第5話 Home Sweet Home

「親父、手紙ありがとう。優も今まで心配かけて、悪かったな」


 手紙を受け取りそのまた二週間後、雪がすっかり溶け去ったあと。

 今、俺は小学六年の弟・優と親父が住むアパートにいる。カレーパンもいっしょだ。優の手のひらの中で、あの日みたく「くぅ」と鳴いている。


「こんにちは、優くん。こっちが瞬くんのカレーちゃん、それでこっちがアップルちゃんです」

 無理を言って結衣さんとアップルパイ、もとい「アップルちゃん」にもついてきてもらった。今回はいきなり人の家で突進したりしてない。


 俺の後ろにいる結衣さんを見た親父は、「お二人さんは付き合ってんのか?」と微笑み、俺は結衣さんとまったく同じタイミングで「違いますっ!」と叫んだ。

 いや、世の中のパンには、アップルパイみたいに陽気なのもいるって見せたかったから、結衣さんにも同伴してもらったんだけどな。


 そりゃ、今後どはうなるかわからないけどさ。結衣さんがウチ来る回数も増えたし。近く俺からも、お礼がてら結衣さんの家に行く予定を組ませてもらっている。



 優はあっけなくカレーパンと打ち解け、アップルちゃんとじゃれていた。

 例のピザパンは、畳の部屋の隅でイカの刺身をもそもそと食べている。俺の中で、ピザパンは酔っ払いのイメージがかなり上がった。



 何より俺は「家族」と話ができた。

 行く前散々、気まずくなることを想定していたので、拍子抜けするくらいに笑うことができたのだ。


 母さんについても、こわごわながら親父にきいた。病状は安定しており、俺は見舞いにも行くことに決めた。必ず、カレーパンを連れて。


 俺はこれから、カレーパンとあの家に住むと素直に言い、親父は「瞬も自立したな」と笑った。優も「じゃあピザパンで文通しようぜ!」と言ってくれた。


 ピザパンはいびきをかき、アップルパイはぴょこぴょこ跳ね、そして俺のカレーパンは、優の手から俺の肩の上に戻っていた。




「カレーパン。やっぱり、家族はいいもんだったんだな」

「くぅー」

 カレーパンは肩の上で、あったかくなった。



おしまい

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やせいのカレーパン Home Sweet Home 七草かなえ @nanakusakanae

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