10-2
大将から美利、蓮真、乃子。この並びを決めたのは蓮真である。
「憧れてたんだよね」
蓮真は、部長を経験していない。プレーヤーとして部を支え続け、オーダー決めなどは常に他の部員が担当していたのである。
「オーダー決めを?」
「なんかさ、とにかく勝ってほしいっていうプレッシャーが強くてさ。たまには並べるだけ並べて眺めるとかもしてみたかった」
「意外」
子供の頃は、冠がオーダーを決めていた。蓮真は作戦を練るのがなんとなく下手そうだと感じていたことを、乃子は思い出した。
「みんな俺が指してりゃ機嫌いいと思ってるもんな」
「思ってる」
「まったく」
乃子は、驚いていた。蓮真が、あまり変わっていないことに。全国大会で目にするときの蓮真は、誰かを殺すんじゃないかという目をしていた。子供の頃の無邪気で少し抜けた感じは、全くなりを引覚めていたのだ。
それが今は、あの頃のように表情をよく変える。
「二人は昔からよく出てたもんね。私は初めてなのに大将にされて大変だよ」
美利は腕を組んでいる。口調は怒ったふりをしているが、顔は楽しそうである。
「大将は振り駒ありますから。美利さんのすごい振り駒見せてください」
「あらあら。駒全部立たせちゃおっかな」
そう言っていた美利だったが、実際に駒を振ると、と金が五枚出た。
「……私、後手ね」
「俺先手」
「後手ね」
一回戦が始まる。
初那大は、唇を噛んでいた。
星禮戦本戦、第一回戦。相手は宅野女流初段である。プロになって五年目、毎年ほぼ五割の成績を残していた。
それほど強敵というわけではない、と初那大は思っていた。宅野は、アマにも何度も敗北している。
ただ、序盤から初那大は苦しんでいた。完全に、狙い撃ちで対策されていたのだ。
これまでも、初那大の攻撃力を警戒する指し方をされたことはあった。しかし、そこを突破して攻めつぶしてきたのだ。だが、今回は完全に攻めを封じ込められてしまった。
これが、プロ。初那大は、感心していた。彼女が目指しているのは、女流棋士ではない。女性がまだ誰も到達していない場所に行くには、すべての女流棋士よりも強くならなければ、と彼女は考えていた。尊敬の対象にはならなかったのだ。
何とか挽回する。そう考えて攻めを繰り出そうとするが、相手はその隙をついて攻めてくる。一方的に守られる方が、攻めやすい。反撃されると、守りも読まなくてはいけなくなる。
初那大だけ、秒読みに入る。電子音が、急き立てる。
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