番外編 【劇場裏喫煙所にて】


始まる人間と終わる人間が交差する月。

一見季節と関係なさそうなこのお笑い劇場でも

この季節に限ったイベントがある。

そう、養成所や高校を卒業をして新人が入ってくるのだ。

そのため劇場の中で、言葉をいい意味にしたら


中堅や古参 オブラートを引っぺがしたら「売れていない」芸人たちが

焦ったり見切りをつけて芸人を辞める人…

出会いと別れが劇場では分かりやすく出てくる季節だと

ウチ的には思っている。


「ウチも中堅かぁ‥‥ってこのセリフ何年目やねん」


いつもの屯っている喫煙所では無く、

ここは劇場の裏にある

ただ灰皿が置かれただけの喫煙所と呼べるかも

わからない自称喫煙所。


よく出番前や終わりの芸人やスタッフが集っているが、

今日は、珍しく誰もいなかったため

ひとり言を言いながらウチは、煙をしばきまわしていた。


「もう後何年 この生活が出来るんやろなぁ…」


ウチは人間じゃない化け狐だ。だから、普通の人間にのしかかってくる

世間体 寿命などはあまり関係ない。

が、やはり何年も生きていると飽きてくるのだ。だからウチは、

で人間に少しでも近づけるかなと思って

芸人を始めたんだ。

そんな空を眺めなら自分らしくもない物思いに更け始めた時に

劇場の裏口がガチャリと開いた。

「お疲れ様ですぅ~狐狸さん」

声をしたほうを振り返ってみるとそこには

よく出番が一緒になる後輩男女コンビ「グロリアス」の

ツッコミ担当でよく周りからは

すぐ突っかからない女性のほうと言われていた「田畑らい」が

立っていた。

(ちなみに、前トラブっていたのは

このコンビの男のほうでもある)


「お疲れさん 田畑ちゃんたばこ吸うタイプの人やっけ?」


「いいえ~ただ狐狸さんにちょっと、相談に乗って欲しい事があって」


そう言いながら田畑ちゃんは、メイクもばっちゃり決め

ウェーブがかった茶髪ロングヘアを揺らし 

階段にしゃがみこむウチの隣に座る。

笑いに走りがちな劇場女性陣の中でもスタイルを

維持し続ける田畑ちゃんは、いい意味で浮いていてもいたし、

正味、うちも少し苦手だった時期がある。


「ええよ!でも、たばこの煙つくけど大丈夫なん?」

「大丈夫です~それで、相談したい事なんですけど…」

「うんどしたんや?」


田畑ちゃんは、さっきのふわふわとした笑顔とは打って変わり

ガラッと腹を括った顔つきになるとぽつりとつぶやく。


「解散したんですよグロリアス」

「えっ!?そうなんや」


この季節に限らず劇場芸人のトリオ、コンビの解散は正直珍しくないし

なんだったら毎日ある。けれどこのコンビは


さっきの通り、ボケ担当の男が周りにすぐ突っかかって

ネタのダメ出しやスタイルに怒ってくるというトラブルを起こしまくって

そのたびに、

田畑ちゃんが解決させてたって言う構図が出来上がっていたため

逆にいつ解散するのかと度々喫煙所の話題に

上がっていたぐらいだ。


「そかぁ‥相方はなんて言ってたん?」


「いや実は、相方のほうが解散を言ってきたんですよ」


「ええっ?」


「なんでも、お笑いに飽きたらしいです~」


「うぇぇ‥‥いくら何でも自分勝手ちゃう?それは」


「ですよね!?なんで一発殴って辞めてやりました~!!」

ものすっごく綺麗な笑顔で拳を掲げて笑う田畑ちゃんは、

どこか吹っ切れたいい笑顔をしていた。


「あっそうなんや‥いっ意外やなぁ」


「はははっ~

でっそれで聞きたいんですけどっ狐狸さんは

ずっとピンじゃないですか?

私もピンでやるので何か心構えとかってありますか?」


そう言われた時にウチの頭の中で、ふと

一つのおもろそうな案が出てきたのでそれを言ってみる事にした。

「田畑ちゃんさえよければなんやけどさ

ウチがよくおる喫煙所あるんやけど、そこ一回行ってみん?

みんなええ人ばかりやし楽しいねん」


「え!良いんですか!?行ってみたいです!」


「ほな決まりやな!この後空いてる?」


「空いてます空いてます!」


「それじゃさっそく昼食ったら行こか~!」


「はい!」

そう言いながらウチは、頭の中で

これからこの子が、どんな反応をしてくれんか

おもろい気配にわくわくし

最後のたばこを消したのだった。




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しゃべりだべり。 霧雨煙草 @kiresama

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