4-3
2勝3敗。それが、乃子の女流プロ棋戦での成績である。
乃子は招待された棋戦には参加したが、自らプロと戦える大会にエントリーしたことはなかった。そのため、実力の割には女流棋士と指す機会は少なかった。
最後に戦った相手は、
乃子は、ボロボロになって負けた。序盤は互角だった。しかし中盤以降、全くチャンスがなかったのである。
決して、同世代の中でも一番じゃない。乃子は、そのことを思い知ったのである。
「星あるなあ」
乃子は、物干し台に上がっていた。蔵の上に作ったもので、三畳ほどの広さがある。昔からたまにそこで、意味もなく過ごすことがあった。「星を見る」という設定でいるものの、
そこまで真剣には見ていない。
目標のない人生が、つらい。
「星はいるだけでいいもんね」
「乃子、スイカ切ったよー」
下の方から母の声が聞こえてきた。
「はーい。星よりスイカだ」
乃子は階段を駆け下りていった。
「ただいま」
「おかえり
大きな声だ。リビングに入るまでに溜息を出し尽くして、初那大は笑顔を作った。
「いいにおいがする!」
「今日はすき焼きだぞー!」
初那大の父は、いつでも明るい。初那大はそれが苦手だった。
母も、暗くはない。鼻歌を歌いながら、料理を作っている。
「そろそろかー」
父は、テーブルを拭いたり、食器を出したりしててきぱきと動く。
ああ、いい人たちなんだろうな、と初那大はいつも思う。
私、どっちにも似てないんだよな。
初那大はもっと小さいころ、本気でそのことに悩んだ。そこで、アルバムを見てみた。赤ん坊の彼女が映っていた。母親もいた。ああ、お母さんの子供だったのね、と思った。
お父さんはいなかった。二歳ごろまで、いなかった。
初那大はそのことを、心にしまうことにした。いろいろなことを心にしまって、将棋をすることだけをわがままを言って、今まで生きてきた。母親は嫌がっていたが、押し切ったのである。
「すき焼きおいしそー」
たいして好きでもないものを目の前に、初那大は目を輝かせていた。
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