第9話 出会い-3
押し黙る流星に「足りないのは、勇気、でしょうね」、とシトロンが囁きかける。
「かもな」
「あと自信」
「うん」
「礼儀正しさ」
「……ああ」
「思いやり」
「………………はい」
「人間性」
「ねえ、もうわかったからやめてくれる? 泣きそうなんだけど」
涙がこみ上げてくる。ここまでボロクソに言われるとは予想していなかった。
「ひとまずアドミニスターの悩みについて理解しました。そこで、軟弱極まりないフニャチンヤローのアドミニスターが自信をつけるために最適な機能がございます」
「ぐすっ……ほんとぉ?」
惨めな気分になりすぎて口調が幼くなる。なんで人工知能にここまでボロクソ言われているのか、心の底から理解できなかった。
「ええ。それではまず、ヘッドセットを装着してください」
シトロンの指示に従って、脇の台座に置いてあった黒いヘッドセットを装着する。
目の前に、暗闇が広がっている。
「次にリラックスできる姿勢になってください。おすすめは寝転がることです。あ、ズボンは履いたままでお願いします」
「脱がねーよ、アホか」
指示通り、適当な厚みの本を枕代わりに体を横たえる。
視界は相変わらずヘッドセットの暗闇しか見えない。
「なんにも見えないんだけど」
「フニャチンな上に早漏なんですか? アプリを起動するので少々お待ちください」
丁寧な口調で荒々しく言い放つシトロン。
ほどなくして、「準備が整いました」という声が暗闇の中で聞こえた。
「なぁ、いまからなにをするんだ?」
「ちょっとした精神的苦痛を味わわせて、アドミニスターの性根を叩き直します」
「……は?」
ぞくり、と背筋に氷柱を押し付けられたような悪寒が走る。
「覚悟はいいですね? はい、準備オッケーでーす!」
「いやいやいや、ちょとまて、覚悟って何!? お前いったいなにを――――」
「異世界構築システム――――起動」
驚くほど無機質な声が鼓膜を震わせた直後、体が浮き上がるような浮遊感を覚えた。
床に押し付けられるような、否、天井に向かって加速していく感覚。黒一色だった視界の中央から放射状に白い光が溢れてくる。胃の腑がひっくり返るような気分に耐えていると、ついに光を抜けた。
「うっ……な、なにが……起きたんだ?」
入道雲の切れ目から顔を覗かせた太陽が網膜を刺激する。
上半身を起き上がらせると、そこはのどかな平原だった。
新緑色の芝生で覆われた丘が連なり、駆け下りてきた青臭い風が頬を撫でる。
丘の稜線のそのまた向こうに見えるのは、白い外壁と赤い尖がり屋根の城。
雲が散らばる高い空を、翼竜のカップルが悠々と飛んでいる。
「……いや、マジでなにが起きたんだ!?」
一拍の間を置いて放たれた叫び声は、平原の優しい風に吹かれて消えた。
異世界構築はおうち時間でっ! 超新星 小石 @koishi10987784
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