10-3

 1回戦、乃子たちの「道場チームB」は、「市役所A」に3勝0敗で勝利した。

「いやあ、かなわんて」

 乃子に負けたおじさんは、恥ずかしそうに頭をかいている。女性に負けると悪気なく「自分が何か失敗した」と思い込む人はいまだにいる。乃子の実績を知っているのか、二将の人が気まずそうにその様子を見ていた。

 驚くほどに、普通に指せた。蓮真の様子も気にならなかった。

 美利は深刻な表情をしていた。内容は快勝だったが、初めての団体戦はとても緊張したのである。

「どうでしたか?」

 蓮真は美利に尋ねた。

「やばい」

「やばい?」

「負けても大丈夫かもと思うと読むのサボりそうになる」

「ええ……」

 蓮真は戸惑っていたが、乃子は気持ちがわからないでもなかった。

「蓮真は頼りになるからね。私か美利さんは交代で負けられる」

「全国制覇の人は考え方がすごいなあ」

 蓮真は笑った。乃子はそれを見て、泣きそうになった。

 冠も、この笑顔を見られたかもしれないのに。

 失われたものは、もう手に入らない。だが、これはきっと、新しいものなのだ。

 乃子は、階段を一歩、上ったような気がした。



 するすると、逃げ出していく。宅野は、攻め間違えていた。

 お互いになかなか玉が寄らない。局面は「泥試合」と呼ばれる、はっきりしない展開になだれ込んでいた。

 よくよく見れば、初那大は持ち駒も少なく、かなり不利である。しかし寄せそこなった方は焦っている。自分の方がまだ有利だから、などとは思えなかった。

 秒読みの中で、最善を尽くすのは難しい。相入玉を意識するならば、駒を渡さないようにする必要がある。だが、お互いに寄せようとしたり逃げようとしたり、ちぐはぐな手が目立った。

 他の対局はすべて終わっている。皆が見守る中で、ついに二人の玉が相手陣に入った。

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