7-3
電車に揺られて一時間。乃子は、隣の県に来ていた。
バスに乗り、さらに歩いて7分。目的地の道場に着いたのは、9時55分だった。中に入ると、すでに多くの人々がいた。大人から子供まで、様々な男性たち。眼鏡をかけている人が多い。
「初めてなんですけど……」
「学生さん?」
「いえ」
「じゃあ700円ね」
乃子は受付表に名前を書き込んだ。
月に一回行われる、道場の定例大会。乃子はそれに参加するために、遠路はるばるやってきたのである。
ここに来るのは、初めてだった。話には聞いていた。アズサの育ったところなのである。
10時になり、大会が始まる。スイス式と呼ばれるトーナメントで、成績の近い者が当てられて行き、全員が5回戦まで勝負する。全勝すればまず優勝だが、それ以外だと勝敗と当たりのきつさなどによって順位が決まる。
トーナメントは、A級とB級に分かれて行われる。A級は自由参加だが、だいたいが二段以上の実力者である。昔から顔を知っている強豪、県代表の小学生なども参加していた。
乃子は、全勝できるとは思っていなかった。女流大会以外でトップになった経験はないのだ。
それでも、勝ち越せるとは思った。将棋部を卒業してまだ、半年と少ししか経っていないのである。
将棋を指し始めると、思った以上に手が伸びなかった。決断が、できないのである。
先の展開が予想できなかった。そういえば団体戦では、相手チームの情報が大量にあった。過去大会の成績や得意戦型、持ち時間の使い方まで調べ上げられ、それを知ったうえで勝負に挑むのである。しかし今は、何も知らない相手と行き当たりばったりで指している。ひょっとしたら、終盤がとても強いかもしれない。秒読みが得意かもしれない。
相手が悪手を指したことに、対応した後から気づくということが続いた。
終わってみれば、2勝3敗。18人中、11位という結果に終わった。
「こんなに……」
帰り道、乃子は空を見上げながらつぶやいた。
「こんなに、弱くなるものなんだ……」
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