そしてみんなは
11-1
「立川さん……あの、一緒にツーリングしませんか?」
鳴坂の言葉に乃子は目を見開いた後、首をかしげた。
「ツーリング?」
「あ、いつもバイクで来るから。僕も最近貰ったんですよ」
「ええと、一緒に走るということ?」
「そう」
乃子は、何も予想していなかったわけではない。これまでも、好意を寄せられていることは察するだけの敏感さがあった。大学では冠がガードになっていたので、対処する必要がなかったのである。
だが、それが具体的にどのように表現されるかまでは考えていなかった。
「むっちゃ遅いですけど」
「いいですよ。何なら一日20キロぐらい歩けますけど、それに女の人を付き合わせるわけには」
ああ、そういえばこの人は旅人だったのだ、と乃子は思い出した。
「じゃあ、楽しいところにお願いします」
「よかった」
乃子は、拒否から考えるのをやめたのである。
「物井剛也。それがお父さんの名前」
将棋教室からの帰りの車内。美利は、静かに言った。
「へー。聞いたことない」
尋ねた将彰も、どう反応していいのか戸惑った。ひょっとしたらプロの誰かだったり、そんなことを考えていたのだ。
将棋を始め、将棋界のことも学んだ。そんな中で将彰は、「自分で見つける前にちゃんと聞きたい」と思ったのである。
「二段でやめたのかな。プロにはなれなかった」
「へえ。今はどこにいるの?」
「わかんない」
将彰は、それ以上何も聞かなかった。母親がすべて本当のことを言っているのかもわからない。ただ、父親に会いたいとか、そういう気持ちにはならなかった。
そして、ほっとした気持ちもあった。もし両親がともに将棋が強いことを知っていたら、幼い頃からプロになりたいと憧れていたかもしれない。あるいは、いなくなった父親を見返すために強くなってやろうと思ったかもしれない。
将彰が将棋を始めたのは、プロを目指すにしてはとても遅い。そして、実際に始めて見たところ、それほど強くなっているわけではなかった。将棋は、楽しむぐらいでいいと感じていた。
ずっとそうなのかは、わからない。
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