9-3

〈道場に来たのか?〉


 蓮真からのメッセージだった。乃子は、唇を尖らせた。


〈そうだよ〉

〈誰と指した?〉

〈指してない。教室の話聞きに来た〉

〈誰の?〉

〈知り合いの子供〉

〈大会出ないの?〉


 乃子は深いため息をついて、ベッドの上に飛び込んだ。

 蓮真は本当に、そんなことに興味があるのだろうか? 乃子は、蓮真が別のことを聞きたがっているように感じた。もしくは、蓮真の横にいる誰かが聞きたいことを聞いているのか。


〈出ない〉

〈なんで〉

〈いそがしいから〉

〈団体戦には出ない?〉


 乃子は思わず起き上がった。スマホの文字を何度も確認する。

 団体戦? なんの? 蓮真と? いまさら?


〈どういうこと?〉

〈県の交流戦。道場でどうしても勝ちたいって〉

〈もしかして、もう一人は鍵山さん?〉

〈いや、あいつは他で出るって。庭尾さんを誘ったらって言われたんだけど〉


 ああ、気を遣われたんだ、と乃子は思った。戻っていく道を、作ってくれたんだ。きっと、幼い頃のことを知る席主が。

 子供の時に優しく寄り添ってくれた美利。そして、隣で戦ってくれた蓮真。


〈ちょっと待ってね。考えてみる〉

〈ああ〉


 乃子はスマホを枕の横において、天井を見上げた。

 もう、蓮真はそんなことを絶対に言ってくれないと思っていた。それほどまでに、深く傷つけてしまったのだ。全国大会で顔を合わせた時、いつも知らない人の顔をしていた。和らげてくれるはずの恋人の顔も、怖くなった。三人で県立大に行くという約束さえ果たせば、何も怖いことなどなかったのだ。

 許されるはずがないと思っていた。けれども蓮真は、同じチームになろうとしてくれている。

 プロになろうとする人。再挑戦しようとする人。今から頑張ろうとする人。

 自分は、どうするの? 乃子の頭の中で、思いがぐるぐると回った。

「ああもう!」

 乃子は、思い切り布団をたたいた。




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