白馬に乗った
赤月 朔夜
白馬に乗った
それは白馬に乗ってやってきた。
ある日の昼下がり、俺は非番だったので町へ繰り出し買い物を行っていた。
酒も購入し寮へと戻って楽しく飲もうと大通りを歩いていれば、遠くから悲鳴が聞こえた。
トラブルと吹き飛ぶ休日を予感しながらも、知らない振りをするという選択肢はない。
俺は荷物を馴染みの店主に預ければ悲鳴がした方へと駆けた。
魔力を巡らし身体強化を掛けることで普段の数倍もの速度で走る。
悲鳴は未だに続いており、見れば何かに興奮した馬が暴れていた。それは見事なほどに真っ白な馬だった。
背中には女性の姿があり、暴れる白馬の首へ必死にしがみついている。そのしがみつき方は馬の首を絞めるものとなり、馬も必死なのだろう。
彼女たちの元へと到着する。迷いは無かった。
まずは魔術を発動させ馬の四方に氷の囲いを出現させた。
跳躍し氷の壁を越えながら、女性に対して睡眠の魔術を具現化したナイフを投げる。
ナイフは女性に命中し彼女を眠らせると消失した。
眠りに落ちたことで力が緩んだ女性の腰辺りを両手で掴み馬から引き剥がす。
「ヤバっ!」
勢いをつけることはできても殺すことは簡単ではない。
慣性の法則に従って向かう先にはこの騒ぎで集まった人混みがあり、このままではそこへ突っ込むことになる。
それを回避するために氷の足場を瞬時に作り出すとそれを踏んで左へ跳んだ。
体に強い衝撃。
そのまま落下し何か柔らかいものに受け止められる感触の中、俺の意識は遠くなった。
目を覚ました俺は、所属している自警団の医務室のベッドにいた。
大した怪我はなく、馬から引き離した女性も大きな怪我をしていなかったと聞いた。
事のあらましを聞き、女性も馬も無事だったことに関しては嬉しかった。
すでに夕方で傾いた陽を恨めしく思いながら、壁にぶつかったことで軽い脳震盪を起こしたために気絶したという診断を受けた。
店主に預けた荷物を受け取り寮へと戻る。
翌日、持ち場へと出勤した直後、助けた女性に交際を申し込まれた。
顔を赤くしながらの申し出は非常に可愛らしく、その場で告白を受け入れた。
彼女と俺の趣味は同じだった。会話は盛り上がり意気投合した。
良くあるおとぎ話とは違うがこういうのも悪くない。と、俺は眠っている妻の額に口付けた。
白馬に乗った 赤月 朔夜 @tukiyogarasu
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