【喫煙所サイファー】

朝方、いなちゃんからメッセージが来た時

私は空っぽになってきた財布を壁に投げつけて

そのまま、床に座り込んでいた。

理由は、単純明快金がないからだ。

「あ~なんでぇ…なんでないの金ぇ…あ、使ったからかぁ」

1人そう解決させながらゴロつき

ふと机に置いてあるスマホを手に取り

いなちゃんからのメッセージに気が付く。

「ん?なんだろ?」 


-----お疲れっす!!今日喫煙所いける方

一緒にやって欲しい事があるんでよろしくッス!!


「やって欲しい事?まぁたばこは吸いたいしだべりたいし…行くかぁ」

そうと決まればとハンガーにかかってたシャツを着て薄手のワイシャツを

羽織り黒のパンツを履き洗面所で、ダルいながらも

洗面所に行き軽く化粧をしてから

ライターとピアニッシモとスマホを

かばんに入れそのまま鍵を閉め外に出る。

外は、段々と夕方に近づいて来ているのもあってか

風が吹き始めていて涼しく感じた。

「今日も一日が終わるなぁ…だる」

なんて呟きながら喫煙所のほうに向かって歩いていき

次第に喫煙所が見えてくる。

「smokingroom」と書かれ

時間と共に剥がれかけたステッカーが貼られた扉を開ける。

「お疲れ様でぇす…ってあれ?裂口さん以外は全員いる感じですか?」


中では、思い思いの体制でたばこを吹かす裂口さんを除く喫煙所メンバーがいた。


「せやねぇおーきさん 何か聞いてない?」


狐里さんから呼ばれた、狼木さんはああっ?と言いたげに

顔を上げ頭を軽く描き言う。


「あー…聞いてねぇけど仕事が忙しいだけじゃねぇか? てか狐里おまえ

人の事をクエン酸みたいに言うんじゃねぇよ」

「ええやん別に 元がかなりのしかめっ面しとるんやから

折角やし愛嬌のあるあだ名つけたろかな思ってな」


狐里さんは、顔をうざそうに顰める狼木さんが

さらに琴線に触れたのかケタケタと笑いながら言う。

「ったく…この顔は生まれつきだわ この性悪狐が」

「あーはいはい んで何するん?いなちゃん」

渦中のいなちゃんは、

喫煙所の真ん中に小型の路上ライブとかで見かける

スピーカーを置きマイクとスマホを繋げたりと

もくもくと準備をしていた。

「…うしっ!と ああ、すいませんっす集中してて気づかなかったっす」

いなちゃんは顔を上げると笑いながら軽く頭を下げ

その後そのまま私のほうに向きなおる。


「えとそうすね 皆さんサイファーって知ってるすか?」

その呼びかけに

「名前だけは知ってる~」

と私が手を挙げ

「同じく やった事はねぇなぁ」と狼木さん


「ウチはネタでラップはした事あるけど あれはいるんかなぁ?」って狐里さんは、

首を傾げ言う。


「そうなんすね!了解っす えとサイファーって言うのは

簡単に言えば即興のラップを今から流す曲に乗せて披露しあう感じっす」

「でも、私達ラップなんて素人だけど良いの?」


私が説明を聞いて不安に思った事をぽつりと口にすると

その質問を待ってましたとばかりに、いなちゃんはパチンと指を鳴らし言う


「大丈夫っす!!皆さんいい声してるんで!!!」


いやそこを心配してるんじゃないんだけど


と思った私のツッコミは、そのままいなちゃんの熱い熱波に流されて

消えあれやこれやと言う前にマイクを持たされ、

やることになった。 しかも一番手だ。

スピーカーからは、早くノれとばかりにメロウなサウンドが鳴り

喫煙所を包みこんでいる。

もう、やるしかないかと腹をくくり私は息を一つ吸ってしゃべりだした。

—私は、今ここにいる。私は、なんとかここに居れる。

 人間でも 人間じゃなくても ここにそれを区別する人はいないからさ


正直そこから先の事はよく覚えていない。

ただ、恥ずかしさとどこか思った事を言葉に出せて

楽しかった事だけは覚えている。

自分があんな事を思っていたのかと どこかごちゃついてた気持ちは

すっかり終わる頃には消えていた。



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