〇を濡らしてる二見さん
授業と授業の間の休み時間。催してきた私は、トイレに行くことにした。
友達とかいないのでもちろん、ひとりでだ。
近場のトイレに入っていくと、視界の端に二見さんを発見。
場所がトイレだというのにお姿が輝いてみえる。掃き溜めに鶴とは彼女のことを指してるのかもしれない。
そんな神々しい二見さんは、私になぞ気づく様子も見せずに、手を洗っていた。すぐ横にいた友達は先に済ませ、ブレザーの裾で拭いている。ハンカチ持ってないのか。
呆れながらも、私の中にある不安がよぎった。
二見さんもハンカチ持ってなかったら、どうしよう……。と。
どこかしら抜けてる二見さんのことだし、持ってなくても不思議じゃない。家に忘れてきてるとかぜんぜんあり得る。
私は事の成り行きを見守ろうと個室にこもり、上からこっそり覗く。
すると、恐れていた事態に直面した。ブレザーのポケットには目もくれず、洗面台で手を払っているのだ。
つまりそれは、ハンカチを持ってないということに他ならない。
「おっ、環もハンカチ忘れたのー?」
友達のツッコミに、二見さんは頷いている。これは非常にマズい。
なにがマズいってこのままトイレを出たら、二見さんの濡れた手がみんなの目にさらされてしまう。
衆人環視の中、
『あら、二見さんたらはしたないわね。そんなに手を濡らしちゃって』
『びしょびしょじゃない。指先から滴ってるじゃないの』
『いったいトイレでナニしてきたのかなー? あぁやだやだ、考えたくもない』
『てか濡れすぎでしょ(笑い)。いくら完璧超人だからって、保健体育の実践までしなくてもいいのに(笑い)』
――と、あらぬ噂を立てられちゃうんだ。陰口で恥ずかしい思いをさせられるに決まってる。
そんなことさせるか! 二見さんのクリーンなイメージは私が守るんだ!
私はメラメラと闘志を燃やし、自分のポケットからハンカチを取り出す。洗濯したばっかの綺麗なやつだ。
これを彼女の胸ポケット目掛け、投擲してやる。
うまい具合に宙を滑り、胸元の膨らみをも利用しながら、どうにかひっかけることに成功。
友達が目ざとくその様子に気付いた。
「って、なんだ。ハンカチあるじゃん! お母さんちゃんと用意してくれてたんじゃん」
指をさして指摘され、二見さんも気づいたらしい。
ちょっと苦笑いをしながらも、手を拭きふきしてた。
よかった、これで辱めを受けなくて済みますね!
私はホッと息をつきながら、トイレで用を足すことにした。いい加減漏れそうだったのだ。
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