第二話

「いや、ないない。さすがに盛りすぎだって」


 放課後、文芸部の部室、先輩で部長の速水乃愛のあが俺の作品を読んでそう言った。


「あのさー、山田君。君、この話を私に読ませる度胸が凄いわ。ほぼ告白じゃん」


「先輩が何でもいいからとりあえず書けって言ったからじゃないですか」


「なんでもいいにしてもコレはないって。もっと他にモデルなかったわけ?クラスメートとか塾の女友達とか、先生とか」


「無理です。イメージが湧かないので。先輩以外の女なんて畏怖の対象です」


「それ、喜んでいいのかわかんない」


「ただの事実なので、受け取り方は自由です」


 そっか。先輩はそう呟いて窓の方に目を向けた。


 沈黙に耐え切れなくなった俺は本棚から適当な本を取り出してパラパラとめくった。文芸部なんて今日日流行りはしない。うちの高校でも現在在籍しているのは先輩と僕の二人だけだ。


 女は嫌い。関わるとトラブルが起こる。仲良しのフリをした牽制、威嚇。仲がいいフリ、グロデスクな内情を知ってしまい俺は疲れ切った。


 昔、仲の良かったグループで一人の少女を選んで付き合い始めると、彼女が裏でいじめられたことがあった。俺はそれ以降女というものが何か恐ろしい生き物に見えて仕方がなかった。


 その点、先輩はいつも一人だから安心だった。一人の人として、会話ができた。


「あのさ、事実は小説よりも奇なりって言うじゃん」


 先輩は窓の向こうに目を向けたままそう言った。


「この話の先輩って、ハーフだし、めちゃくちゃ美人でモデルやってるわけじゃん」


「そうですね」


「そのモデルってさ、まんま性別反転した君のことだよね」


「ですね」


「私、別にかわいくないし。半年前に彼氏にフラれたことまだ引きずってるし、そんなことをずっと君に愚痴ってたわけじゃん」


 彼女はやっと俺の方を振り向いてくれた。


「……期待して、いいの?」


 俺は彼女にゆっくりと近づき、窓際でキスをした。舌を絡める描写はなかったはずなのだが、彼女のそれが口内を侵食した。


「君の小説はここで終わりだったけどさ、続きって考えてるの?」


 長いキスの後、彼女は俺にそう問いかけた。


「いいえ、特には」


「じゃあさ、続きのシナリオは私が考えるね」


 そう言うと彼女は俺の上にまたがって、ブラウスを脱いだ。逆光に照らされる下着姿の彼女は、俺の知るどんな女よりも妖艶だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

都合のいい女 赤井あおい @migimimihidarimimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ