シュマリエ王国騎士団団長と副団長

ミドリ

追う者と追われる者

 それは白馬に乗ってやってきた。


「あ、あれって騎士団長?」


 明らかに異様な姿を見た人々は、往来で立ち止まる。


「すまぬ、道をあけてくれ!」


 シュマリエ王国騎士団と言えば、歴戦の勇士たちが所属する憧れの存在だ。その中でも騎士団長のノワールは、逞しい体躯に凛々しくも麗しい美男子として大人気だった。剣の腕前も剣聖と誉れ高く、強いが故に突っ走りがちな団員をまとめる偉大な統率者でもある。


 そのノワールが、栗色の長髪をなびかせつつ、赤いハイヒールと紫色のフリフリが付いた女性物の袖なし短パンのネグリジェを着て、ノワールの愛馬である白馬に跨っていた。


「私の剣を返せー!」


 ノワールの視線の先は、道路脇に並ぶ建物の上方向にある。人々が仰ぎ見ると、屋根の上を軽やかに走るシュマリエ王国騎士団副団長ヨルクの姿があった。確かに彼の腕には、剣聖ノワールの剣がある。


「賭けに負けて、剣を返してほしくばと言うからお前の言う通りこの格好になったのだぞ!」


 ノワールの言葉に、人々は「ああまたか」と納得し、ノワールに同情した。


 ヨルクは双剣使いの騎士団四天王のひとりではあるが、ひとつ問題があった。


 ノワールをからかうのが大好きなのである。


 ノワールのクソ真面目な性格を直したいというのが本人の言い分だが、程度はこの通り酷い。そしてノワールはすぐに信じてしまう為、毎回ヨルクに騙される、を繰り返していた。


 屋根の上でヨルクが笑う。


「団長! 返して欲しくば、俺の言葉を復唱して下さい!」

「何をだ! 言ってみろ!」


 ここで素直に聞いてしまうのがノワールの残念なところだ。


 ヨルクが叫ぶ。


「シュマリエ王国騎士団団長ノワールは!」

「はっ!?  シュ、シュマリエ王国騎士団団長ノワールは!」

「シュマリエ王国騎士団副団長ヨルクと!」

「シュマリエ王国騎士団副団長ヨルクと……!?」

「けっ!」

「け……け!」

「こ!」

「こ!」

「んします!」

「んします――んしますとは何だ!?」


 ノワールは、怪訝そうにヨルクを見上げた。


 ヨルクは屋根の上で立ち止まると、大声で叫ぶ。


「国民の皆様! この様に、たった今団長と俺の結婚が決まりました! 皆様が証人です!」

「……は?」


 口をあんぐりと開けたままのノワールの前に、ヨルクがスルスルと降りてきた。「はいどうぞ」と剣を手渡すと。


「俺が幸せにしますからね」


 笑顔の中心にあるいやに真剣な眼差しに、ノワールは顔を引き攣らせながら頷くことしか出来なかったのだった。

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シュマリエ王国騎士団団長と副団長 ミドリ @M_I_D_O_R_I

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