【日々の労働と失った私の単位】

もうすっかり辺りは暖かくなり

世間は出会いと別れと変態の季節になった。


テレビやネットでは、「新生活」やら「出会い」やらが

煌びやかな音楽とともに特集されている。

そして、現在大学生の私もギリギリ進級し

なんとか三年に…なるはずだった。そう なるはずだった。

部屋のベットで、転がりながら昨日起こった事を整理する。

私史上最高で最悪な出来事を

「はぁ…マジかぁ‥」

まだ起き上がらない頭を

無理やりでも

動かしながらやっとこさベットから

起き上がり私は、

カーテンとカーテンの

隙間から差し込む自分勝手に

キラキラと差し込む日差しを憎らしく見やる。

「くそが」

太陽にあたっても仕方がないのは重々承知だけれど

でも当たざるを得ないぐらい私の気持ちはささくれだって

荒れていた。

「ああ‥留年かぁ…」

 《》この言葉をつぶやくたびに頭がもーれつに痛くなる。


でもやってしまったものはしょうがないし

今回は一度目だ。そうさ二度目がなければいいじゃないか。

そう気持ちを現実とうh・・エホッケホッ!

じゃなく切り替えていこうと

言う所で

そろそろバイトの時間に来ていた事に気づく。部屋の真ん中に

つけられた時計は、昼の12時半を指していた。


「行くか…行かざるべきかぁ」


つぶやきながらまたベットにゴロンと転がる。

が、ここで現実と言うものいささか

空気を読まないもので今月も金がないと言う事実を出していく。


「‥‥行くか」


この事実に何も言えなくなった私は、仕方なく

部屋のクローゼットからオーバーサイズのチェックシャツに

白いパーカにロングスカートを出してきて着替えていく。


「やばいやばいっ‥‥」


バイトの開始時間は二時。幸いしてバイト先自体は、

近所にあるためダッシュでちょうど間に合う!


「ごはんは…まぁ後で済ませればいいっか!」


そう言いながら スマホ充電コード‥マスクに財布を

机やらからつかんで鞄に入れ準備を進める。


「んじゃ行ってきますっ!」


鍵をつかみバタバタと靴を履いて扉を閉め

ちゃんとかかったのを確認するとそのまま、階段を

かけて走っていく。

私が住んでいるアパートとバイト先の古着屋は、

同じ通り沿いにありいつもいる喫煙所は通りを挟んで

向いにある。


つまりこのまま一心不乱に走ってさえいきれば!!着く!

間に合えぇ!!そう思いながら通りをかけていき

色とりどりの店が目線の端でちらつき消えていく。


だんだんと見慣れた看板に店先まで溢れた古着の山。

バイト先が見えるやいなや私は、店に飛び込んでいく。

「すいません!!セーフですかぁ!!」

古着 アクセ 外国製のレコードが店全体を

おもちゃ箱のように敷き詰められた店内の奥に

しているカウンターに鎮座している

なんだか見覚えがある顔の

大柄な体躯をした強面ひげを蓄えてニット帽を被った男性。

店長こと狼木さんは

たばこを溜息と共に大きく吐き出し

呆れた口調で手首に

つけられた時計を指さし言う。


「おまえなぁ…ギリギリセーフだけどよぉ

 少しは余裕をもってもいいんじゃねぇか?」


「うっ!すいません…」

息を整えながら聴く私に

狼木さんの呆れまじりの言葉が突き刺さっていく。


「や 本当すませんした‥

次はさらにギリギリ攻めていきたいと思います!!」


「そーゆー事じゃねぇよ!」

「ぼふっ!」


ツッコみながら狼木さんは

カウンター近くにあった古着を

私に向かってぶん投げ それは見事に

私の顔面に覆うようにヒットする。


「ぷはっ!もう…古着屋なんだし

もう少し丁寧にしてくださいよ…」


私の抗議なんぞどこ吹く風と

ばかりに狼木さんは


「これに懲りたらギリギリに行動するの

やめろよ…あと投げた服は不良在庫だからな 後優しく投げてる」


誰かに言い訳するように言いながら

狼木さんは

さっきまでカウンターで

していた作業を再開していく。

「はぁ〜いわかりました店長…」

私も少し拗ねた顔をしながら

奥の休憩室に荷物を置いていくために

立ち上がってカバンを持つ。

「ああ、そうだ」

「はい?」

休憩室に向かおうとしていた私を

狼木さんは言いながら止める。

「確か今日発表って言ってなかったか?

どうだ? 3年になれそうか?」

「うっ!」

私は気まずくなりながらゆっくり振り向き

現実を口にする。

「…ぉました」

「はっ?」

「すいません…

単位落として留年しましたっ…」

「ああっ!?」

「ひぃっ!」

なまじ迫力が凄い顔面なもんだから

それで怒鳴られたら溜まったもんじゃない

本当に。うん本当に

「お前なぁ…散々俺が

勉強見てやったじゃあねぇか…

苦手だって言う所を中心にみっちり休憩時間にしたじゃねぇかよ…」

「はい…行くを忘れました」

「大学にか?」


「そこからかぁ…」

そう呟くと狼木さんは頭を抱える。


こうして全部自業自得ではあるが、

気まずさで一杯になった私の労働の

午後が始まるのだった。











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