美利の夢
8-1
乃子を、ただの知り合いとして頼ってしまった。
美利はそのことを後悔していた。
彼女が迷っていたことは知っている。そんな彼女の、足かせとなってしまったとしたら。
今乃子は、将彰と共に夢の国にいるはずだ。息子が望んだありきたりな願望に、美利は少し可笑しくもなった。乃子が大会を辞退しなかったら、将彰が遊びに行くことはできなかっただろう。
乃子が選んだことだ。それはわかっている。けれども、今でも、乃子の方が圧倒的な強いのだ。そんな彼女に、息子の面倒を見てもらっている。
どうしても負けるわけにはいかなかった。勝って、本選に出場して、プロと対局する。それは、夢ではなく決意だった。
しかし。同じグループに、奨励会員がいた。小学生にしてアマ女流のトップになった川瀧
最初対戦表を見た時は「きついな」と思っただけだった。おそらく予選に出る中では、トップスリーに入る強さだろう。ただ、本人の顔を見た瞬間、思いは変わった。
初那大のことは、それほど詳しく知っているというわけではなかった。どういう家庭で育ったか、どういう目標があるのか、そんなことは何も知らない。
けれども美利は、確信めいたものを感じてしまった。そんなはずはないと思っても、見るほどに「似ていた」のである。将彰に、そしてあの人に。
「
思わず、声に出てしまった。十数年ぶりに口にしたその名前に、美利は顔をしかめた。
初那大は、庭尾美利のことをほとんど知らなかった。彼女が女流育成会に在籍していたのは、生まれる前の話である。
ただ、最近の鍵山アズサの成績を調べる中で名前だけは見ていた。アマ女流天将戦の予選で、アズサに勝っているようだ。
勝手におとなしくて若い女性を想像していたので、金髪の大人が目の前に現れた時はびっくりした。しかも、時折自分のことをにらんでいる。
恨みを買うようなことをした覚えはない。会うのも初めてのはずだ。しかし初那大は、美利のことが気になって仕方なかった。それも、今まで味わったことのない感情を伴って。
敵意でも好意でもないそれに、適切な名前を付けることはできなかった。しかし初那大は、はっきりと感情が揺さぶられる原因はわかっていた。「お母さんと、似てる……?」
顔も所作も、全く違う。けれども初那大は、美利が他人のような気がしなかったのである。三十代の、最も自分が関係を築いてこなかった世代の、派手な女性なのに。
心揺さぶられていることを、初那大は恐れた。
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