7-4
二年。初那大がアマの大会に出なくなってからの期間である。
たったそれだけの間に、知らない名前の強豪が何人もアマの世界で活躍していた。
ただ、棋譜は少ない。どんな将棋を指すかわからない、大量の敵。
彼女はもう、アマではない。かと言ってまだ、プロでもない。奨励会員として。元アマトップとして。少なくとも他のアマには勝たなければいけない立場、だが。
自信がなかった。
古びた学習机の上で、駒を動かす。家族とは将棋を指したことがない。家で将棋と向き合うのは、常に孤独な時間だった。
母が将棋を指せるのは知っている。本当の父が強かっただろうことも知っている。
けれども、初那大にとって将棋は、他人と戦うためのものだった。自分の位置をはっきりとさせるための道具。
星禮戦が近づいてきている。
東京には慣れない。
女流育成会に所属したのは、本当に短い期間だった。それでも、何度も足を運ぶ東京には戸惑うばかりだった。将棋会館だけは行けるようになったが、その他の場所には全く自信がなかった。実際、天将戦の会場にもなかなかたどり着けなかった。
しかし今日は、一人ではなかった。
息子の将彰と、乃子。三人で東京に来たのである。
乃子は羽田でも品川でも全く迷うことがなかった。そういえば都会の大学に行っていたんだよなあ、と思い出す。
女流棋士になっていれば。もしくは、あの男と別れていなければ。東京で迷わない人間になっていただろうに。
「美利さん、こっちですよー」
一緒に歩いていたはずが、迷いそうになっていた。
「はーい」
乃子と将彰の方に駆けていく。
将彰は、都会に来ることはほとんどなかったのに、全くものおじしていない。乃子とともに、すらすらと前に進んでいく。
ああやっぱり。自分の血は薄いのだろうな。
寂しそうな美利の表情は、誰にも見られていなかった。
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