みんなが思うこと
10-1
会場がざわついていた。乃子は最初、その理由がわからなかった。
「あっ」
ごつごつとしたその顔を見た瞬間、記憶が蘇る。かつて中学生の時に県代表になり、その後県立大学に進学。そして彼は、「ビッグ4」と呼ばれるうちの一人となった。内子忠郎は、蓮真の四つ上の先輩である。
「久しぶりよねー、しっかりしてそう」
美利も、忠郎のことを覚えていた。何度か対局したことがあるのだ。
「ということは……」
忠郎と談笑しているのは、丸い眼鏡をした細面の男性だった。
「瓦先輩だ。昔対戦したことがある」
蓮真が言った。
「……ビッグ4?」
「そう」
「真面目そう」
「看護師だったと思う」
道場Aチームのメンバーは、内子忠郎、瓦信定、鍵山アズサ。かつてビッグ4と呼ばれた県立大OBたちと、現役県立大生のチームとなっていた。そしてBチームは佐谷蓮真、庭尾美利、立川乃子。県立大OB、元女流育成会員、元女流アマ天将位のチームである。
交流戦に参加する中では、明らかに実力の突出した2チームだった。
「知ってて誘ったの?」
「まあ、俺も勝ちたいし」
蓮真はそう言ったが、乃子は違うのではないかと思った。正直ビッグ4二人とアズサのチームはえげつない。全国大会でも優勝するかもしれないぐらいのチームである。最初から優勝が見えている、それでは面白くないということになったのではないか。確かに道場出身者で彼ら以外となれば、蓮真、美利、乃子が最強かもしれない。
「団体戦とか初めてだなあ。しかもかわいい若者二人と。おばさん頑張っちゃお」
「おばさん……? 美利さん、若いですよね」
「あらあら。子供が中学生だけど」
「えっ! ……え?」
蓮真は頭の中でいろいろと計算した。
「開会式、始まるみたい」
三人は、横に並んで席に着いた。高校や大学、専門学校に支部。様々なチームのメンバーが、会場に集まっている。
身近に、こんなにも将棋を指す人々がいたんだなあ、と乃子は感心していた。
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