【店内有線の曲は耳に残るけど家に帰ると忘れてる】

あの激動の宴から数日あけ

いつもの喫煙所で私達は、ライターの交換会をしながら駄弁っていた。

ちなみに今日は、珍しく全員いるため喫煙室も手狭に感じる。

ジジッ・・・

思い思いに

火を付け煙を、燻らせていく。


「そういえば、ビックリしたんだけど、狼木あんた金ない金ないさえないって言ってる癖してライターお洒落じゃないかい」


「今一瞬、悪口言われた気がすんだけど・・・

まぁいいかこれは雑貨屋のオーナーがうち来た時くれたやつだなタダだし使ってるわ」


そう言いながら狼木さんは、ライターを

パチンパチンと二回いじる。

「でもマイライターいいですね~

私なんて100円で売ってるライターですもん」

そう言いながら、

むくっと頬を膨らませ私はライターをちらっと見る。

「そんなおだててもやらねぇぞ」

狼木さんは、私の魂胆なんぞ見え見えなのかニヤニヤしながら言う。

「チッ」

「分かりやすいんだよ」

からかい混じりに笑い私に

言いながら、狼木さんは2本目に火を付ける。

この会話も、形ばって

形骸化してきているがこの空気感が

最近好きだ。

「はぁぁぁぁぁぁっ」

話題の転回を知らせるように、狐里さんがシケモクの煙とともに大きなため息をつく。

「どうしたんすか?」

オプションパープルをマッチで

火を付けながら、うなだれる狐里さんにいなちゃんが声をかける。

「実はなぁ、今度ネタで流行の曲に

ツッコんでくってやつやろうと思てんけどさ」


「そのために、今どんな曲が流行ってるやろって調べたのよ」

「そしたら・・・全部同じように聞こえてさネタが半分も出来てへん・・」


そう愚痴をこぼしながら狐里さんは

煙を吐いていく。段々と煙がドス黒い

感じになっているんだけど多分、多分気のせいだろう。うん。絶対そうだ

「それだったらさどんなネタなんだい?見せておくれよ」


裂口さんがさっき私からもらったピアニッシモに

火をつけながら足を組み提案する。

「見てみたいっす!」

いなちゃんも目を輝かせながら同意する。

私も正直、話を聴いていて気になってきてたので

今すぐにでも、見てみたい。

で、渦中の狐里さんはと言うと

「え〜…ほんまにぃ?」

壁によりかかり煙を吹かしながら気に進まない様子だ。

「うーん‥‥せやなっ!ちょっと待っててな」

しばらく首をぐるんぐるんと動かし悩んでいたけれど

自分の中で落としどころを見つけたらしく、ちょっとすると

スマホを使いながら準備をしだした。

「よしっ!準備出来たわ~やってええ?」

「はい!楽しみっす!」

「がんばりな~」

そうすると

狐里さんは、喫煙所の真ん中の机にスマホを

置きネタを始めた。

「どもです〜!毎度お世話になっております!狐里ですぅ!はいっと言うわけで」

「最近思うんですけどもね

やっぱ最近はいろんな所に目向けていかな

あかんなぁって思うわけですよ!」

「でっ最近ウチがし始めた事って

何かなぁって思ったら

音楽!!最近音楽聴くなって思ったんですよなので今日は、今から3曲流すんで

それに突っ込んでいこうかなって思います!ほな行こか!」

【♪羽ばたいた先に何が見える〜♪】 

「空です!これ系やたらと光に

ぶち当たりがちなんですけど

そんなんされたら100ぱー事故りますからね!次!」

【♪バイバイさようなら歩んでく螺旋階段♪】

「どこで別れ告げてんねん!!

ほんでお前それ歩んでいっても

屋上で引き返すでそれ!次ぃ!」

【♪僕らはずっと待っていた貴方をずっと待っていた♪】

「熱烈な出待ちやねぇ!多すぎやろ

ホラーやホラー!速攻ポリスメン逮捕や!」

「まぁこんな聴き方してる

自分も人の事言えないんですけどねっ!

ありがとうございました〜!」

「…どやった?ってあれ?いなちゃん?」

一通りネタを終えて狐里さんは

肩を弾ませて息を整えながら

聴いてくる。

「めっちゃツボって死んでますね」

いなちゃんは床に蹲って笑っていた。

横にいる

狼木さんと裂口さんも笑い涙を浮かべていた。

「いいんじゃねぇか?俺は好きだぜ」

まだ若干引き笑いになりながら

狼木さんは言う。

「ほんまに!?やったぁ!!〜」

狐里さんは、それを聞いてホッと

したのか胸を撫でおろした。

「まぁでもまだ未完成やし

がんばるわ!ありがとうな!」

そう言いながら晴れやかな顔で

狐里さんは出ていった。


その後、書き直し完成したネタで

自信満々に

劇場に出たが

ややウケになってしまい

落ち込みながらまた喫煙所に

やってきたのは別の話である。






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