9-5

「出たらいいじゃない、一緒に」

 アズサはあっさりと言った。

 乃子と美利。その二人と一緒に団体戦に出てみてはと道場の席主に勧められて、蓮真は最初、とても悩んだ。

 蓮真にとって、大学の四年間は「戦い」だった。やっと三人で同じチームになれると思ったら、自分しか県立大学に進学していなかった。そして県立大学将棋部は崩壊寸前で、大会に出るのがやっとの状態だった。

 初めての大会で、B級に陥落した。一年目は、「全国大会に絶対出られないチーム」での出発だったのだ。その一方で、乃子と冠が進学した紀玄館大学は全国大会で圧勝していた。当たり前のように優勝する。二人が出なくても簡単に勝てるほど、戦力は充実していた。

 県立大学はA級に戻り、そして地区代表になった。蓮真は全国大会で、敵として乃子たちと同じ舞台に立ったのである。

 実力差は明らかだった。紀玄館に勝利したこともあったが、総合成績ではとてもかなわなかった。常に頂点に立つチームと、何とか食らいつくチーム。三人は、四年間二つのチームに分かれて、それぞれの戦いを経験したのだ。

 乃子は戸惑っているかもしれないが、それ以上に蓮真は緊張しているのである。

大学で共に戦うのは、蓮真の夢だった。その夢は、もうかなわない。

 夢の続きは、あるのだろうか。少なくとも、冠と組むことはないだろう、と蓮真は思った。そして今回、代わりに美利がいる。

 蓮真も、関りはあった。子供の頃道場にいた、プロになるだろうお姉さん。乃子はよく懐いていたのを覚えている。

「出たらいいんじゃない、か」

 アズサは同地域の同年代だったが、ずっと隣県にいた。彼女はたまに見る仲のいい三人組を、全員ライバルだと思って過ごしてきた。たとえ一時的に離れていても、決して縁が切れるとは思っていなかったのである。

 蓮真の隣に乃子が座るとすれば、あまりの見たくはない光景だ。しかしそれ以上に、彼女に熱を持たせてくれた原風景でもある。隣県に行けば、ライバルたちがいる。そこに、一人で立ち向かっていく。

 大学では、蓮真とアズサは仲間として過ごした。それが当たり前だった。

 しかし、本来はやはり、向かい合う相手なのかもしれない。

 そういえば乃子は、どう思っていたのか。蓮真はあまり考えたことがなかった。彼女は、冠の隣にいることを選んだ。では、自分とは?

 乃子の夢は何だろうか。直接聞くのは恥ずかしい。だが、今一度同じチームで戦ってみたら、わかるかもしれない。

 蓮真は、こぶしを握った。


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