乃子と初那大

7-1

星禮せいらい戦出場決定戦推薦のお知らせ〉



 乃子は寝転がりながら、その手紙をずっと眺めていた。

「推薦ね……。一年ぐらいじゃ流れないか、と」

 乃子は、この一年間全く実績がない。それにもかかわらず、新しいプロ棋戦の予選参加選手に推薦されたのである。

 星禮戦は、全女性の中で誰が頂点かを決める棋戦だった。予選には女流棋士のみならず、奨励会員や研修会員、アマも参加するということであった。

「まいったなあ」

 自分が推薦対象であるということは、乃子にも理解できた。確かにこれまでの実績はある。一年休んだぐらいで、忘れられる存在ではないのだろう。

 そして、アズサもきっと推薦の対象だ。さらには、奨励会員も参加となれば初那大も来るかもしれない。

 リベンジしたい気持ちが全くないわけではなかった。それほどまでに、一方的にやられたのだ。

 しかし乃子は、推薦されたからと言ってホイホイ復帰する自分にもなりたくなかった。ただ地区大会に出たくない、というわけではないのだ。

 気持ちが揺らぐ。「絶対に」という気持ちがないだけに、すぐには決断できないのだった。



「はあ」

 初那大はため息をついた。

 星禮戦という棋戦ができるらしく、その出場を打診されたのだ。

 この棋戦には、奨励会員が出場できる。女性のナンバー1を決めるとなれば、それは当然のことにも思えた。

 しかし、自分だけがプロの棋戦に参加していいのか。初那大は不安だった。

 奨励会5級は、プロ棋士からはかなり遠い。しかし、「女性のトップ」とはどうだろうか。遠いかもしれないし、案外近いのかもしれない。

 初那大は、女流棋士になる道を選ばなかった。女流棋士に転向する資格も持っていない。とはいえ、アマとしては星禮戦に出場する資格が十分にある。

「めんどくさー」

 初那大は布団の上をでゴロゴロと転がった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る