第2章:大嵐前夜
第9話 転入生?
「はい、これ」
朝の通学路。
隣を歩くミヨからスマホが手渡される。不服そうに渡されたスマホの画面には、鳳仙という文字が。
「やぁ、日々くん。ありがとう、ミヨちゃんを助けてくれたみたいじゃないか」
「はぁ!? ちょっと鳳仙、日々と連絡取ったの!?」
「もちろん。君が今そこに立っているのはボクのアシストあってこそ、お礼を言ってくれてもいいんだぜ?」
「……」
苦い顔を見せるミヨ。
鳳仙の行動は気に入らないが、彼の言う通りなので反論ができない……という所だな、多分。ぐぬぬとなっているミヨを尻目に、オレは鳳仙に話かける。
「で、どうしたんだ。オレに何か用?」
「そ。まずはお礼をとね。どう、身体の調子はさ」
「あー、まぁ、あんまり良くはないなぁ」
アンシエにはかなりボコボコにされた。身体に痛みは若干残るが、日常生活に支障をきたすほどではない。
「日々は回復力が凄いのよね。びっくりするくらい」
「みたいだね。それも才能だ。良かった良かった。っていうわけで、君たちに一つ提案があるんだけどいいかい?」
「提案?」
「そ」
気の抜けた返事がスマホから響く。
「亜月日々くん、今後は君とも取引きをしたいと思っていてね」
「取引き?」
「そ。魔物の出現情報や他にも役に立ちそうな情報を君に流すってことさ」
「それは助かるよ。でもアンタ情報屋なんだろ? オレ、金とか払えっかなぁー?」
「お金は別に必要ないさ。ただ、貸しにしてくれたらいいさ」
「貸しって……」
それが一番怖いんだけど、とオレは内心で思う。
ミヨも鳳仙に貸しを作っているんだろうか。オレはミヨに視線を移すと、彼女は眉を顰めて頷いた。どうやら貸しを作っているらしい。どれほどの貸しがあるのか、あんまり想像したくはないな。
「ははは。まぁ、来るべき時に力を貸してくれるだけでいいからさ。ああ、信頼の代わりと言ってはなんだけど、ミヨちゃんも知らない情報を一つ」
「どうせしょうもないことなんでしょ?」
「君たちの通う学校には、後二人野良の能力者がいる」
「……マジ?」
オレとミヨは足を止めて顔を見合わせた。
ミヨの話によると、人間の能力者は基本的にスミケイ――スミタ民間警備会社に所属するのが普通らしい。自分たちの他にも、能力者が同じ学校に二人もいるなんて、ちょっと信じられなかった。
「まぁ、その二人が君たちの敵になるか、味方になるかは未知数だ。じゃあ、また何かあったら連絡するよ」
「ちょっと! それなら誰かまで教えなさいよ、ねぇ!」
「――」
「通話は終了されたな」
「あの適当情報屋め……!」
ミヨの右手から炎が燻った。
どうにも、あの炎はミヨの怒りに反応して少し漏れ出るらしい。なんというか、不便というか……。
「鳳仙とはどこで知り合ったんだ?」
「ある日突然、カグツチの方にDMが来てね。私の本名と住所を送ってきたのよ? 信じられる!?」
「うわぁ……」
単純に引いた。
どうやってそんな情報を調べているのだろうか。(あいつに聞いたところで答えは返ってこないだろうけど)情報を集める能力者だったりするのだろうか。
「警察に突き出そうとしたけど、魔物のことも話し出して情報を出すって言うから乗っかったの。鳳仙とは会ったことないし、こっちから連絡することもできない気ままな奴よ。でも、情報の精度だけは確か」
「なるほどなァ……何者なんだろうな?」
「そこまで興味はないけど……あーっ!」
何かを思いだしたように、ミヨは叫んだ。
「どうしたんだ?」
「そういえば、大切なことを聞き忘れてたわ!」
「大切なこと?」
「そう、昨日ちょっと気になったことがあって調べて見たのよ。アンシエが来ていたスーツに入っていたロゴマーク。見覚えがあったから!」
「ああー……」
そういえば、アンシエのスーツには胸辺りにロゴマークが刻まれていた。六角形っぽいマークだったことは覚えている。
「あのマーク、六英重工業のロゴマークなのよ!」
「六英重工業ってこの前会った龍宮寺が社長の?」
頭に思い浮かぶのはキャラが濃すぎる老人の姿。ミヨは首を縦に振ってオレの言葉を肯定した。
「それについて聞こうと思ってたのに、うっかりしたわね」
「まぁ、すぐにまた連絡が来るだろ。その時聞けばいいさ」
「ええ、そうね。あ、今日の放課後はその作戦会議ってことで! オシャレなカフェでお茶でもしましょ」
「オッケー、分かった」
別にオシャレである必要はないと思いつつ、ミヨの提案を受け入れるオレ。そんな取り留めもない会話交え、オレたちは校門をくぐっていった。
◆
キーンコーンカーンコーン。
ありきたりなチャイムが鳴れば、教室に先生が入ってくる。いつもは担任の先生が入ってくるのだが――今日は桜井桜子先生だった。
いつも通りの朝礼の時間に訪れた、いつも通りじゃない時間。ちょっとしたざわめきが教室に生まれ始める。
「担任の田中先生ですが、お身体を壊してしまったようで長期休職となってしまいました。田中先生が復職するまで、私が新しい担任となります。よろしくお願いしますね」
「桜井先生って担任できたんだ」
「田中先生全然元気だったのになぁ~」
「厳しいから嫌だなぁ……」
なんて声が口々にあがる。
桜井先生は我が校の教師陣の中でも一際目立って真面目な先生だった。確か、今年の六月頃から突然現れた先生で、非常に優秀。オマケに美人だから人気は高い……はずなんだけど、事務的過ぎるその言動で生徒先生を寄せ付けない人だった。
「それと――このクラスに転校生がやって来ます」
「え!?」
今度こそ、クラス中がざわめいた。
かくいうオレも、流石にビックリ。転校生、そんなイベントが自分たちに発生するとは。入って来てください。そう扉に向かって声をかける桜井先生。
その言葉に従って、がらりと教室の扉が開け放たれた。あれほど騒がしかった教室が、一気に静かになる。みんながみんな、転入生の姿に注目していたからだ。
すらりと、足が教室に入った。
そこからスカート、上半身と来て――白い髪が見えた。
そうして姿は見せるのは低身長な女子生徒。顔にかかるくらいに長い白髪と大きくて丸い赤縁眼鏡が印象的だった。
「は、白髪……?」
その見た目は言葉を選ばないならば陰気。
なんというか、教室の隅っこにいそうな感じ。顔に髪がかかってその表情もやや見えない。
教壇の中央に立った転校生は。
「どうもッス! 自分が転入生ッス!」
「……」
と、その陰気な見た目とは全く想像もできないほどのハキハキとした声でぺこりと頭を下げてみせるのだった。
面を喰らうクラスメイトたち。そんなオレたちを尻目に、転校生はオレたちに背を向けてチョークを片手に黒板に文字を書いていく。
身長が低いからか、どうしても黒板の文字は下に寄ってしまうようだった。
黒板に書かれた文字は――角田 輪廻――リンネという名前の羅列の圧が凄まじい。誰もが、あれってキラキラネーム? というような疑問を抱いたところでリンネはオレたちの方へと振り返った。
「自分、カドタメグルッス! リンネって書いて、メグルと読むッスよ。珍しいでしょ? 前の学校だとロールってあだ名で呼ばれてました! みんなもそう呼んでくれると嬉しいッス!」
チョークを払って、メグルは再びぺこりと頭を下げる。
なんともまぁ、快活な転校生だ。
「さて、少し質疑応答――いえ、質問タイムと行きましょう。角田さんに質問がある人は挙手してください」
ババっと挙がっていく手。
オレはそれをぽけーと眺めていた。なんだか、転校生の視線がやけにオレの方に向けられている気がするけど、多分気のせいだ。
「はい、なんスか?」
「好きなものはありますか?」
「好きなモノ! 好きなモノは超然マニアッス! 知ってるッスか? 知ってるッスよね! 今でも超有名な長寿アニメーション! 自分それの初代作品からの大ファンなんスよ! 初代作品っていうのはファンの中でも定義が分れるところなんスけど、自分はその中でも原点主義者っていうものなんスよ! 原点つまり、このアニメが初めて放送された1960年代バージョンのことを言うんス! あ、超然マニアが好きな人ならもちろん知ってると思うスけど敢えて説明させてくださいッス! 超然マニアは1960年代のシリーズから1980年代のシリーズに移る時に一度大きなリブートが行われているんスよね! 今では、1960年代バージョンはクラシックっていう括りになっていて、正直評価も低いんスけど……でも、今まで続く大人気コンテンツになった源流がそこにはあるッス! 今の超然マニアは知ってる人は多くても、1960年代バージョンは知らない人が多いと思うんですけど! もし興味がある人がいたら自分に言ってくださいッス! 一緒にビデオを見るッス!」
「……」
教室を包み込む静寂。
今、転校生がとんでもない早口で何かを喋ったような気がした。その話の内容に何一つついて行けなかったけど――。
こほん、桜井先生の咳払いが教室の空気を入れ替えた。
「では、角田さんは……亜月さんの隣に座ってください」
「え」
「はいッス! どもども~。みんな仲良くしてくださいッスね~」
最後部のオレの隣に来るまで転校生は笑顔でクラスメイトに手を振っていく。愛想はとてもいい子なんだけど……なんというか、この転校生はヤバいタイプのオタクっぽかった。
「改めて、自分は角田輪廻ッス!」
「あー、オレは亜月日々だ。よろしくな?」
「はいッス! いやぁ~、隣がヒビさんみたいなかっこいい人で嬉しいッスよ~!」
ガタン、ガタンと机を移動させてオレの机にみっちり接近させるメグル。
「色々分からないことが多いんで、サポートお願いするッス!」
「あ、ああ……」
その底抜けの明るさにオレはただただ押されるしかなかった。
なんというか、このメグルという転校生……厄ネタな気がする。
◆
「はいッス! はいッス! 答えるッス、センパイが!」
「はぁ!?」
「早弁なんて古典的なことするなよ……昼休み腹減ってもオレは知らねぇーからな」
「大丈夫スよ~、大丈夫大丈夫!」
「――センパイ~! お弁当ちょっと分けてくださいッス!」
「……」
「体育館ってあっちッスよね! センパイ競争ッスよ~!」
「ちょっと待て! そっちじゃねぇって逆だ――はえぇな!?」
「仲良く反省文ッスね~!」
「……だな」
今日一日、散々だった。
メグルはトラブルメーカーだ。陰気な見た目とは裏腹にフットワークは軽い、コミュニケーション強者、けれど、それ以上になんというか、人を振り回すタイプ。
元気よく手を挙げたかと思えば、オレになすりつけてくるし――。
早弁をしたと思ったら、オレに昼食をせがむし――。
体育館の場所は間違えるし――。
そのせいで遅刻して、反省文を書くハメになるし――。
とかく、今日はメグルに振り回されっぱなしだった。疲れた、かなり。
「センパイ~、ちょっと町の案内をして欲しいんスけど」
どうしてかメグルはオレのことをセンパイと呼ぶ。(多分、この学校で先にいたからだろうけど)メグルに誘われた瞬間、頭に過るのはミヨの顔。
今日はちょっと都合がつかない。
「あー、今日は――」
「日々じゃない、探したわよ――って、誰その女」
間が悪いのか、何なのか。
ミヨとメグルが邂逅してしまった。昼ドラで聞くような台詞を話すミヨにツッコミを入れようか迷っていると。
「ども~ッス! センパイのお友達ッスか? 自分、今日ここに転校して来た角田メグルッス!」
「へ、へぇ~……その転校生が日々みたいな陰キャに何の用なの?」
「おい」
「町について案内して貰おうと思ったんスよ~。ダメでした?」
「……」
ジトーっと、ミヨがオレを睨んだ。うーん、多分、アタシとの約束があるのに、どうしてこんなことになってるのよ! というところだな、うん。
オレは彼女から目を逸らす。
違う、これは不可抗力なんだ。そんなことを口にしてしまうと、より“っぽく”なってしまうのでやめておいた。
「アタシたちはアタシたちで大事な用事があるんだけど?」
「デートッスか?」
「ち、違うわよ! そんなんじゃないし!」
「じゃあ、いいじゃないッスか~」
「なんでそうなるのよ! 日々、お前からもしっかりと断りなさい!」
「あー、そうだよな……」
チラっとメグルを見ると、メグルはキラキラとした瞳をオレに向けている。
ああ、こういう無邪気な目にオレって弱いんだよなぁ……。ため息を吐いて。オレは頭を掻いた。
「なぁ、ミヨ。今日はメグルに付き合ってやってもいいか? 引っ越して来たばっかりで右も左も分からないクラスメイトを一人にするのはなんかさ」
「えーっ! せっかくカフェも調べたのに……まぁ、日々がそういうなら分かったわよ」
ぽつりと、ミヨが呟いた。残念そうに振る舞う彼女には申し訳無いが、なんだかメグルのことは放っておけなかった。
腰に手を当てて、ため息を吐くミヨ。
そんな彼女の顔を覗き込み、首を傾げるのはメグルだ。
「なんスか、カフェに行く予定だったんスね! 自分も丁度行きたいカフェが会ったんスよ~! センパイそこまで案内して欲しいッス!」
「あてつけかしら――」
「え、もちろんお友達さんも行くッスよね?」
「……」
沈黙。
ギロリと、ミヨがメグルを睨み付けた。人の悪意なんてまるで知らないような表情のメグルは、あんまりピンと来ていないようだった。彼女が一般人じゃなければ今頃焼かれてたな、顔。
「ミヨよ」
「はいッス?」
「不洞ミヨ――お友達さんじゃなくてね」
「あ、そうッスか! よろしくッス! ミヨさん!」
「じゃ、行きましょ。そのカフェっていうのはどういうカフェなの?」
「ふふふ――よくぞ聞いてくれましたッス! そのカフェっていうのは!」
◆
「……コラボカフェかぁ~」
席に着席したオレたち。
ミヨが手で顔を覆ってあちゃ~、という風に振る舞った。ポップな音楽と、キャラクターの声、キラキラした装飾と、カラフルなキャラクターの立ち看板。
サブカルチャーに詳しくないオレだが、これは知っている。コラボカフェだ。(ミヨもそう言っていたし)
「はいッス! 自分が大好きな超然マニアのコラボカフェッス!」
「好きだって言ってたもんなメグル」
「え、その口調だとセンパイは知らないんですか!?」
「まぁ、うん」
「え」
「え」
メグルとミヨが声を合わせてオレを見た。どうしてミヨまで一緒に驚いてるんだ……。
「超然マニアって国民的アニメじゃない! それを知らないって日々ホントに!?」
「そうッスよ、そうッスよ! 長寿アニメでありながら、しっかりとした骨太ストーリー、時代に適応した作品感、数年に一度切り替わる監督によって飽きない世界観が売りの超然マニアを知らないんスか!?」
「……うん」
「えぇ~~!」
メグルの叫び声が響いた。
オレは全く悪くないのに、どうしてか罪悪感を感じるな……。
「ちなみに、ミヨさんはどの年代が好きなんスか?」
「年代?」
「そうッス! 超然マニアは1960年代から、今の2020年代に渡るまで、およそ六十年間続くすっごいアニメッス。その分、それぞれの年代によってテイストが変わっていくんスよ!」
「そうなんだなぁ……」
テレビとかみないからさっぱりだ。(マイさんが見る以外で、ウチのテレビもつけないし)ミヨはうーん、と首を傾げる。
「そうね、アタシは外伝小説から入った口だから……。ストーリーの流れは2005年が好きかしらね? 特に、レミダリアが推しだったわ」
「2005年! 大インフレ期ッスね! いやぁレミダリアの悲しい最期は涙なしでは見れなかったッスよ!」
「……メグルはもしかして、1960年代から今に至るまで、全てを視聴済みなの?」
「はいッス! もう数え切れないくらい周回したッス」
「稀に見るガチ勢ね……」
「そんなに凄いことなのか?」
「凄いに決まってるじゃない! 実質六十年分の物語を見れる!? アタシだって05、10、15、20年代くらい――あとは伝説の1980年代かしら」
「あー……」
確かに、そもそも1960年代のアニメとか現存するかどうかも怪しいレベルじゃないか? メグルの口振りから考えるに、多分彼女はその全てを保有している。一体、どんな量なんだ、それ……。
「えへへ、ちなみに自分は1960年代が大好きッスよ!」
「初期も初期じゃない。暗黒版が好きなのね。よっぽどじゃない」
「あはは」
「暗黒版?」
「そ。1960年代のは人気が低迷して打ち切り。それを20年の時を超えて今に続くまでの盤石の人気を築き上げた伝説の作品、それが1980年版の超然マニアよ」
「な、なるほどな……」
超然マニアについては大方知ることができた。横にいるメグルがまだまだ話したそうにしているが、キリがなさそうなので。(なにせ六十年分を語れてしまうのだから)
「あー、それでここがそのコラボカフェってことだな」
「そうッス、そうッス! 今は動画配信者コラボキャンペーンということもあって盛り上がってるんスよ!」
「動画配信者コラボ?」
「そうッス! 大手配信者が声優をしているキャラクターが出るコラボッス……ん?」
そこまで話して、メグルはぼーっとミヨを見つめた。
もしかして……。
「ミヨさん、なんか焔ちゃんに似てますね?」
「えっ!」
そこまで(若干)不機嫌そうだったミヨの顔色が突然変わった。メグルから分かりやすく視線を動かして。
「な、何のことかしら! ね、日々!」
「あのなぁ、メグル……。カグツチ焔はとんでもなく凄い配信者だぜ? ヤンキーでクラスでも距離を取られてるような人間がそんな配信者だと思うか~~?」
「おい」
陰キャ宣言の意趣返し。二人きりなら多分炎が漏れ出てた。
メグルはオレの罵倒(フォロー)を聞いてもまだ納得がいっていないようで、う~んと首を傾げている。
『喰らいなさい! この炎を!』
「ほら! めっちゃ似てないッスか!?」
「ソ、ソウカシラネ~!」
「露骨に声のトーンを変えたッスよ、今……」
焦って墓穴を掘るミヨ。ジトーっとした目線が彼女に突き刺さる。しかし、今のボイスがミヨの演じてるキャラなのか。
確かに、あれは魔物と戦う時のミヨそのものだな。うん、そりゃあメグルに似てると言われるのも納得だ。ほとんどミヨだし。
けれど、このまま放置するのも可哀想なので、助け船を出すことにした。メグルの気を逸らすには――。
「それよりもさ。オレも超然マニアに興味があるんだけど――」
「マジッスか!」
キラリと目を輝かせてオレに喰らいつくメグル。計算通り。取り敢えずミヨの危機を救うことはできたようだ。
代わりに、オレが狙われてしまっているわけだが――。
◆
「はぁ、疲れたわね」
「ああ、全くだ」
オレとミヨはメグルと別れて帰路についていた。
あの後、メグルと一緒に超然マニアを購入しに行った。凄まじい布教を行われたが、結局オレが買ったのは歴代でもファンの評価が安定している2005年の第一巻。(古いものなので値段も安い)
もしこれを見て気に入ったら、メグルが他の巻(円盤というらしい)を貸してくれるのだとか。
「何、あの、オタク……陰であり陽のタイプよ。早口オタクとコミ強パリピ、どちらの片鱗もあったわ――」
「どっちも素なんだろ。というか、今日は悪かったな」
「いいわよ。あれの相手を一人でさせる方が可哀想だわ」
「ミヨはメグルのことが苦手なのか?」
「まぁね」
肩を竦めてミヨは頷いた。
「どうして?」
「どうして……どうして、か。う~~ん」
腕を組み、首を傾げるミヨ。
メグルは確かに嵐みたいな奴だけど、悪い奴ではなかった。北風の荒々しさを持つ太陽みたいな奴なんだ。多分。
だからオレは嫌いじゃない。ミヨもそうだと思ったんだけどな。
「ま、それはともかく。明日こそはしーかっり!」
ピンと人差し指を立てて、彼女はオレに詰め寄った。
「予定を開けておきなさいよ? 分かった?」
「ああ、分かったよ」
「一秒でも遅れたら、焼くわ」
「顔?」
「髪」
「髪!?」
それはマジで焼かれそうだ。
一秒も遅刻はできないな。絶対に間に合うようにしよう。そんな決意を抱きつつ、オレはミヨに別れを告げた。
帰宅後、早速超然マニアを見てみると、これが結構面白い。翌日、オレはメグルに続きを貸して貰えないか早速聞いてしまった。
Q.明日、アニメが視たいからあなたを手にかけるのは、あなたの命を奪う理由になりますか?A.「 」 雨有 数 @meari-su-
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