最終話 脱いだら凄いんだから


村で過ごす三度目の冬…


急ピッチで家を建て、〈村役場〉も使い何とか200人近い村人が寒さに凍えること無く過ごしている。


村人も増えて、出来る事も増えた。


例えば、農家の方々が移住して来てくれたので作物の種類や量が豊富に成った事と、


村の羊魔物や〈シルク〉ネェさんの糸を使い、

機織りをして、布も出来る様に成った。


これで買い出しをせずとも普通の水準程度は、村で豊かな衣食住が確保できた。


そして、


普通水準以上なのは、


エルフさん達が〈植物鑑定〉や〈成長促進〉などの植物系の能力が有り、作物の品種改良等に取りかかれる事と、


栽培の難しい〈上薬草〉などの安定栽培が可能となり、


魔族の方に一人錬金術師が居て、村でポーション類の生産も出来る様に成った。


竜人族の方々は狩や、採集に、採掘と、何でもこいで、頼りになり、

更に、ポー君以外で、ドラゴンちゃんと話せる数少ない通訳担当要員に成ってくれている。


そして、


一番の変化は、


ドワーフさん達なのだ…


〈新たな酒を探している〉と言っていたので、


「どんな酒が好みか?」と聞けば、


「兎に角ガツンとくるやつ!」と口を揃えて言うので、


手持ちの素材で、実験的に〈蒸留酒〉を作ってあげたのだが、


…そからが早かった。


大工さんが移住してきてくれたとはいえ、まだまだ家が足りないのに、ビルさんやリーカーさんを巻き込み、


蒸留工房を作り、鉱石を探して掘り進めた洞窟に樽の貯蔵庫を作ってしまった。


村で酒にするほど作物や葡萄はまだ取れないので、他所から安酒を大量に購入して蒸留する事に成ったのだが、


なんと、ドラゴンちゃんまでノリノリで、各地に買い出しの為に飛んでくれる事に成った。


ジルとシーラの二人は、国王陛下直々に〈王都の学校に来てくれ〉と言われていたので、王国が少し落ち着いた昨年の暮れに、安酒の買い付けがてらドラゴンちゃんに送ってもらい、


今ではエリートコースに乗っている…


しかし、まだ王国の偉いさん方は、ウチの村の子供達の学力が王国のエリートコースでも通用するぐらいなのを知らないようだ…


数年がかりで王国の文官職をウチの村の子供で固めてしまうのも面白いかもしれない…


〈悪い企みではなくて、純粋に高給取りに育成したいだけですよ…本当に…〉


初めての冬は春を待って過ごすだけだったが、


今年の冬は、炭焼きの煙が上がり、


その炭を使った蒸留工房から男達の、


「次はイースナのワインを蒸留するぞ、」


と活気のある声が聞こえ、


村役場では、色々種族の子供達が、読み、書き、計算を頑張って、


婦人会が羊魔物の毛から糸を作り、織物を楽しそうにお喋りしながら作っている…


小さな村だが、そこらの街に負けない活気があり、皆、未来に向けて頑張っている。


そして、俺は、


アナから、〈そろそろ式を挙げませんか?〉というプレッシャーに耐えている…


〈いや、良いんだよ…良いんだけど…16なのよ…アナちゃんは、


何だか、アレじゃん!


日本人的にはちょっと…〉


と思っているが、チーちゃんとポー君が所構わずイチャイチャしているので、アナが…もう…羨ましいやら悔しいやらで…


しかし、時間をおいてドラゴンちゃんみたいに浮気されて、幸せ子沢山に成ったアナを見るのは辛い…


〈これは男を見せる時が来たかもしれない。〉


と思い、


アナと散歩を口実に村の広場に移動して、雪がちらつく夕暮れに、


「家族になりましょう。」


と言うと、


アナは涙を浮かべながらニコリと微笑み、


「初めて会った日から家族だよ…」


と言って抱きついてきた。


寒空の下で泣いている愛しい女性に、アイテムボックスからハンカチを出して、


そっと涙を拭ってあげる…


アナは、


「ありがとう」


と言った顔が可愛い過ぎて…ドキドキして…


照れ隠しで、


「ハンカチを渡したらどこを拭くか分からないからね。」


と冗談を言ってみた…


すると、


「バカ!」


と言ってボディーを殴られた…


二倍のステータスのアナパンチは、冬の厚着の俺にクリーンヒットし、


今回は危なく俺が漏らしそうに成る…


〈この日俺は、アナを絶対幸せにする事と、


冬場は冗談を言わない事を誓った。〉




あの日、神様のミスで死んだ俺は、


神様の勘違いで癖の強いスキルを与えられ、


孤児に成ったりもしたが、良い家族に拾われて、


元気に育ち、


冒険者として出会った愛しの女性…


〈出逢いは癖が強かったが…〉


最高のパーティーメンバー…


〈やっぱり出逢いは癖が強いな…〉


兎に角、前世の虚弱体質の俺では味わえなかった楽し日々を送っています。


〈神様ありがとう。〉



というと、久しぶりに白い世界に呼ばれた…


アナと二人で驚いていると、


神様が、


「おめでとうね、オルナス君もアナちゃんも…


あの草むらの出逢いから知ってるから何だか胸が暑くなったよ…


でも、オルナス君…冗談のセンスないね…」


と、お祝いされた後に〈チクリ〉と言われた。


〈グサッ〉と精神にダメージをくらう俺…


そして神様は、


「二人が幸せなのは良かっけど、ドラゴンちゃんが可哀想だから、ドラゴンちゃんのお相手を探す旅に付き合ってあげてよ。」


とお願いされた。


すると、俺が答える前に、


アナが


「神様、任せて。


私達が一肌脱ぐから!


心配ないわよ、


〈だって、ウチの旦那、脱いだら凄いんだから〉


大丈夫だよねぇ~フフフッ。」


と嬉しいそうに答えていた。


〈ちくしょう、上手いじゃないか…ウチの奥さんは…〉


「よし、一肌脱いで、ウチの村の仲間を幸せにしますか…!」


と俺が言うと、



気がつけば、次の瞬間にはアナと二人、村の広場に立っていて、


すでに空には冬の星が瞬いていた…





オルナス君のお話しはここで終わりと成りますが、

この後、ドラゴンちゃんの婿探しで西へ東へ飛び回り、


浮気男のブラックドラゴンに〈人化〉のスキルを覚えたドラゴンちゃんが、絶世の美女の姿で逢いに行き、新たな彼氏を紹介するのは、また別のお話しで…

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俺は、脱いだら凄いんだから ヒコしろう @hikoshirou

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