るべき膂力を有し、骨ごと断つような咬筋力を有していた…先端が開かれた記録通りの惨状がいざ現実として目の当たりにすると、改めて本能から恐怖を覚えた。


国ごとにかの者らは、ヴァンピール、吸血鬼、グール、堕天使、血の獣、様々な呼び方をされているようだが、一つ確かであるのは無策で力や軍事力を頼りに、矛盾した表現だが、平時の戦を行えば勝利はないと長年の経験から実感を覚えた。

各国が有する希少資源、蒼鉄の存在、サイドニア騎士団の槍の鋳造時に配合を許された一本が小貴族の財産にも値するこの蒼鉄の槍が唯一、かの者らの心臓を穿つことにより、戦力の無効化を成しえることが可能であることは幸運な事実であった。


我々サイドニア騎士団の被害も深刻なもので、騎士団精鋭200名の内、78名がこの戦で命を落とした。皆、死傷者も出るような過酷な訓練を経て蒼鉄槍の所持を許された猛者、戦の中にしか生を実感することができないような者たちだ。

死を恐れることはないつもりであったが、生き胆を抜かれた民草を見て、その気持ちも過去のものとなった。


私シグフレイは騎士団の長を担いまた、騎士団長の資格たる最強の称号も拝しており国王からの信頼も厚く、数々の戦場で参謀も務めた。

私自身が事実どれほどの強さを有するかは世界をまわなければわからないが、槍術一つで言えば大陸一の実力を有するという自負がある。

小さな小競り合いで後れを取ることはないと信じたいが、人ひとりの実力の戦ではなく、人間すべてが同じ敵に晒されており、その数も得体が知れず、未だに戦の規模が計り知ることが不可能である。


エルニアの村の防衛戦を経てグラヌス殿へ注進する。

一.首都の防衛に対して国家危機段階の防衛線を敷くべきである。

二.防衛線に決死隊を配し、時間稼ぎを目的とした戦いを行うべきである。

三.各国の民を急ぎ王都に疎開させるべきである。

四.蒼鉄全てを兵器に用いるべきである。

五.投獄中の狂い狩人マドゥケウスを放免し我が隊の預かりとするべきである。

六.古の存在である竜族との同盟を図るできである。


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報告書の裏に乱暴に書き綴られた文


エルニアは我が故郷である。私の妻はサイドニア騎士団長の妻として、かの者らの襲来に際し指揮を執ったようだ。

それを知る由がある。町の大広場に一際無残に凌辱され齧り尽くされた亡骸が見せしめに串刺しにされていた。

その亡骸の手の指輪は私が結婚を申し出た際に渡したオパールの指輪であった。

我妻エティエンヌだ!

私はこの兜を脱ぐことは二度とない。サイドニア騎士団は王国の忠実な槍であり、槍に感情は必要ない。

冷静さを欠いてはいけない。決して恐怖や憎悪に飲み込まれてはならない。

だが、この胸に湧く黒い衝動はいかようにすればよいのだろうか。

正直な気持ちを吐露すれば、各国の長たちが戦略を間違え、我らを死地の中の死地に置き、総力戦を行うことを望む一心がある。

勝利や敗北ではなく、報復のための地獄のような戦いを望む。

王都防衛大臣グラヌス殿、常識を定石を信じるなかれ!

神殺しと心得よ!

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Bloodless 鉄野要 @steelshots

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