4-3


 2勝3敗。それが、乃子の女流プロ棋戦での成績である。

 乃子は招待された棋戦には参加したが、自らプロと戦える大会にエントリーしたことはなかった。そのため、実力の割には女流棋士と指す機会は少なかった。

 最後に戦った相手は、新取しんどり沙梨亜さりあ女流初段だった。21歳の伸び盛りの若手で、同世代対決でもあった。

 乃子は、ボロボロになって負けた。序盤は互角だった。しかし中盤以降、全くチャンスがなかったのである。

 決して、同世代の中でも一番じゃない。乃子は、そのことを思い知ったのである。

「星あるなあ」

 乃子は、物干し台に上がっていた。蔵の上に作ったもので、三畳ほどの広さがある。昔からたまにそこで、意味もなく過ごすことがあった。「星を見る」という設定でいるものの、

 そこまで真剣には見ていない。

 目標のない人生が、つらい。

「星はいるだけでいいもんね」

「乃子、スイカ切ったよー」

 下の方から母の声が聞こえてきた。

「はーい。星よりスイカだ」

 乃子は階段を駆け下りていった。

 


「ただいま」

「おかえり初那大そなた!」

 大きな声だ。リビングに入るまでに溜息を出し尽くして、初那大は笑顔を作った。

「いいにおいがする!」

「今日はすき焼きだぞー!」

 初那大の父は、いつでも明るい。初那大はそれが苦手だった。

 母も、暗くはない。鼻歌を歌いながら、料理を作っている。

「そろそろかー」

 父は、テーブルを拭いたり、食器を出したりしててきぱきと動く。

 ああ、、と初那大はいつも思う。

 私、どっちにも似てないんだよな。

 初那大はもっと小さいころ、本気でそのことに悩んだ。そこで、アルバムを見てみた。赤ん坊の彼女が映っていた。母親もいた。ああ、お母さんの子供だったのね、と思った。

 お父さんはいなかった。二歳ごろまで、いなかった。

 初那大はそのことを、心にしまうことにした。いろいろなことを心にしまって、将棋をすることだけをわがままを言って、今まで生きてきた。母親は嫌がっていたが、押し切ったのである。

「すき焼きおいしそー」

 たいして好きでもないものを目の前に、初那大は目を輝かせていた。

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