第3話 勧誘
「俺は何もやってないんですよ! 本当なんすよ、信じてくださいお巡りさーん!」
エイスケは
ともかく
「マジで心当たりないんだって! 知らない女に襲われただけ!」
「犯人は皆そう言うんだ」
ハル・フロストの言葉にギクリとする。
実を言うと心当たりは無数にあった。地下闘技場の凶獣が正規の手段で飼われているとは到底思えない。その地下闘技場に雇われて凶獣を捕まえようとしたエイスケもケイオスポリスの法に違反している。そもそもエイスケは日頃から裏社会の仕事を引き受けて生計を立てており、引き受けた仕事の大半が違法だ。
エイスケはベソをかいて弁明したが、聞き入れられなかった。エイスケはハルとシンリに付き添われながら取り調べ室に入れられると、シンリが話しかけてくる。
「今からこの部屋にある女性が入ってくるが、君はその女性を攻撃しないことを約束して欲しい」
「……へえ」
エイスケは泣き真似をやめて違和感を整理する。エイスケは手錠をかけられただけだ。
逃走する機会はいくらでもあったのにエイスケが大人しく従ったのは
エイスケは頷くと、ジャラリと手錠のつけられた両手首をシンリに差し出した。
「手錠を外してくれ。あんたたちが俺を攻撃しない限り、俺もあんたたちを攻撃しない」
シンリは軽く頷くと、手錠を外し、エイスケの後ろに控えるように立った。
「え? こいつ犯罪者じゃないのか?」
不思議そうなハルの言葉が不安を煽ったが、いったん気にしないことにする。
手錠が外されてすぐに、美しい少女が入ってきた。
「こんにちは! ユウカ・サクラコウジです。ユウカって呼んでくださいね!」
「エイスケ・オガタだ。……サクラコウジって、あの?」
「はい、桜小路財閥の総帥を務めています!」
桜小路財閥はケイオスポリスでも有数の大財閥だ。
「へへ、肩でもお揉みしましょうか」
とりあえずは長い物には巻かれるのがエイスケの処世術だ。
「まずはエイスケさんに来て頂いた理由をお話させてください」
ユウカはエイスケの媚びを華麗にスルーして会話を続けた。
「エイスケさん、わたしたち
「
ケイオスポリスにいれば誰でも知っていることだ。ケイオスポリスで起こる
「ええ。それだけ分かっていれば充分です」
ユウカは頷くと、本題を切り出す。
「これは勧誘です。エイスケさん、
「「なんだって?」」
自分の耳がおかしくなったのかと思い、エイスケは思わず聞き返した。同じく疑問に思ったハルの声も被った。エイスケの傍らに立っていたシンリが説明を引き継ぐ。
「私が推薦したんだ。エイスケ、悪党から女の子を守っていただろう? 戦闘能力がある
「また、急な話だな」
「シンリ、僕は反対だぞ。こんなどこの誰かも分からない
「もちろん選考面接はする。ハル、
「それは、そうだけど」
渋るハルの様子を見ながら、エイスケは考えるふりをした。すでに
そんなエイスケの背中を押すためか、ユウカが問いを投げかけてくる。
「エイスケさん、異能力者がなぜ
「? そりゃあ……
覚醒した
「ええ。悪望能力は個人が抱いた強い願いを叶えるために顕現しますが、なぜか高確率で他者を蹂躙する形をとります」
なぜか、ね。エイスケに言わせれば個人の願望とは多かれ少なかれ他人を蹴落とす性質を持つものだが、黙って話を促す。
「だからこそ、このケイオスポリスに秩序を守るため、危険な
「人員が足りない、か。まあそりゃそうだよな。
ついでに言うと先程会った無法者どもにも務まるとは思えなかったが、これも黙っておく。
「わたしは、この街で好き勝手に暴れまわる
ユウカの声色には覚悟のようなものが滲んでいたが、エイスケには共感できなかった。そもそもエイスケ自身が
しかし、シンリとユウカの勧誘に乗るならこのタイミングだろう。エイスケはなるべく感極まった声を出してユウカに賛同した。
「感動したぜ、ユウカ。あんたたちはケイオスポリスに平和を取り戻す
「
「感謝する」
「ありがとうございます!」
ハルが嫌そうな顔をして、シンリは感謝し、ユウカは満面の笑みで礼を述べる。三者三様の反応。その後、ユウカは少しだけ申し訳無さそうな表情をする。
「これから簡単な入局面接だけさせてください。形式だけではあるのですが、
「ああ、もちろん構わないぜ」
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