俺の相棒は女になった~世界でただ一人の背中を預けられる相棒が俺好みの女になってしまった。いやどうすれば良いってんだよ!?~
遠野紫
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「ソラ! ゴブリンがそっちに行ったぞ!」
俺からターゲットを変えたゴブリンがソラの方へ向かって行く。
それに対応できるように俺はソラへと叫んだ。
「わかった! せいやァァッ!!」
俺の声に反応したのか、ソラは危なげなく自身に向かって来るゴブリンを切り捨てた。
「すまない。俺のヘイト管理が甘かった」
「いや、問題ないさ。アランがすぐに叫んでくれたおかげで対処出来た」
俺が謝ると、ソラは全く問題は無いと言う風にサムズアップをしながらそう返した。
これも彼と俺が作り上げて来た連携によるものだろう。
何しろソラとは幼い時からの仲だ。長い時間を共に過ごし、一緒に冒険者となった。
そして互いに背中を預けながらこれまで戦って来たんだ。
俺とソラとの間には確かな絆がある。心からそう感じる。
「そう言ってくれると助かるぜ」
「ああ、俺とアランならどこまでも行けるさ」
ソラはそう言って笑みを浮かべた。
小さい頃から見慣れた顔だ。辛く苦しい時、この笑顔に何度救われただろう。
「その通りだな」
俺とソラの二人ならどこまでも行ける。
何度も死線をくぐり抜けて来た世界一の相棒となら、どんな困難だって乗り越えられるはずだ。
……そう考えていた。
「ソ、ソラ……なのか?」
ある日、ソラは俺の知るソラでは無くなっていた。
「ああ、ソラだが。……まあ、ちょっと見た目は変わっちまったけどな」
サラサラで長い髪。きめ細かい肌に整った顔。そして何より目立つのは柔らかい曲線に凹凸のある体だ。
ソラは女になっていた。それも俺の好みにドストライクな美少女に……。
もちろん最初は別人だと疑った。だがギルドの発行する冒険者登録証は偽造は出来ないし、何よりソラとは長い間一緒にいたのだ。
雰囲気、仕草、言葉遣い。色々な要素から彼がソラであることは認識出来る。……出来てしまう。
「まあ何だ。いろいろと試してみたら筋力とかは変わって無いことがわかったからさ。冒険者としての能力に心配は無いよ」
ソラはそう言って笑いながら俺に肩を組んできた。
その瞬間、女の子特有の良い匂いが香って来る。肩を掴む手も温かく柔らかい。
……いや何を考えているんだ俺は。
極力意識しないように、ソラの顔を見て微笑み返した。
いつもならソラの笑顔を見れば気が緩むと言うか、ほんわかとした感覚があったが、今は違う。
メッッッチャ美少女に笑顔を向けられているのだ。
え、何だこれ?
緊張感が凄い。汗が体中から噴き出ている感覚がする。
俺の笑顔不自然になって無いよな……!?
「どうしたんだ?」
「ヒッ」
俺が思わず顔を俯かせたからか、ソラは俺の顔を覗き込んできた。
それがまた状況を悪化させた。
美少女となったソラが俺を上目遣いで見つめている。
「フンッ!!」
俺は思わず自らの拳を腹に叩き込んでいた。
少しでもソラを変な目で見てしまったことを許せなかった。
「お、おいどうしたんだ!?」
ソラは俺のいきなりの行動に驚いていた。当然か。でもそうしないといけないんだ。ソラとの友情を保つためには……!
「……いや何でもない。それよりソラこそどうしちまったんだ?」
「この姿の事か? 詳しいことはわからないんだが……」
俺は話をそらすためにソラの体の変化について聞く。
すると彼は自らに起こったことを語り始めた。
なんでも、安値で売られていた能力強化の魔法薬を飲んでから体がおかしいのだと。
俺の部屋に来る前にその魔法薬を買ったところに行ったが既にもぬけの殻だったとのことだ。
「それ、完全に騙されていないか?」
「……やっぱりそう思うか?」
どう考えても騙されている。何から何まで、あまりにも怪しすぎる。
「と言うか、なんでそんな怪しい薬なんか飲んだんだよ」
至極当然の疑問をソラへとぶつける。
普通に考えてそんな怪しい所で買った怪しい薬なんか飲むか?
「もっと強くなればアランの役に立てると……もっと先を目指せると思ってさ」
「お前……そんなことしなくたって良いのによ」
俺のためとなるとこれ以上は言いにくいな。
と言うより俺も同じ境遇だったら同じ行動をしていた可能性がある。
あまり人のこと言えないかもしれないぜ……。
「それで、元の体に戻るにはどうしたら良いんだ?」
「それがわからなくてね。調べようにも前例が無いものだから」
確かにそうだ。性転換の薬なんて聞いたことが無い。
だが逆にそんな珍しい薬を何故こんな所で売っていたんだ?
それも安値で買ったとソラは言っていた。
クソッ不確定なことが多すぎて全くわからねえな。
「まあ情報はおいおい集めて行けばいいさ。確か今日は狩りに出る予定があっただろ? さっさと行こうぜ」
「おいおい、そのまま行く気か?」
「さっきも言ったけど能力的に変化は無いから問題は無いって」
いや気にしているのはそこじゃないんだがな。
まあ本人が良いって言っているんなら良いのか?
そうして冒険者ギルドへ行った俺たちだったが、何か凄く視線を感じる。
いや違う。正確には俺の隣のソラに対しての視線か。
「な、なあ……今まであんな可愛い冒険者いたか?」
「いや初めて見るな。確かにすっげえ美少女だぜアレはよぉ」
ギルド内の冒険者たちは男も女も関係なくソラに夢中だった。
それもそのはずか。それだけ美少女なんだもんな今のソラは。
「ねえ、あの子の隣にいるのって……」
「え、アランじゃん。あんなに可愛い子と知り合いだったの知らなかった」
当然だがそんな美少女の隣に居れば目立ってしまう。
そんな訳で俺たち二人は多くの視線にさらされながらギルドの受付へとたどり着いた。
緊張感も体感時間も凄まじいことになっていたが、それも依頼を受けるまでの話だ。
もう少しの辛抱……。
「あ、あの……ソラさん……なのですか?」
が、問題はまだあった。
受付嬢がソラの本人確認に手間取っている。
そりゃそうだ。突然見た目が変わればそうなる。
「あーそうなんですよ。見た目が変わってしまっているんですけどね」
ソラはそう言いながら冒険者登録証を取り出し受付嬢へと見せた。
「確かにソラさんの物ですね……魔力認証も問題はありません。あの、少々お待ちください」
そう言って受付嬢は受付の奥へと入って行った。
少しして彼女が戻って来たと思ったら、後ろからギルドマスターも来ていた。
「ほう、君があのソラ君か。まさかこれほどまでの美少女になっているとはね」
「実は色々とありまして……」
ソラはギルドマスターに魔法薬のことを話した。
ギルドマスターも最初は半信半疑で話を聞いていたが、だんだんとその表情は真面目なものになっていった。
「それについては少し心当たりがあるな。こちらで調べている錬金術師と情報が一致する。奴は異質な薬を作り出しては安値で売りさばいていてな。危険な存在として指名手配されているのだが、すぐに姿をくらませてしまう。そのせいで君のような被害者が増える一方だ」
「俺以外にも女になってしまった方がいるのですか?」
ギルドマスターの他にも被害者がいるという発言にソラは反応した。
自分のような境遇の者がいれば何か手掛かりになるのでは無いかと思うのは無理も無い。
実際、俺もそれについては気になるところだ。
「いや、性転換の薬を飲まされたのは現状君だけだな。……下手に情報を漏らしてパニックになるのは避けたいから詳しいことは言えない。だが一応これだけは言っておく。現状解除方法は無いと思った方が良い。他の薬の被害者も元に戻る見込みが無いのだ」
「そんな……」
ギルドマスターの口から語られたのは絶望的な言葉だった。
「それじゃあ俺はずっとこのままなのか……?」
「お、おいソラ……あんま深く気にすんなって。いや気にすんなってのも難しいだろうけど……」
ソラがこのまま女のままだってのは俺だって困る。
だが本当に困っているのはソラ自身のはずだ。
なら少しでもソラを元気づけてやるのが友人であり相棒の役目のはずだ……!
「アラン……? そうだよな。性別が変わったって俺たちの絆は変わらねえよな。それにもしかしたら元に戻れるかもしれないんだ。諦めるのはまだ速い!」
「お、おう……!」
思ったより立ち直りが早いのか、ただ単にそこまで気にしていなかったのか。
ソラはすぐにいつも通りの様子に戻った。
「そういうことですのでギルドマスター、俺たちは俺たちで情報を探します。何か新しい情報が入ったらその時はよろしくお願いしますね」
「ああわかった。こちらでも引き続き錬金術師について調べよう」
そうして俺たちはギルドマスターと分かれ、今日の分の依頼を受けてからギルドを出た。
結局目立った進展こそ無かったものの、ギルド側で動いてくれると言うのであれば少しは安心できるか。
それからそのままの足でダンジョンへと向かうことにした俺たちだったが、そこでまたとんでもない問題にぶち当たった。
というか最初からこれを想定しておくべきだったのかもしれない。
「……」
「アラン、どうした?」
どうしたもこうしたもあるか。
ソラの装備はやや露出多めの軽戦士用の装備なんだ。
男の状態なら何にも気にならないが今は違う。女の体でその装備はあまりにも刺激が強すぎる。
「……いや何でもない」
とにかく目線を反らす。少しでも見ないようにする。
つい昨日までは世界でただ一人の心の通じた相棒だった。それが今では直視出来無い。
変に意識してしまうのだ。男だった時のソラと今こうして美少女になってしまったソラが頭の中で合致する度に妙な気まずさと背徳感が俺の中に溢れ出てしまうんだ。
「なら良いか。さっさと行こうぜ」
ソラは何も気にしていないのか先を急ぐ。
少しは気にしてほしい。……いや、気にしないでいてくれるだけまだマシなのか……?
両者共に気まずくなったらそれこそ大問題だ。
……結局ソラのペースに乗せられ俺たちはそのままダンジョンへと潜り始めた。
「せぇいッッ!!」
相変わらずソラの短剣の切れは良い。こういう所を見る限りやはりソラはソラだ。
たとえ姿が変わっていても中身は慣れ親しんだ彼なのだ。
そう考えると少し安心した。
と、そんな安心しきっていた時だった。ソラの死角からゴブリンが飛び掛かるのが見えた。
「危ない!」
「うぉっ!?」
頭で考えるより早くソラの体を引っ張る。だがそのせいで向かい合う形で密着してしまった。
彼の可愛らしい顔がすぐそこにある。長いまつ毛にぱっちりとした目……って違う、戦闘中に何を考えているんだ俺は!
ってこれは……。ぽよんとした何か柔らかいものが体に触れている……。
紛れも無くこれは彼のおっぱ……。
「……」
俺は極力何も考えないようにした。
……だがそれが不味かった。
何も考えないようにしたせいで、触れている感触がより鮮明に伝わってきてしまった。
「助かったぜアラン……アラン?」
「あっああ、すまないなんだったっけ!?」
無を取得しようとしていた俺を現実に呼び戻したのはソラの声だった。
「おいおい、まだ魔物は殲滅しきっていないんだからしっかりしてくれよ?」
「すまない……本当にすまない」
何が不味いかって、ソラ本人が気付いていない上に気にしていないことなんだよな。
これではただただ俺は友人に興奮し欲情するだけの男になってしまう。
いや間違ってはいないのだが……。
そんな訳でなんやかんやあってゴブリンを殲滅したのだが、まだまだ俺たちに降りかかる災難は終わらなかった……いや実質俺に降りかかる災難か。
「おっと、こいつは思ったよりも狭いな」
「そうだな。這って進めばギリギリ通れるってところか?」
ダンジョンを進んで行くと、その先に進むにはかなり狭い道を通らないといけないようになっていた。
「なら俺が先に行く」
「いや俺が……」
「待ってくれ、軽戦士である俺の方が狭い所で何かあった時に対応しやすい。俺が先に行った方が安全だろう」
ソラはそう言って先に道を進み始めた。
戦術を絡めてそこまで言われてしまっては流石に受け入れるしかない。
出来れば俺が先に進みたかった。何しろソラの後を進むという事は、露出の多い装備の彼が四つん這いで這っている姿をすぐ後ろから見ることになるのだ。
「アラン、そっちはどうだ?」
「……」
「アラン?」
「あ、ああ何ともない。危険は無いぞ」
前へ進もうとすると嫌でも見てしまう。
ソラの尻と太ももを。
……しかしこう、改めて見るとソラの尻デッッカいな。それに太もももフッッット……じゃねえ!
何を考えているんだ俺は!?
友人だぞ!?
というか元男だぞ!?
「ふぅ、ようやく抜けたか。アラン、大丈夫か?」
先に抜け出たソラは俺に手を差し伸べて来た。
小さく奇麗な手だ。長いこと短剣を握って出来上がった彼の無骨な手はもうそこには無かった。
「……ありがとう」
俺がとんでもない目で見ていたことも恐らく彼は知らないんだろう。
……もし知られたらどうなる?
ソラだって男にそんな目で見られることは嫌なはずだ。それが今まで共に戦って来た親友だったら?
考えると恐ろしくなった。しかしそれがわかっていてなお俺は止められなかった……。
最低だ、俺って……。
「お、依頼対象のオークだな」
「……ああ」
ソラがオークを発見したようでそう声をかけてきた。
そうだ、今は戦いに専念しなければ。少しの気の緩みが重大な事故を招く可能性がある。
今は何よりも安全を重視するのが先決だ。
「行くぞ……!」
まだ気付かれていないため俺とソラはゆっくりと足音を消しながら近づいて行く。
そしてハンドサインで意思疎通を取り、同時に不意打ちを決めた。
「グギャァァッッ!?」
「ウゴゴオォォッ!?」
完全に意識外からの一撃を受け二体のオークはその場に倒れた。
「よし、後は向こうの一体だけか……!」
「ブモォォォォッッ!」
オークの断末魔に気付いたのか最後の一体は完全にこちらを把握しているようだった。
だが一体なら二人でかかれば難しい相手では無い。
「行くぞソラ!」
「ああ!」
俺とソラは最後のオークに向かって駆け出した。しかしその瞬間、壁を破壊して別のオークが姿を現したのだった。
「何!?」
突然の事に動揺した俺とソラは動きを止めてしまう。
その隙をオークは見逃さなかった。
「グモォォ!」
「ぐあっ!?」
壁から現れたオークは俺を吹き飛ばし、ソラを掴んだ。
「な、放しやがれ……!」
「ソラ! チッ……!」
ソラの元へ向かおうとするも元々いたオークが俺の前に立ちはだかる。
「グモモ、グモォ」
「お、おい何をして……」
ソラを掴んでいるオークは彼の装備を次々と外していく。
掴まれる際に剣を落としてしまっていた彼は一切の抵抗が出来ずにいた。
「まさか……」
……以前聞いたことがある。オークに敗北した女冒険者が装備を剥がされ、そのままオークの孕み袋にされたという話を。
「なんで装備を剥がして……ッッ!?」
ソラは装備を剥がされ露出させられた自らの体を見て、顔を恐怖一色に染めあげた。
そうだ。今の彼は女なのだ。それにオークが意味も無く装備を外していくとは思えない。つまり今この状況において導き出される答えは一つ。
オークはソラを慰み者にしようとしている。
「……させねえ! 絶対にそんなことさせるかァァッ!!」
気付けば俺は走り出していた。
「ブモッ!」
「邪魔だァァ!!」
俺の前に立ちはだかるオークを無理やり斬り伏せ、ソラの元へと向かう。
あぁ、強引に突っ込んだせいで腕が千切れそうだ。
でもそれでもまだ止まれない。ここで止まれば俺は一生後悔することになる。
例えここで全てを使い果たしても良い。冒険者として再起できなくなろうがどうだっていい。
目の前で犯されそうになっている友人を……相棒を放って置いたら死んでも死にきれねえ!
「アラン……!」
「ソラ、今助けるからな!」
全力でオークに向かって剣を振り下ろす。
しかし致命傷にはならなかったようで、オークは俺の方を向き持っていたこん棒を握り直した。
「あぐぁっ……」
一撃で仕留めきれなかったせいで反撃を横腹に食らってしまったが、その程度で止まりはしない。いや止まれない……!
「もう一発だ!!」
ソラが落としていた短剣を拾い、オークの脳天に突き刺した。
その瞬間、オークはソラを放し力なく崩れ落ちた。
「ハァ……ハァ……」
全身が痛い。オークから受けた反撃は打撃だったから目立った出血は無いはずだ。
今すぐ出血多量でどうこうという話では無いはず……。
だが体は限界を超えてしまっているようだ。体中の筋肉が悲鳴を上げている。きっといくつかは千切れているのだろう。
「アラン……アラン!」
「うぉぉっ!?」
ソラが叫びながら抱き着いてきた。何も纏っていない彼の体が密着しているものの、痛みが酷すぎてもう感覚が無い。
まあ変に気にするよりかはその方が助かるけどな……。
「俺、俺は……女になっちまったんだな……」
「ソラ……」
ソラの顔は酷く怯えたものになっていた。涙こそ流れていないがすぐにでも決壊しそうな状態だ。
「怖かった……凄く怖かったんだ。もちろん死ぬのは冒険者になった時に覚悟はしていた。けど、女として蹂躙されるなんて考えたことも無かったんだ。装備を剥がされて自分の体を見た時、女になったんだって嫌でも意識させられた。その瞬間、どうしようもなく怖かったんだ……」
「……大丈夫だ。俺がいるから」
動かない体に鞭を打ち、少しでも安心させるためにソラの体を優しく抱き返した。
それから数日間、療養を余儀なくされた俺は部屋で寝たきり生活となった訳だが……。
「ほら、あーん」
ソラにそう言われ仕方なく口を開ける。
極力体を動かさない方が良いと言うことで身の回りの事はほぼソラがやってくれているのだ。
今もこうして食べさせてもらっている。
正直クソ恥ずかしい。
男同士の時だったらそこまで気にすることなく割り切れただろう。
だが今のソラは美少女だ。そんな彼にアーんしてもらうとか、なんか良くないことをしている気分になる。
いや実際良くないのでは……?
「……美味い。……その、色々とすまないな」
「気にしないでくれ。俺とお前の仲だろ?」
「それはそうなんだが……」
ソラの手を見ると火傷の跡がいくつかある。
俺のために慣れない料理をしてくれた時に出来た物だろう。
彼は完全に俺のために動いてくれているんだ。
なのに俺は……。
「なあ、アラン」
「……? どうした、ソラ?」
ソラはそれまでとは打って変わって神妙な面持ちで話しかけて来た。
「俺、なんか変なんだ。あの時オークに襲われてから心がおかしくなっちまってるんだよ」
「おかしくなったって……どういう意味だよ」
ソラの表情は徐々に不安や恐怖と言ったものが色濃くなっていく。
「なんて言うか、心まで女になっていると言うか……あの時に意識しちまってから、その、アランの視線が凄く気になるんだ」
「ッッ!?」
なんてことだ、気付かれていたのか……!?
「いやすまん! その、つい見てしまうと言うか……申し訳ない!!」
「……謝らないでくれ。それについては別に良いんだ」
「……え?」
全力で出来る限りの謝罪をしたが、ソラから返って来たのは想像もしていない言葉だった。
「もちろん男にそう言った目で見られるのは嫌だ。今まではそんなこと無かったのに、今の俺はそう言う風になっちまった。でも、その……アランはなんか違うんだ」
「違う……?」
ソラの表情が不安そうなものから徐々に照れに似たようなものに緩んで行く。
頬も赤く染まっていて正直とても可愛い。って、今はそういうタイミングでは無いんだ自重しろ俺。
「なんかアランのことを考えるとさ。胸の奥がドキドキすると言うか……ああ駄目だ、なんか顔がクソ熱い!」
「お、おい大丈夫か……?」
ソラは赤くなった顔を左右に振りながら何やらボソボソと呟き始めた。
「なあアラン!」
「うわ急にどうした!?」
何かふんぎりが付いたのか、ソラはずいと顔を近づけてきた。
「……」
すぐそばにソラの顔がある。もう少し近づけば色々と触れあってしまいそうなほどだ。
滅茶苦茶に気まずいし滅茶苦茶に緊張する。
「俺は多分……アランのことが好きなんだと思う」
「……はぁっ!?」
急にそんなことを言われたものだからつい叫んでしまった。
「お、俺の事がすっ好きってお前……!」
「わかってる。俺だって変だとは思ったさ。でもそうとしか思えないと言うか……。友情とは違うような気がするんだ。この感情は」
ソラは真剣な顔でそう言う。
正直なところ俺もソラに対して、男の時の友情とは違うものを感じ始めていた。
明らかに性別を意識したそれになりつつあった。
だがそれをソラには言わなかった……いや、言えなかった。
意識的にソラにはそう言った感情を抱かないようにしようとしていた。
女としてソラを見てしまっていることを悟られないようにしていたんだ。
彼との友情を……今まで築き上げて来た絆を……壊したくは無かったんだ。
きっとソラだって同じように考えていたはず。
変に告白したところで、俺に拒絶されて最悪の結末になるかもしれない。
ソラの男の時を誰より知っているのは俺だ。だからこそ男との恋愛は出来ないと突っぱねてもおかしくは無い。
彼がそう考えたっておかしくは無いはずだ。
だが、ソラはそれでも勇気を出して俺に気持ちを伝えて来たんだ。
なら俺もそれに応えるべきじゃ無いのか……!
「……本当に、俺で良いんだな?」
「俺で、何て言わないでくれ。アランが良いんだ」
「……そうか。なら、改めてこれからもよろしくな、ソラ」
「……! ありがとう、アラン……!」
俺とソラはそのまま互いに深く抱きしめ合った。
なお、まだ回復しきっていない俺の体は悲鳴を上げた。
俺の相棒は女になった~世界でただ一人の背中を預けられる相棒が俺好みの女になってしまった。いやどうすれば良いってんだよ!?~ 遠野紫 @mizu_yokan
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