第3話 竜族の怒り
ガルム山脈の奥地は世界で最も大きな火山帯であり生物の侵入を許さない。
それは鉄帝国をはじめとした人間たちにおいても血を啜る獣においても然り。
誰も目を向けすらしない死の地帯だった。
そこに住まう者たちがいることを信じる者たちにとって、ガルム山脈の奥地には名前を呼ぶことを畏怖される存在がいるとされていた。それが竜族の存在だ。
竜は歴史のなかで何者にも与さず何事にも顧みず静かに生きていた。
鉄血大戦がはじまってガルム山脈に訪れるものが2人いた。
一人は血を啜る獣たちの王の子飼いの暗殺者、オウル。
もう一人は人間の弓術師であり探検家、鉄帝国と長年戦争を続けたオフィーリア王国のベルナデッタだ。
それぞれが我らの陣営にとガルム山脈の奥地にたどり着いた。
竜族のハキム翁が彼らの問答に応えた。
血を啜る獣のオウルは言った。
「人間どもを殲滅し、魔の者らの千年帝国を築こう」
かつて自分が屠った若竜の角を差し出して笑みを浮かべた。
オフィーリア王国のベルナデッタは言った。
「私たちの戦いは敗北必至です。竜族の加護を、竜族の参戦を望んでいます」
オフィーリア王国の聖なる剣、カナンウェルンを差し出した。
ハキム翁はそれぞれの話に傾聴し、二者を無事にそれぞれの帰路へつかせた。
暗闇の中でハキム翁は思案していた。
世界の均衡が崩れつつあるなかで、確かに竜族は重い腰を上げなければならない時代が訪れつつあると。
そしてそれぞれの貢ぎ物を目の前に何百年ぶりに表情を露わにして呟いた。
「オウルという輩が差し出した若竜の角は竜族の王の息子である氷竜マキナの遺骨である。そしてベルナデッタという人族の若い女が差し出した聖剣カナンウェルンもまた、氷竜マキナの心臓の骨で鋳造された剣である。運命が、否が応でも我々古き者たちの参画を求めているのか…」
ハキム翁の背後にガルム山脈を治める竜族であり、人の姿に姿を変えることのできる魔竜であり成竜になったばかりのマクスウェラ女王が立っていた。
「使いの者らから話は聞かせて頂きました。」
マクスウェラは沈鬱な表情だった。
「かつて父上と母上が参陣なされた古代戦争、人間たちはドラゴンスレイヤー作戦と呼んでいたと聞きます。世界中からあらゆる生き物が私たちのブレスで減少しましたが、斃れた竜たちから数々の宝具が作られました。私たちはいつから、いつから狩られる存在になってしまったのでしょう」
翁は全てを理解した上で俯く。
「マクスェラ様は父君と母君の薫陶を受けずにお育ちになられましたが、私たち竜族の悲痛や無念を誰よりも慮るお優しさがあります。たとえこのガルムの地がどうなろうとも、マクスウェラ様のご意志に、決断に反する竜はおりません」
「私が愚かな決断をしようというのを、やはりハキムはお見通しなのね」
「あなた様のご決断に全てを委ね、私の叡智をお使いください」
「わかりました。」
マクスウェラの瞳が輝き、ガルムの地に咆哮が響いた。そして若き竜が叫ぶ。
「我々は生きている!!我々は紛れもなく生きている!!命に優劣はあろうか!!命に貴賤があろうか!!ない。この世界に生きるありとあらゆる命は運命の赴くがままに生を謳歌する権利を有しているはずだ!!」
ガルム山脈のあらゆるところから雄たけびが、天に向かって吐かれたブレスの火柱や氷柱が雷が百花繚乱の如く放たれた。
「然り…!!然り…!!」
ガルムの竜たちが叫ぶ。
「この当然の権利すら害する世界に蔓延る者らは我らを獲物と、我らを戦力と、狡猾にも利用していることに私は、いや私たちは、竜は怒りの頂点を越えた!!我らの生は何千年にも及ぶが、今ここに竜の、家族の命を危ぶむ存在がガルム山脈に及ぼうとしている!!ここに宣言する宣誓する!!我らのブレスが天から地上に降し災厄により地上の全てを灰燼に帰すときが来た!!我らは誰にも与しない!!我らは誰にも阿らない!!続け、この戦争の覇者たる存在は我らぞ!!」
鉄血戦記における竜族が第三勢力となる日が来た。
https://twitter.com/tetsukuzu666xyz/status/1630820402766430209
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