バイオ暴れん坊将軍

バイオ暴れん坊将軍

　それは白馬に乗ってやってきた。

　合計一千人、冬の浜を行く暴れん坊将軍クローン軍団である。

　――待ってください。

　出演するのはバイオ時代劇とは聞いていましたが、そんな感じなんですか？　クローンで増やすのは敵方の浪人とかではなく？

　敵方の浪人は十万人、なるほど。

　バイオ時代劇ってなんですか？　生物科学と文化の夢のコラボレーション？

　五百個の問題が同時並行して進んでいく新時代の時代劇なんですね。

　脚本家もクローンで増殖、監督も増殖、カメラマンも増殖、照明も音声も増殖。

　白馬だけ増殖してないって本当ですか？

　……本当なんだ。馬だけ自然繁殖で一千頭、そっちの方がすごくないですか。あ、やっぱそこも売りなんだ。こんな時代ですもんね。

　なんで私は増殖されてないんですかね。

　……バイオクローンには適合性があり、クローンに向いてなかった。なるほど。クローンに向いてないのに大抜擢されてるから、話題になったんですね。なるほどなるほど。

　脚本が二万ページあって全部読み切れなかったんですが、私は結局どんな役どころで……え、千人の将軍様と少しずつやりとりがあるんですか？　いや確かに、撮影のためにスケジュールを五年空けとけって言われましたけど。

　あ、この私の増殖しないってのが重要な伏線に、はいはい。脚本も結構バイオ寄りなんですね。バイオ寄りの脚本ってなに？

　バイオ合戦ものなら暴れん坊将軍よりもっと戦国時代の話とかの方が盛り上がったのでは？　あ、なるほど後半でタイムスリップがあるんだ。そうですよね。全部やりたいですよね。

　はー、こんだけ将軍様がいるのに、誰もがバイオクローンで生殖能力を失ってるから、家督を継ぐ者がいないという縦軸の話がある。ほとんどの生命がクローンだから生殖能力のある『オリジン』と呼ばれる人類を探してて、私がそのオリジンなんですね。馬の生殖能力だけ取り戻せたから一千頭も増やせたんだ。

　なるほど結構社会派SFなんですね。

　そして千人の徳川吉宗がバイオクローンを利用して蔓延る悪を斬ると。

　来るべきクローン時代に向けての警鐘が、この時代劇なんですね。

　時代劇をベースにすることで、現代にも通じる普遍的なメッセージを残そうってことなんですね。

　なるほどなー。

　大体分かりました。

　がんばってみんなの遺伝子に残るようなドラマにしたいと思います。