第12話 冷やしクリームあんぱん
日を追うごとに忙しさは増した。
ゴールデンウィークの頃にはアルバイトもボランティアにも行けていなかった。
いよいよ公務員試験が始まっていた。私は本命の政令市消防以外にも海保、国税専門官、国家一般等いくつもの試験を受けた。全ては本番のために。そういう思いだった。特にこの月、東京にも試験を受けに行くことになっていた。
私はいつものように試験勉強の合間、Facebookでスイーツ投稿をした。
今回はローソンで購入したウチカフェスイーツの冷やしクリームあんぱんという、なんとも贅沢な一品だった。
あんぱんにクリームが入っており、それを冷やす。和洋スイーツのいいところどりに加えて、冷たさまでプラス。舌触りもなめらかで毎日のように食べていた。
すぐにコメントがついた。ユリコ店長だ。
『いいなー!私も買ってくる!』
ほどなくしてユリコ店長からさらにコメントがついた。
『スーパー行ってきたけど売ってなかったー!なんでー!!』
ユリコ店長にコメントを返した。
『ウチカフェだからスーパーにはありませんよ!いつも良くしてくれるから俺買って行きます!』
すると
『ありがとう〜。お金払います!』
私はお金はいらないというコメントとともに、15ほど離れた彼女を茶化そうと、
『母の日も近いしプレゼントです!笑』
そんなコメントのやりとりを繰り返した翌日、久々の勤務日だったため冷やしクリームあんぱんを二つ購入し、ユリコ店長に渡した。
「ありがとう〜!!私コンビニとかあまり行かなくて。あまり出歩いたりもしないからぜーんぜんわからないんだー。お金払うね!いくら?!」
「母の日のプレゼントですって!いりません!ほら!冷たいうちに食べて!」
そういうとユリコ店長はバックルームでモグモグしていた。
ハムスターやリスなどの小動物が木の実をかじっているような持ち方で少しずつパクパク食べ進めるユリコ店長があまりにも可愛く、見惚れてしまった。
その姿をなん度もみたいがために理由もないのにバックルームに顔を入れた。
本来、バックルームは靴の在庫、社員のロッカーと小さいソファが設置してあり休憩や在庫管理の時にしか入らなかった。
そこになん度も顔を出すのだから自分自身のユリコ店長への想いは半端ないものだった。
モグモグタイムを終えたユリコ店長がバックルームから出てきた。
「美味しかった〜!!!世の中こんなに美味しいものがあるんだね〜!!ごちそうさまです!」
「あ、店長口にクリームついてますよ?!なんちゃって!食いしん坊ですねー!喜んでもらえてよかったです!」
ここから【お返し】の仕合が始まっていった。交換日記をスイーツでやる。そんなやりとりが始まった。
別の日
「はい。これは私からのお礼です!このカスタードヨーグルト、美味しそうじゃない?!」
「えー!カスタードとヨーグルト?!凄い組み合わせですね!!いただきます!」
勤務数は決して多くはなかったけれど、会えばスイーツのお返しをしあった。2人の暗黙のルールだったのかわからないが、買ってきた方が後に食べる、もらった側が先に食べて感想を伝える流れが出来ていた。
いつか一緒に、同じ時間にデート出来たらなー。そんな思いばかり膨れていった。
ある日、ユリコ店長が
「そういえばきみ!ジャンボパフェを知ってる?!私の妹が昔食べたみたいなんだけど一つ10人前くらいあるんだって!君なら一人で食べれちゃいそうだよね!だから試験合格したら私がお金出すから一緒に食べに行こうよ!」
頭がパニックになった。一緒にパフェ。デート以外の何者でもない。ユリコ店長と二人きりで過ごせる。こんな幸せなことはないと思った。試験に合格したい理由が不純な気持ちで満たされた。
そしていよいよ、東京へ向けて出発した。
15 @aoikuma0518
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。15の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます