【春と新しい歌と】


「かんぱーーーーい!!!!!」

雲一つ無い晴天の日。

場所は、いつもの喫煙所・・・ではなく

そこから少しばかり離れた公園に、

私たちは来ていた。


最近こっちに帰ってきた子がいたので

その子のお祝いも兼ねての飲み会を

開いていた。


季節も段々と暖かくなってきたのも

あってか、ちらほらと人も見かける。

「いやぁ~めでたいわぁっ!!」

キリン印のビールを片手に狐里さんは

頬を赤らめながらニカッと笑う。


「そうですねぇ~

無事で帰ってきてよかったです」


私もそういいながらタバコ片手に笑った

そこに遠くから声がした気がしたので

ふと振り向いてみると

「いやぁ本当にありがとうございますッス!!」

と声を上げながら

酔っ払った裂口さんにもみくちゃにされながら、ゆるく波打った赤いアシンメトリースタイルな髪型をし

だぼっとしたストリートコーデを

してきたんだと思うけれどもう、


「追い剥ぎにあったんかっ!!」って

レベルでもちゃもちゃになりながら、少女が向かってくる。

「・・・大丈夫なん?」

「ははは・・裂口先輩の酒癖の悪さ

忘れてました」

「でも、お疲れさんだねいなちゃん

あってかいろんな所行ったんでしょ?」


「あざす!そうすね

楽しかったけどさすがに疲れたっすね〜」


いなちゃん事伊那田ちゃんは、そう言いながら照れくさそうに頬をかいた。

いなちゃんの職業は、ネットラッパーだ。

影女の

私も詳しくは知らないけれど、

YouTubeなどにラップの曲を上げている人を大まかに纏めて

そう呼ぶらしい。

後、影女の特徴は変化で克服出来るらしく

今はパフォーマンスの一環で使っているらしい

売れてくるとライブハウスでライブする事が増えるらしく、

いなちゃんもご多分にもれず

ついこの間まで、日本各地のライブハウスを飛び回っていた。

「何かおもろい事とかあったん?」

狐里さんがそう聞くと

いなちゃんは、少し考えて

「あっそういえば

大阪のほうのライブハウスにもいったんすけど」

「えっ!?そうなん?」

それを聞くと大阪出身の狐里さんは

嬉しそうにまるで

見えない尻尾をぶるんぶるんと振りながら

食い入るように聞きだす。

「ありがたい事にゲストに呼んでくれて

そのままライブしたんすけど」

「うんうん」

「大阪の人ってノリで全力で答えるんすね!?

俺もう、びっくりしたッスてか、その何倍もうれしかったっす~!!」

「あっありがどう~!!」

「うわぁぁ!?」

よほど楽しかったのか、腕をぶんぶんと降って興奮しきりに笑顔を

浮かばせながら言っていた。

私がそれに、かわいい・・と思いながら頷き

ふと横を見てみると

狐里さんは顔から出すもの全部出してますと

言わんばかりに大号泣していなちゃんに

抱きついたのだ。

「ありがどうッ…スンッありがとうっ~!

そうなんよみんないいやつなんよっ!!

それを!それを分かってくれるだけで

ありがどうなぁ!嬉しいわぁ!」

「いっいえ…こちらこそっす」

引き気味な気持ちと素直な

気持ちがごちゃ混ぜになったような

顔で答える。遠くのほうでは、

遅れてきた狼木さんが犠牲なったらしく悲鳴が聞こえてきていた。

(悲鳴は意外と高いかわいい)

圧倒的カオスな光景だが

私は、なぜかほのぼのとした気持ちになりながら

もう一缶あける。

カシュッ

プシュァ堕落の音が響いてくる。

この夜が、ずっと続けばいいなぁと思った。

そんな日だった。

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